2014
「このあいだはえほんとたくさんのおはな、ありがとう」
突然姪っ子に言われて私は反応に少しだけ困ってしまった。
確かにお礼を言われるようなことはしたと思う。この間、自分が昔使っていた本をあげたのだ。
ただ、私が渡したのは食べものや乗り物の絵本で、その中に花なんて一切出てこないのだ。
この子は一体何のことを言っているんだろう?
私がいぶかしげな顔で姪っ子を見つめていると、彼女は自分の部屋へ向かった。一冊の本を抱えて戻ってくる。
それは私が小さい頃に何度も読んだ絵本だった。
床に置かれた本がゆっくりと開かれる。古びた紙の匂いと共にぱらり、と何かが蠢いた。動物的な物とは違う、どこか優しくて優雅な動き。
再び本に着地したのはカラカラに渇いた草花たちだった。ちょっとでも触ったら壊れそうな四つ葉や黄色い花びらたちに私はあっ、と小さな声をあげる。
体の内側が過去にトリップした。
そういえば――小学校の頃、周りで押し花を作るのが流行っていたことがあった。
近くの土手にある蒲公英やクローバーを本や辞書に挟んで、それぞれの形や大きさを競ったりしていたっけ。
地味な遊びだったから一か月もしないうちに廃れてしまったけど――
「うわ、なっつかしいなぁ」
私はすっかり干からびた草花たちをまじまじと見つめる。
思えばよくこんなにも摘んだものだなぁ。よく見れば白い蒲公英もあるし。それに四つ葉のクローバーなんて幾つある?
私が邂逅にふけっていると、ふいに腕をつかまれた。
「おねえさん。リカ、もっともーっとおおはながみたい。ごほん、もっとある?」
「うーん、どうだろう?」
今姪っ子が持っている絵本は実家の物置を掃除中に出てきたものだ。当時使っていた教科書も出てきたけど、それ以前の物は出てこなかった。
つまり、これが私の持ち物の中で一番古いものだということ。
でも――
「じゃあさ、これからお花摘んできて、作ってみよう」
「いいの?」
目をきらきらと輝かせる姪っ子に私はにっこり笑う。
今じゃこんなにも見つけられないだろうけど。ひとつくらいならできるかも、そんな淡い期待を寄せながら。