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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0614
 その日、私は相当へこんでいた。仕事で重大なミスをしてしまい、取引先にも上司にも叱られてしまったのだ。
 誰もいない職場でこっそり泣いていると、立木が現れた。立木は隣りの部署で働いている。私の同期であり、学生時代の友人でもあった。どうした? と聞かれたので私はなんでもない、と答える。それでも溢れる涙はなかなか止まらなかった。
 立木が私の隣りの席に座る。いつもならそこでからかってくる所だが、今日は何もしてこなかった。叱りや励ましの言葉をかけるわけでもない。ただ、私の側にいて、泣きやむまで待っててくれた。
 だいぶ落ち着いた私は、ずっと黙っていた理由を聞いてみた。すると立木はこう答えたのだ。
「お前が泣くのって『悔しかった』って時だろ? おまえ、昔っから自分厳しいじゃん。自分でハードル上げて、何もかも抱え込んじゃって。でもそういう弱音絶対吐かないし――というか、吐くのが嫌だろ? それに、おまえは何があっても復活するしな。時がきたら自分から話すんじゃないかなって。だから今は何も聞かない方がいいかなって。そう思っただけ」
「……私の事、知ったように言うのね」
「きっと、腐れ縁ってやつなんだろうね」
 立木はそう言ってにっと笑う。あいつの笑う顔は柴犬に似ている。犬好きな私はそれを見るたびに癒されていた。久々に見た笑顔はとても懐かしくて、愛おしい。
 私の気持ちのたがが外れた。閉じ込めていた気持ちが溢れ出す。
 気がつくと私は立木に抱きつきキスをしていた。すき、と言葉を紡いでいた。ふたり分の重さに耐えられなくなった椅子が横倒しになる。床に頭をぶつけた所で私ははっとした。
 同じように頭をぶつけた立木が私ごと体を起こす。私は立木を突き飛ばし、逃げるように会社を飛び出す。駅までの道を走りながら、私は自分を叱咤した。
 なんであんなことをしちゃったんだろう。私の馬鹿馬鹿!
 立木には彼女がいる。彼女は私の隣りの席で働いていた。立木に彼女を紹介したのも私だ。付き合ってるんだと話を聞いた時、最初は自分のことのように嬉しかった。立木はいい「ともだち」だったし、彼女は可愛い後輩だし。赤い糸を結べてとってもいい気分だった。それなのに。何時の日からかそれを後悔する自分がいたなんて――情けないとしか言いようがない。
 私は自分の気持ちを閉じ込めた。箱にしまって、鎖を巻いて、頑丈な鍵をかけた。それなのに、立木の言葉はその鍵を簡単に壊してしまった。
 明日からどうしよう。私は立木の顔をまっすぐ見ることはできない。立木も戸惑うに違いない。やっと「ともだち」まで戻したのに。もう「ともだち」にすら戻れない。
 私は自分のしたことを激しく後悔していた。(1125文字)

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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