2014
放課後、クラスの某女子グループに呼び止められた私はフレンドリーとは言い難い高圧的な視線で問いかけられた。
「椎名さんって河内とどういう関係?」
予想通りの展開に私は肩をすくめた。まぁ、声をかけられた時点で嫌な予感はしていたんだけど。正直言えば面倒くさい。
でもここできちんと答えないとこれからの学園生活に支障がきたすのだろう。ボッチに対して偏見はないけれど、できればそれは避けたい。それが私の心情だ。
私はひとつため息をついた。彼女たちの顔をひとりひとり確認したあとで、尤もらしい理由を並べてみた。
「どういうって……アイツとは同中なだけだけど? あとは部活仲間とか、クラスメイトとか?」
「本当に? やけに仲がいいみたいだけど?」
そんなに仲いいとは思わないんだけどなぁ。
私はひとり、心の中でごちる。
河内は女性に対して特に優しい。それは血筋というか、育った環境がアレなわけで。それにアイツは――
「あっれぇー? みんなそこで何してるの?」
ふいに背中側から間の抜けた声が響いた。彼女たちが一瞬ひるむ。声の主を瞬時に悟った私は後ろを振り返ることなく言葉を発した。
「河内説明してやって! 私とアンタは無関係だってことを」
「シーナは俺の恋人ですけど、なにか?」
河内の返答に女子たちの表情が一変した。私はと言うと開いた口が塞がらず。何言ってやがるんだこの阿呆、と叫ぼうとするけどそれは周りからの鋭い視線に阻まれた。
「やっぱり嘘だったんじゃない」
「騙してたのね。卑怯な」
「嘘じゃないって! 嘘ついているのはあっち!」
「だーかーら。コイツは俺のモノなの」
河内は悪戯っぽく笑うと、見せしめと言わんばかりに前にいた私を後ろから抱きしめる。でかい体で急に締め付けてくるものだから私は思わず声を上げた。
「ちょ、誰がアンタのモノだって! だいたいアンタは――」
女よりも男が好きなんでしょう? そう言葉を続けようとしたら突然顔の向きを変えられ 口を塞がれた――河内の唇で。
公衆の面前でのキスに彼女たちが声なき悲鳴を上げたのは無理もない。私は親の仕事の関係で海外に暮らしていた経験がある。ついでに言うなら友人も親戚も外国人が多いわけで。だからキスに対しての抵抗は他の人に比べたら少ない。
だからこそ、河内はソレに付け込んできたのだ。
自分の嗜好をカモフラージュするために私を生贄に選ぶなんて!
河内に触れたままの状態で私は眉を引きつらせる。必死になって引きはがそうとするけれど河内は余計に私にくっつくばかりで。
私は河内の唇を思いっきり噛んでやった。鋭くも甘い悲鳴が耳をつんざく。やっと唇が離れると鉄の香りが鼻をかすめた。
「シーナったら。そんなに激しいコトしなくてもいいじゃん」
ついた血を舌でなめずりながら河内は言う。睨み顔の私に不敵な笑みをのぞかせて。その色っぽい表情に彼女たちは反抗の術を失っていた。
学園内で王子と称される河内のあんな姿はさぞかし衝撃的だっただろう。
女子高生の情報網は恐ろしく早い。今日中にも私とキスしたことが学校中に広まるに違いない。
酸欠でくらくらする頭を抱えながら私は途方に暮れた。