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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2014

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街中で彼女の肩に手をかけようとしてするり抜けられた。雪菜は向かいのショーウィンドウに向かって突っ走っている。
「ねぇ、この服和真着たらすっごく似合うと思うんだけど」
 くったくのない笑顔を見せる雪菜はとても可愛い。可愛いけど。
 そのすり抜け術は意図的か? それとも天然?
 この間も映画館でさりげなく手に触れようとしたら、ちょうどいいタイミングでポップコーンをつまんでたし。
 まさか俺を避けてるってことはないよな?
 俺は悶々とした気持ちを抱えながら雪菜を追いかける。
 雪菜と付き合って一年近く。高校入学と同時に雪菜が県外に引っ越してしまったので、会えるのは月に一度あるかないかだ。だから雪菜と一緒の時間はとても貴重で俺の妄想スイッチも全開なわけで。
 なのに俺たちはラブラブからは程遠い付き合いをしている。手を繋いだのだってこれまでに数回だけ。とても健全過ぎる。つうか、これじゃ付き合う前と全然変わらないじゃないか!
 雪菜の神がかり的なガードにより、俺は今日も恋人らしいアクションを起こすこともできないままずるずると一日を過ごし――別れの時間を迎えてしまった。
 駅の下りホームで俺たちは最後の時間を過ごす。田舎に向かう駅のホーム人気がなくて、実質貸切状態だ。
「今日はすっごく楽しかった。また一緒に出かけようね」
「あ、ああ……」
 口ごもる俺をよそに銀色の電車がするりとホームに入っていく。雪菜がこの中に入ったらしばらく会えない。
 ならいっそのこと、ここでぐっと抱きしめてしまえともう一人の俺が囁く。勢いにまかせてその唇に触れて――それから。
 俺は作った拳にぐっと力をこめた。ささやかな夢をかなえるために強張った声で電車に向かう雪菜を呼び止める。
「えっと、そのお願いというか――」
「何?」
「キ、キ、きっ」
「き?」
 俺の不自然な呂律に雪菜が首を横にかしげていると、一陣の風がホームを抜けた。俺たちの視界に桃色がかすめる。桜の花びらがホームに舞い込んできたのだ。
 優雅に泳ぐ花びらに俺は一瞬だけ見とれる。列車の発車を知らせる音楽が鳴り響き、はっとする。雪菜を見送ろうと振り返った瞬間、唇に柔らかいものが触れた。前髪が目元をくすぐる。とても甘い匂い。
「じゃあね」
 軽やかな足取りで雪菜が電車の中へ飛び込んでいく。俺が最後に見たのはほんのり顔を上気させて、はにかんだ笑顔。すぐに扉が閉まると電車はすぐに発車した。
 俺は口元に手を当てる。一瞬だったけど――確かに感じた。これまでおあずけをくらっただけに破壊力がありすぎじゃねーか。
 不意打ちの攻撃に俺は思わずしゃがみこんでしまった。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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