もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
目が覚めたあとも俺は闇の世界に捕らわれていた。
ここは――どこだ?
俺は痛む首を手で抑え、ゆっくりと起き上がる。暗闇に慣れるまで少し時間がかかったが、うっすら見える家具とその位置でここが何処なのか、すぐに分かった。
ここは二階で「ここ」に来た時に俺が使っていた部屋だ。今いるのはベッドの上――のはず。
俺は一つため息をつき、これまでの事を思い出す。あの時、車の中で彼女はうろたえていた。もしかしたら抵抗されるかも、そんな思いも走ったが、まさか気絶させられるとは。しかも運ばれた場所が「ここ」だなんて。
俺は額に手をあてたあと、前髪をかきむしる。彼女が俺との対峙場所に「ここ」を選んだのは単なる偶然なのだろうか、それとも意図的なものなのだろうか。
――とにかく、彼女を探そう。
俺はベッドから離れ、ゆっくりと歩き始める。木製の扉を開け、吹き抜けの廊下を歩く。突き当たりの螺旋階段を降りればそこはリビングだ。
部屋を照らすのは足元にある小さな間接照明だけ。テーブルには蝋燭が灯されていて、皿に盛られた料理たちを華やかに映し出す。それらは全て俺が演出した舞台だった。
俺は彼女の姿を探す。広いリビングをゆっくりと歩むと彼女がデッキに繋がる大きな吐き出し窓の前にいるのを見つけた。空を見上げる姿はどこか儚げで、危うい。
「紗耶香」
俺は名を呟くと彼女がこちらを見る。紗耶香はフォーマルドレスをまとっていた。肩を出したデザインは斬新で妖艶だ。二年前は見るのをためらった胸元も、今は恥ずかしがらずに見ることができる。紗耶香の肌は色白で、鎖骨が美しく浮かびあがっていた。
「ここは二年前と何も変わってないのね」
家の中をひととおり見たあとで、彼女は言う。
「火事で全て焼けてしまったと思ったのに――晃くんが直したの?」
その質問に俺は否と答える。俺にとってここは忌まわしき場所だ。二年前からは近づくこともできなかった。外観も内装も当時のまま元通りにしたのは俺の父。俺はついこの間まで俺はここが建て直されていたことすら知らなかった。
俺はここを訪れるのはあの日以来だと言う。紗耶香はそう、と呟いた。
「晃くんは……どこまで知ってるの?」
紗耶香の問いにそれは、と言いかけ俺は一旦口をつぐむ。そっと手を差し出した 。
「まずは食事をしよう、話はそれからだ」
彼女が俺の手を握る。俺は腕を引き、彼女をエスコートした。席に案内し椅子を引く。紗耶香はありがとう、と一言告げてから席についた。俺も自分の席に座り、お互いのグラスにシャンパンを注ぐ。グラスを傾け音を重ねた。
テーブルに飾られた料理たちは鮮やかな色彩で楽しませてくれる。スープもメインの肉もすっかり冷めてしまったが、味は温かい時と何ら変わらなかった。
そして紗耶香はデザートにケーキを買ってきてくれていた。小さな苺ケーキをふたつに切り分け皿に移す。俺が買ってきたマカロンを添えると、そこで初めて紗耶香が俺に誕生日おめでとう、と言ってくれた。
二人きりのパーティはとても静かだった。和やかな雰囲気に包まれ終わりを迎えた。そして俺達は現実に引き戻される。先に本題を切りだしたのは紗耶香だった。
「南亜理紗が私だって、いつから気づいていたの?」
「一週間位前、だろうか」
最初は自分の憶測に自信を持てなかった。確信を持ったのは本当についさっきのことだ。
「南亜理紗と初めて会った時、俺は彼女を追いかけようとして、護衛たちに止められた。あいつらが現れるのは俺の身に危険が迫った時だけだ。でもその時は何も起こらなかった。だから俺は奴らの行動の理由を問い詰めたんだ。そしたら――」
俺が肩を掴もうとした瞬間、南亜理紗が服のポケットから何かを出そうとしてたのを見たらしい。ヒガシの背中が被って、ほんの一瞬しか見えなかったけど、あれはスタンガンだった。だから俺を守ったんだ、と。そう北山は言っていた。
俺は北山の言葉をそのまま紗耶香に伝える。刹那、彼女の顔に微笑みが広がった。それは自分の犯行を認めたと言わんばかりの表情だった。
俺は言葉を続ける。
「最初は俺の家を妬む誰かが紗耶香のことを利用して俺を陥れているのかと思った。南亜理紗はその刺客かスパイじゃないかって。でも一緒にいるうちにそれは違うと感じた。南亜理紗からは殺意というものが全く感じられなかったからな。むしろ好意に近いものを感じていたし、懐かしさも感じていた。彼女をスパイにするにはあまりにも無防備すぎたんだ。南亜理紗は敵ではない、そう結論に至った時、他に考えられる可能性はひとつ。南亜理紗は蓮城紗耶香かもしれない――そういうことだ」
「なるほどね」
「何故、そんな物騒な物を持っているんだ?」
「私だって好きで持っているわけじゃないわ」
でも、持っていないと不安だから身につけていたと紗耶香は言う。
「私もね、晃くんと同じで二年前から命を狙われていたの。でも私の家は晃くんみたいに裕福じゃないから、自分の身を自分で守るしかなかった。それだけの話。
父が製薬会社の開発所長だったことは知ってるよね? 父の仕事は新薬の開発でね、娘の私が言うのもなんだけど父は優秀だった。これまでに難病の特効薬をいくつも作ってきたわ。
でもある日――父は研究していたウィルスの亜種を偶然作ってしまったの。それは実験の失敗作で、ある物質と結合すると増殖して沢山の人の 命を奪う危険なものだった。父はそれをすぐに処分する予定だったわ。でも、仲間の研究員に盗まれてしまって――某国のテロにそれが使われてしまったの。
テロのあと、父は数年かけてウイルスに対抗するワクチンを開発したわ。そしたら、ワクチンの存在を知ったテロリストたちが父を脅迫してきた。その研究書類を全て渡せって。もちろん父はそんな奴らに屈しなかったし、私達も父の意志を尊重した。でもそのせいで家族である私達の身にも危険が及んだの」
そこまで言ったあと、紗耶香は深いため息をついた。
(使ったお題:47.暗闇に慣れるまで)
ここは――どこだ?
俺は痛む首を手で抑え、ゆっくりと起き上がる。暗闇に慣れるまで少し時間がかかったが、うっすら見える家具とその位置でここが何処なのか、すぐに分かった。
ここは二階で「ここ」に来た時に俺が使っていた部屋だ。今いるのはベッドの上――のはず。
俺は一つため息をつき、これまでの事を思い出す。あの時、車の中で彼女はうろたえていた。もしかしたら抵抗されるかも、そんな思いも走ったが、まさか気絶させられるとは。しかも運ばれた場所が「ここ」だなんて。
俺は額に手をあてたあと、前髪をかきむしる。彼女が俺との対峙場所に「ここ」を選んだのは単なる偶然なのだろうか、それとも意図的なものなのだろうか。
――とにかく、彼女を探そう。
俺はベッドから離れ、ゆっくりと歩き始める。木製の扉を開け、吹き抜けの廊下を歩く。突き当たりの螺旋階段を降りればそこはリビングだ。
部屋を照らすのは足元にある小さな間接照明だけ。テーブルには蝋燭が灯されていて、皿に盛られた料理たちを華やかに映し出す。それらは全て俺が演出した舞台だった。
俺は彼女の姿を探す。広いリビングをゆっくりと歩むと彼女がデッキに繋がる大きな吐き出し窓の前にいるのを見つけた。空を見上げる姿はどこか儚げで、危うい。
「紗耶香」
俺は名を呟くと彼女がこちらを見る。紗耶香はフォーマルドレスをまとっていた。肩を出したデザインは斬新で妖艶だ。二年前は見るのをためらった胸元も、今は恥ずかしがらずに見ることができる。紗耶香の肌は色白で、鎖骨が美しく浮かびあがっていた。
「ここは二年前と何も変わってないのね」
家の中をひととおり見たあとで、彼女は言う。
「火事で全て焼けてしまったと思ったのに――晃くんが直したの?」
その質問に俺は否と答える。俺にとってここは忌まわしき場所だ。二年前からは近づくこともできなかった。外観も内装も当時のまま元通りにしたのは俺の父。俺はついこの間まで俺はここが建て直されていたことすら知らなかった。
俺はここを訪れるのはあの日以来だと言う。紗耶香はそう、と呟いた。
「晃くんは……どこまで知ってるの?」
紗耶香の問いにそれは、と言いかけ俺は一旦口をつぐむ。そっと手を差し出した 。
「まずは食事をしよう、話はそれからだ」
彼女が俺の手を握る。俺は腕を引き、彼女をエスコートした。席に案内し椅子を引く。紗耶香はありがとう、と一言告げてから席についた。俺も自分の席に座り、お互いのグラスにシャンパンを注ぐ。グラスを傾け音を重ねた。
テーブルに飾られた料理たちは鮮やかな色彩で楽しませてくれる。スープもメインの肉もすっかり冷めてしまったが、味は温かい時と何ら変わらなかった。
そして紗耶香はデザートにケーキを買ってきてくれていた。小さな苺ケーキをふたつに切り分け皿に移す。俺が買ってきたマカロンを添えると、そこで初めて紗耶香が俺に誕生日おめでとう、と言ってくれた。
二人きりのパーティはとても静かだった。和やかな雰囲気に包まれ終わりを迎えた。そして俺達は現実に引き戻される。先に本題を切りだしたのは紗耶香だった。
「南亜理紗が私だって、いつから気づいていたの?」
「一週間位前、だろうか」
最初は自分の憶測に自信を持てなかった。確信を持ったのは本当についさっきのことだ。
「南亜理紗と初めて会った時、俺は彼女を追いかけようとして、護衛たちに止められた。あいつらが現れるのは俺の身に危険が迫った時だけだ。でもその時は何も起こらなかった。だから俺は奴らの行動の理由を問い詰めたんだ。そしたら――」
俺が肩を掴もうとした瞬間、南亜理紗が服のポケットから何かを出そうとしてたのを見たらしい。ヒガシの背中が被って、ほんの一瞬しか見えなかったけど、あれはスタンガンだった。だから俺を守ったんだ、と。そう北山は言っていた。
俺は北山の言葉をそのまま紗耶香に伝える。刹那、彼女の顔に微笑みが広がった。それは自分の犯行を認めたと言わんばかりの表情だった。
俺は言葉を続ける。
「最初は俺の家を妬む誰かが紗耶香のことを利用して俺を陥れているのかと思った。南亜理紗はその刺客かスパイじゃないかって。でも一緒にいるうちにそれは違うと感じた。南亜理紗からは殺意というものが全く感じられなかったからな。むしろ好意に近いものを感じていたし、懐かしさも感じていた。彼女をスパイにするにはあまりにも無防備すぎたんだ。南亜理紗は敵ではない、そう結論に至った時、他に考えられる可能性はひとつ。南亜理紗は蓮城紗耶香かもしれない――そういうことだ」
「なるほどね」
「何故、そんな物騒な物を持っているんだ?」
「私だって好きで持っているわけじゃないわ」
でも、持っていないと不安だから身につけていたと紗耶香は言う。
「私もね、晃くんと同じで二年前から命を狙われていたの。でも私の家は晃くんみたいに裕福じゃないから、自分の身を自分で守るしかなかった。それだけの話。
父が製薬会社の開発所長だったことは知ってるよね? 父の仕事は新薬の開発でね、娘の私が言うのもなんだけど父は優秀だった。これまでに難病の特効薬をいくつも作ってきたわ。
でもある日――父は研究していたウィルスの亜種を偶然作ってしまったの。それは実験の失敗作で、ある物質と結合すると増殖して沢山の人の 命を奪う危険なものだった。父はそれをすぐに処分する予定だったわ。でも、仲間の研究員に盗まれてしまって――某国のテロにそれが使われてしまったの。
テロのあと、父は数年かけてウイルスに対抗するワクチンを開発したわ。そしたら、ワクチンの存在を知ったテロリストたちが父を脅迫してきた。その研究書類を全て渡せって。もちろん父はそんな奴らに屈しなかったし、私達も父の意志を尊重した。でもそのせいで家族である私達の身にも危険が及んだの」
そこまで言ったあと、紗耶香は深いため息をついた。
(使ったお題:47.暗闇に慣れるまで)
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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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