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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0601
 ブラウスの釦が取れてしまったので、私は自分でつけ直すことにした。
 彼が目の前にいるため、その場でブラウスを脱ぐことはできない。私は服を着たまま針を動かすことにした。白い糸を針穴に通し布に留める。利き手とは反対の手を使っているのでなかなか難しい。なんとか釦を付けることができたが、最後の最後で鋏を落としてしまった。
 私の口からあ、と言葉が漏れる。同時に鋏の刃が糸を断ってしまった。私の小指に絡まっていた赤い糸を。
「どうした?」
 私が急に青ざめたので彼が聞いてくる。
「どうしよう、『赤い糸』が……切れちゃった」
「なんだ。そんなこと」
「『そんなこと』じゃない!」
 私はぴしゃりと言い放った。
「切れたのは『運命の赤い糸』なんだよ! ずっと貴方と繋がっていたのに。そんな言い方しないで!」
 声を荒げたせいか彼は黙りこんでしまった。ちょっと言い過ぎたかもしれない。でもその時の私は彼を気づかう余裕などなかった。
「結べばまたくっつくかも」
 私は切れた糸の先端を持ち、彼のそれと重ね絡めようとする。でも私の方の糸が短すぎて上手く結べない。私が躍起になっていると、彼がため息をついた。
「もういいよ。ていうかさ、もう終わりにしない?」
「え?」
「そーやって何でもかんでも『運命』のせいにするの。出会ったのも運命、付き合ったのも運命。そりゃお前には小指についてる糸が見えるかもしれないよ。けどさ、俺には全然見えないわけよ。そこへ毎日糸だ運命だって連呼されると萎えるっていうかー、重いんだよね。それにお前、俺のこと全然わかってないし」
「どういう、こと?」
 戸惑う私に彼はふっと笑う。
「俺がお前とつき合ったのは、お前の顔が可愛かっただけだから。そうじゃなかったら絶対付き合わないっての」
 じゃあ、と言って彼は踵を返した。手をひらひらとさせる。その小指に赤い糸をたなびかせながら。
「待って……」
 私は針と鋏をポケットにしまう。教室を出ると彼のあとを追いかけた。
 何度名を呼んでも彼は立ち止まらない。振り返ろうともしない。そのうち彼の赤い糸が動き出した。糸は彼を追い越し、廊下を駆け抜けた。やがてひとりの女の小指に絡まる。その女は彼と同じクラスだった。
 彼は私に見せつけるかのように女に近づき肩を寄せる。女は突然のことに驚きはしたが、まんざらでもなさそうだ。
 そんな。彼の運命の人は私ではないなんて。
 そんなのはありえない! 認めない!
 私はポケットの中にあった鋏を握りしめると、二人の前に突き出した。(1062文字)

赤い糸に翻弄される女の話。ちょっと病んでる感じで。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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