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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0718

 魔法使いもも――その響きに小さな体が揺れる。
「ももちゃん。このままだとお城も壊れちゃうしお姉ちゃんもドラゴンに殺されちゃう。だからここから出して。だんごこーえんのおじいちゃんに教えてもらった魔法、まだ覚えてる?」
「だんごこーえん?」
「ももちゃんがいつも遊んでいる公園。滑り台で遊ぶのが大好きだったよね。そこに魔法使いのおじいちゃんが来て、ももちゃんに魔法を教えてくれたでしょ?」
「まほーつかいのおじいちゃん……」
 ももちゃんはしばらくの間考え込むような仕草をしていたが、突然、はっとしたような顔をする。
「もも、そこでおじーちゃんみたっ! もものまえでおだんごいっぱいたべてたー」
「教えてもらった魔法、まだ覚えてる?」
「うんっ」
「あれはモノを壊す魔法なの。ももちゃんの力でこの瓦礫を壊して。そこにある杖を持って、呪文を唱えて!」
 私の言葉にももちゃんがはいっと立派な返事をする。地面に転がっていた杖を拾い、すぐさま呪文を唱えた。隕石の接近で全てを粉砕することはできなかったけど、一番大きな瓦礫が割れたことで私はなんとか脱出することができた。自由になった私はももちゃんのもとへ走り、ぎゅうと抱きしめる。
「ありがとうももちゃん。あなたは最高の魔法使いよ」
「おねえちゃん、わたしなにをすればいいの?」  
「あのね、ドラゴンをおとなしくさせてほしいの。お願いって頼むだけでいいから。できるかな?」
「わかったー」
 ももちゃんは私に杖を返すと、くるりと踵を返す。荒ぶるドラゴンにありったけの声で叫んだ。
「ドラゴンさん、やめてぇーっ!」
 小さな子供の声に大きな獣の体がびくりと揺れる。ドラゴンがこちらを見た。ギラギラした目でぎろりと睨まれビビるももちゃんに私は大丈夫だから、と言葉を重ねる。
「ももちゃんなら絶対できるよ」
 手を握り、肩を抱くとももちゃんが小さく頷く。私達は改めてドラゴンと正面から向き合った。
「ドラゴンさん、このおしろこわさないでっ。ここがこわれちゃうとおかあさんがしごとできなくなっちゃう。そうしたらおかあさんおかねもらえなくなって、もも、すごくこまるの。おもちゃもおかしもかってもらえなくてすごーくこまるの。だからおとうさんのしごと、とらないで!!」
 ももちゃんの訴えは少々リアルで切羽詰まっている。最初「おかあさん」だったのが最後「おとうさん」になっていたのはももちゃんにかけた暗示が解けてきたせいだろう。ももちゃんの母親である従妹は専業主婦で旦那の給料が日々の家計がと嘆いていた。ももちゃんはそれを子供なりに感じとっていて、あんな台詞が出てきたのかもしれない。
 声に反応したのか、ドラゴンの動きが鈍くなる。
「こっちおいで。おとなしくしてくれたらももが『いいこいいこ』してあげる」 
 ももちゃんは両手を天に向かって広げた。ドラゴンが空中に体を留める。二、三回ほど翼を上下させたあとで大きく旋回しながら高度を下げていった。地上に降り立つと頭を垂れ、首をももちゃんに差し出す。ぐるう、と猫にも似た音がドラゴンから発せられる。ドラゴンさんいいこいいこ、と頭をなでるももちゃんにドラゴンはゆっくり瞼を閉じた。とても気持ちよさそうだ。
「やっ……た」
 私はほうとため息をつく。それと同時に腰が抜けた。気を張っていたせいなのか城壁にぶつかった時の痛みが今頃になってやってきた。うわ、半端なく痛いんですけど。骨とか折れてないよね?
 やがて、私達の周りが急に騒がしくなった。声のある方を見やると、建物の上でヤツが沢山の魔法使いを連れていた。その隣には地図を広げたスピンさんの姿が。さっき言ってた魔力が潜んでいる場所――『気』の抜け道に当たりをつけたのだろう。
 ヤツは一度私の方に視線を向けた。落ちついたブラックドラゴンを見据え納得したように頷く。ヤツが箒にまたがり空に飛び出すとあとから魔法使いがぞろぞろとついていった。私は痛む体に鞭を打ち立ちあがった。私なんか猫の手にもならないけど、何もしないよりかはずっとましだ。それに(最終的にはももちゃんの手柄だけど)ドラゴンと対峙したことで自信がついたというか。今なら何でも出来る――そんな気がしたのだ。
 私はクロムを呼び、その背にまたがった。すぐさまヤツを追いかけようとする。でも私はそれを一瞬躊躇った。ももちゃんが私たちの前に立ちはだかったからだ。
「もももいくっ。ももはまほうつかいだから。こまったひとをたすけるのがおしごとだもん。だからもももいくっ」
 必死で訴えるももちゃんに私は困ってしまった。別にももちゃんが一緒に来るのは構わない。魔力は私以上にあるし戦力として役に立つだろう。けど問題がひとつある。
 私は骨抜きにされたドラゴンを見た。このぶんだと、こいつもついていくと言いかねない。まかり間違って翼を広げられたら、せっかくの魔法も効かなくなる。さて、一体どうしたものか。
「あのね、ドラゴンさんがいると、みんなのお仕事の邪魔になっちゃうというか……ちょっと、ね」
 私が言葉を濁すと、ももちゃんはわかった、と言ってクレアさんの所へ走った。彼女から紐のようなものを一本貰って戻ってくると、片方をドラゴンの首に、もう一方をまだ若い苗木にくくりつけた。
「ドラゴンさん、ここからはなれないでね。このひもきったら『めっ』だからねっ」
 ももちゃんの指示にドラゴンは小さな唸り声をあげて固まった。ついさっきまで暴れまくり城を半壊させたブラックドラゴンも、今は細く長い紐を切らさないよう必死だ。その姿を見て思わず苦笑がこみあげた。小さな女の子に頭が上がらないブラックドラゴンって、傍から見たらすごい光景――って、感心してる場合じゃないんだっけ。
 私はももちゃんを抱き上げると自分の前に座らせた。小さな手を包み込むようにして手綱を握る。
「飛ぶからね。しっかりつかまってて」
「うんっ」
 クロムは翼を広げ大きく羽ばたいた。城を半周し海に向かって弾丸のごとく飛んでいく。あっという間に魔法使いの群衆を捕まえた。クロムは更に高度を上げ空に浮かぶ積乱雲を突き抜ける。箒で飛ぶ彼らを軽々越え、先頭にいるヤツに追いついた。ヤツがおひょ、と変な声を上げる。
「おまえら、追いかけてきたのかぃえ?」
「追いかけてきて悪い?」
「そんなことはないが――まぁ、手間が省けて丁度よかったわい」
 ヤツはさっきの私と似たような台詞を落としたあと、こっちじゃ、と言って私達を誘導した。ドラゴンが右に旋回すると景色が変わる。連れてこられたのは山間にある渓谷だった。そこは緑と水に溢れていて、見るからにマイナスイオンが放出されていそうな――癒しの空間だった。空気がとても澄んでいて、深呼吸すると体の芯から力がみなぎってくる。ここがパワースポット、なのだろうか?
 ヤツに促され、私達は地上に降り立った。気がつくとヤツと私たちのまわりを魔法使いたちが囲んで円陣を組んでいた。
「よいか。ワシが合図したら一斉に呪文を唱えろ。それまで目を閉じて『気』を集中させるのじゃ」
 偉大なる魔道士の言葉に、精鋭の魔法使い達は頷き瞼を閉じた。私もももちゃんも目を閉じて集中する。けど――ヤツはいつまで経っても合図の声をかけなかった。数分後、痺れをきらした私が片目だけ開け様子を伺う。するとヤツが私に向かってにたぁと笑うのが見えた。
 ヤツは私に向かってこう言う。
「ところでおまえ。先ほどはワシにとんでもないことをしたな」
「は?」
「さっきワシの胸ぐらを掴んで殺してやると言ったじゃろう? この国で偉大な魔道士と呼ばれるワシを亡きものにしようとするのは大罪に等しい。つまり、お仕置きじゃな」
「ちょ、ちょっ! 何でここでお仕置きされなきゃいけないの? 今はそれどころじゃないでしょ?」
「ここは魔力がたーっぷりあるからのう。いつもの何十倍の電力が……ほれっ」
 そう言ってヤツが自分の杖を振る。刹那、ばちばちと音を立てるでかい玉が私めがけて飛んできた。
「ぎゃーっ!やーめーてえええっ!」
 私はいつもの反動で防御魔法を唱えた。自分を守るシールドが張られると持っていた杖から光の銃弾がいくつも放たれ、電気玉にヒットする。バチバチという音とともに光の噴水が溢れた。その瞬間を、ヤツは逃さない。
「それぇっ、今じゃ!」
 ヤツの号令とともに円陣から魔法が解き放たれる。私と同じような銃弾が空に打ち上げられた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫――放出した七つの光は私の出したそれと結合した。点どうしが繋がり、線が広がるとやがて空に巨大な魔法陣が現れる。
 七色の光をまとった魔法陣は地上から溢れる『気』を吸い込んで膨張した。そして徐々に色を失い大気と同化していく。そして魔法陣が消えてなくなると、空に見えない壁が再び張りめぐらされた。


(使ったお題:12.積乱雲)

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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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