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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0515
「新條ってさ、もしかして俺のこと嫌い?」
 鎌田の問いかけに私は息を呑む。「違う」と言えばいいのに、その一言を躊躇った。言えば負ける、そんな気がしたのだ。
 長い沈黙が続く。私はただ固まるだけ。口を結び、嵐が過ぎるのをひたすら待つ。
「はっきり言えよ。その方がすっきりする」
 俺のこと嫌い? 二度目の質問に私は首を僅かに傾けた――縦に。それが精一杯だった。鎌田にやりきれない表情が浮かぶ。
「わかった。もういい」
 廊下が急に騒がしくなった。がらりと鳴る扉。教室に入ってきたのは鎌田のファンと名乗る女達だった。
「いたいた。これから皆でお好み焼き食べにいくんだけど、鎌田も一緒にいかない?」
「いいよ」
 鎌田の即答に黄色い悲鳴が上がる。普段はそう言うのを嫌がるのに今日誘いを受けたのは私に対する当てつけだろう。
 女達が鎌田を囲う。彼女らの優越感に浸る目が私に突き刺さる。鎌田は私の方を一度も見なかった。
 騒ぎが収まると私ひとりが残された。西日が机を照らす。下校を促す音楽がとても遠く感じる。
 最初、私は鎌田にいい印象を持たなかった。
 鎌田は容姿は派手、性格は軟派という、私とは正反対の人間だった。連絡事項程度の話はあっても、深く関わることはないと思っていた。
 それなのに。
 一度、鎌田に勉強を見てほしいと頼まれたことがある。二年の終わりのことだ。
 鎌田の頭の中は中学生レベルで、最初は目も当てられなかった。あまりの出来の悪さに私が苛立っていると、鎌田はごめんと謝った。
 「俺がバカだから。新條もすげえ迷惑だよな。でもどうしても行きたい大学があるんだ。今からでも間に合うかな?」
 その言葉ににさすがにばつが悪くなって、それからは真面目に向き合った。鎌田が手を焼いていた数式も最後の方は自分で答えを導けるようになった。 
 そのあと行われた期末テストで鎌田は成績がかなり上がったらしい。教えたのは一時間だけなのに鎌田は私に感謝していた。突然大げさなハグをされて、それからジュースを奢ってくれて――私の中でもやもやとしたものが生まれたのはその時だった。 
 それから二年になって同じクラスになると、鎌田は私に絡むようになった。最初はからかわれているだけだと思ったが、ある日振り向きざまにキスをされ「本気だから」と囁かれた。その裏に隠れているものに気づかない私ではない。その日から私は鎌田を避けるようになった。
 中間テストの日取りが決まると鎌田はまた私に勉強を乞うようになった。それもクラスメイトの前で堂々と。一つの机に二人向き合っていると、どこからか野次が飛ぶ。取り巻きたちの鋭い視線は苦痛だった。様々なことに神経をすり減らし体調を崩し――結果、テストの成績が落ちた。自分の中で最低の出来だった。
 そして今日、私は鎌田に言った。もうやめて欲しいと。これ以上私を困らせないでと。
 明日から鎌田が私に絡むことはないだろう。それは私自身が望んだことだ。喜ぶべきはずなのに、心は一向に晴れない。ぐちゃぐちゃになるばかりだ。私は鎌田を傷つけたことをすごく後悔している。
 私はこんな人間じゃない。もっと高い理想を持っていたはず。なのに。なのに何故? こんなにも苦しい思いをしなければならない?
 「違う」
 私は気づいていた。気づいていながら気づかないフリをしていた。自分の中に湧きおこる感情の、その名前を。
 私は彼女らのような人間に成り下がりたくなかった。格下と思っていた男に心を乱されるのが許せなかった。堕ちた自分が自分でなくなってしまうのが怖かった。
 涙が頬を伝う。ひとつ、ふたつと鎌田の机にこぼれていく。
 私は声を押し殺して泣き続けた。(1531文字)


自尊心の高い少女の初恋なるもの。結びの一文が決まらずだらだらしてたら時間切れ~

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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