もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
深夜に彼の携帯が鳴った。
「あ、久しぶり」
次に彼の口から出た名に私はひどく動揺する。高校時代の親友の名だったからだ。その人については私も会ったことがあるが、頭もさながらパンチのよく効いた人だった。サングラスにアロハシャツ、首にかけた金のネックレスが今も印象深い。一目でそっちの世界の人だと悟った。
私に一抹の不安がよぎる。心配そうに見上げると、彼は大丈夫、と言ってから隣りの部屋へ行った。大丈夫と言われても気になるし不安はつきない。
私は扉に張りつき、聞き耳を立てていた。
「で、話ってのは? うん。そっちは? まだ『店』は続けているの?」
彼の言う『店』というのは健康食品の会社のことだ。いかにも怪しい商品を勝手に送りつけ、相手を脅して金額をせしめていた。親友の手前、彼も商品を幾つか購入し、十万単位のお金を支払っていたらしい。
その後、親友からは経営が立ち行かないから金を貸してほしいと泣きつかれた。人の良すぎる彼は親友の為に借金までして金を工面したわけだが、渡してすぐに社長である親が自己破産して金をチャラにされた。これは計画的な犯行としか言いようがない。
私としてはこれ以上関わって欲しくない人間だった。
「そう、家族が病気に。手術代って? そんなにかかるんだ。それは大変だね。
僕もお金を工面できればいいけど――貯金?まぁなくもない。実を言うと二年前から積んでいる定期がある」
話を聞いていた私は扉を開けて彼の頭を叩きたくなった。
馬鹿、何正直に話しているのよ。
「確かにそのお金があれば君の家族は助かるかもしれない。でもこのお金は貸さないよ。
これは今付き合っている彼女との未来の為に貯めているお金だから。そう、結婚資金だ。近いうちプロポーズしようと思ってる。
ああ、親友より彼女の方が大事だ。これからもね。
今までの僕は困っている人に手を差し伸べてきた。必要ならお金も貸したし、そのための借金もした。でもそれは自分で責任を持てたからだ。万が一騙されても傷つくのが僕一人で済んだからだ。
でも僕には大切な人ができた。彼女は人のことをまず疑えって、簡単に信じるなって言うんだ。僕とは正反対の人間だよね。最初僕は彼女は哀れな人だと思ってた。けどそれは違うってすぐ分かったんだ。僕が性善説を信じて生きてるように、彼女は性悪説を地で生きているだけだったんだ。
だから君にお金を貸した時、彼女は僕のことを滅茶苦茶けなしたよ。騙されたと分かってて何故何も言わないんだって。自分のことのように怒って悔しがって、僕のために泣いてくれたんだ。自分のことをこんなにも思ってくれたのは彼女が初めてだったんだよ。
前回の件で僕は一つ決心したんだ。大切な人を悲しませることはもうしないって。
だから金は貸さないよ。君の言ってることが真実だとしても、だ。人でなし?ああ、なんとでも言うがいいさ。君の家族がどうなろうとも僕には関係ない。大切な人が幸せになるなら僕は人を裏切る側にもなってみせるよ。
悪いけど、今の話は録音させてもらっている。今日は見逃すけど、今後訳の分からない商品を売り付けたり金を無心するようなら法的手段を取らせてもらうから。こんな形で別れるのは残念だけど、君と話すことはもうないから切るよ。じゃあ」
電話を切る音と同時に扉が揺れる。彼の深いため息がこちらにも届いた。慣れない啖呵を切って疲れてしまったのだろう。たまらず、私は声をかけた。
「大丈夫?」
「うん――もしかして、話聞いてた?」
頷く私に変な話聞かせちゃったな、と彼が苦笑した。私は首を横に振る。カッコよかったよ、と言葉を添えて。
彼が親友に突きつけたのは絶縁だけど、私にとっては最高の殺し文句だった。(1554文字)
このお題引いた時点で難産確定。恋愛スキル高くないし。こんな話だし。文字数もアレで時間ぎりぎりで推敲もほとんどできず……穴があったら入りたい
「あ、久しぶり」
次に彼の口から出た名に私はひどく動揺する。高校時代の親友の名だったからだ。その人については私も会ったことがあるが、頭もさながらパンチのよく効いた人だった。サングラスにアロハシャツ、首にかけた金のネックレスが今も印象深い。一目でそっちの世界の人だと悟った。
私に一抹の不安がよぎる。心配そうに見上げると、彼は大丈夫、と言ってから隣りの部屋へ行った。大丈夫と言われても気になるし不安はつきない。
私は扉に張りつき、聞き耳を立てていた。
「で、話ってのは? うん。そっちは? まだ『店』は続けているの?」
彼の言う『店』というのは健康食品の会社のことだ。いかにも怪しい商品を勝手に送りつけ、相手を脅して金額をせしめていた。親友の手前、彼も商品を幾つか購入し、十万単位のお金を支払っていたらしい。
その後、親友からは経営が立ち行かないから金を貸してほしいと泣きつかれた。人の良すぎる彼は親友の為に借金までして金を工面したわけだが、渡してすぐに社長である親が自己破産して金をチャラにされた。これは計画的な犯行としか言いようがない。
私としてはこれ以上関わって欲しくない人間だった。
「そう、家族が病気に。手術代って? そんなにかかるんだ。それは大変だね。
僕もお金を工面できればいいけど――貯金?まぁなくもない。実を言うと二年前から積んでいる定期がある」
話を聞いていた私は扉を開けて彼の頭を叩きたくなった。
馬鹿、何正直に話しているのよ。
「確かにそのお金があれば君の家族は助かるかもしれない。でもこのお金は貸さないよ。
これは今付き合っている彼女との未来の為に貯めているお金だから。そう、結婚資金だ。近いうちプロポーズしようと思ってる。
ああ、親友より彼女の方が大事だ。これからもね。
今までの僕は困っている人に手を差し伸べてきた。必要ならお金も貸したし、そのための借金もした。でもそれは自分で責任を持てたからだ。万が一騙されても傷つくのが僕一人で済んだからだ。
でも僕には大切な人ができた。彼女は人のことをまず疑えって、簡単に信じるなって言うんだ。僕とは正反対の人間だよね。最初僕は彼女は哀れな人だと思ってた。けどそれは違うってすぐ分かったんだ。僕が性善説を信じて生きてるように、彼女は性悪説を地で生きているだけだったんだ。
だから君にお金を貸した時、彼女は僕のことを滅茶苦茶けなしたよ。騙されたと分かってて何故何も言わないんだって。自分のことのように怒って悔しがって、僕のために泣いてくれたんだ。自分のことをこんなにも思ってくれたのは彼女が初めてだったんだよ。
前回の件で僕は一つ決心したんだ。大切な人を悲しませることはもうしないって。
だから金は貸さないよ。君の言ってることが真実だとしても、だ。人でなし?ああ、なんとでも言うがいいさ。君の家族がどうなろうとも僕には関係ない。大切な人が幸せになるなら僕は人を裏切る側にもなってみせるよ。
悪いけど、今の話は録音させてもらっている。今日は見逃すけど、今後訳の分からない商品を売り付けたり金を無心するようなら法的手段を取らせてもらうから。こんな形で別れるのは残念だけど、君と話すことはもうないから切るよ。じゃあ」
電話を切る音と同時に扉が揺れる。彼の深いため息がこちらにも届いた。慣れない啖呵を切って疲れてしまったのだろう。たまらず、私は声をかけた。
「大丈夫?」
「うん――もしかして、話聞いてた?」
頷く私に変な話聞かせちゃったな、と彼が苦笑した。私は首を横に振る。カッコよかったよ、と言葉を添えて。
彼が親友に突きつけたのは絶縁だけど、私にとっては最高の殺し文句だった。(1554文字)
このお題引いた時点で難産確定。恋愛スキル高くないし。こんな話だし。文字数もアレで時間ぎりぎりで推敲もほとんどできず……穴があったら入りたい
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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