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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0603
 冬になるとこの町は一面の雪で覆われる。木々は雪の海となり姿を消す。家も頭からつま先まで埋もれ、外にも出られなくなる。
 だから皆、冬が訪れる前に大量の食料を蓄えていた。冬はそれを食べながら、編み物や本を読んで毎日を過ごす。本当にゆったりとした時間が流れる。人は家に籠る私達のことを「冬眠する民」と呼んでいた。

 部屋の中で私はひとつ背伸びをした。
 回りを雪で囲われているので、家の中は思いのほかあったかい。半袖でも大丈夫なくらいだ。
 ひとつ、大きなあくびが広がる。壊れた道具はすべて直したし、次の夏を迎える服も作った。棚に並んでいる本もそらで言えるくらい読みつぶした。今はやることが何もない。だからとにかく退屈。
 この家で冬を過ごしてからだいぶ時間が経っている。そろそろ春が来てもいい頃なのに、その兆しは一向に見えない。
 ホントにもう! いい加減溶けてくれないかしら。
 私は窓辺に立つと変わり映えのない景色に頬を寄せた。試しに硝子越しにはあっ、と息をふきかけるけど、そんなところで凍った雪が溶けるはずもなく。
 私は窓から離れ横になった。床をごろんごろんと転がり、壁にぶつかる。
 ああ、つまんない。早く春にならないかしら?
 雪が溶けたら外出もできる。幼馴染のヨモギに会うこともできる。ヨモギは今頃何をしているのだろう? ご飯をたべているのかしら? 本を読んでいるのかしら? あーあ、ヨモギに会いたいなぁ。
 私はもう一度床を転がった。ごろんごろん、ごろごろ、どすん。再び窓にぶつかる。
 すると細かい振動が私の体を伝った。
 轟音が家を揺らす。それは雪解けを知らせる音だった。私の心音が高まる。窓に再び張り付くと、真っ白なキャンバスにひびが入っているのが確認できた。細い光が家の中に差し込む。
 どどどどど、どどどどど。
 ひびが更に大きくなる。砕かれた氷はぽろり、ぽろりと剥がれるように落ちていく。雪が全てなくなると、私は窓を全開にした。
 雪で冷やされた風とともに春の香りが漂ってくる。雪の海にぽつりぽつり浮かぶのは土の島。かき分けるように背を伸ばすのは春を知らせる草花たち。その瑞々しさに私の心は躍る。裸足のまま窓から外へ飛び出した。雪が残っていたせいで足裏が冷たかったけど、今は外に出られた喜びの方が勝っていた。
 私は家の回りを何週かしたあと、ヨモギの家に向かった。
 誰よりも早く春を知らせるために。(1015文字)

季節はすっかり夏めいてきましたが、タイトルみたら雪景色がでてきたという。オノマトペをやや多めにしてみた。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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