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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0528
 その日の私は不安が渦巻いていた。東吾の携帯に電話をかけても通じないのだ。耳元からは「電源が切れている為かかりません」というお決まりの文句が流れるばかり。たぶん、途中で充電が切れたのだろう。この分だと昼間送ったメールを読んでいるかどうかも怪しい。
 ぶっちゃけ、電話もメールの内容も大したものじゃない。けど――
 一度バイト先に行ってみようか?
 ふとそんな思いがよぎる。でも直ぐに思い直した。彼女の身分振りかざして彼氏の仕事場に乗り込むのは私の柄じゃない。そこまでして東吾を束縛するつもりはない。
 そう考える一方で、もう一人の自分が囁いた。束縛しないって言ってるけど、自分に都合のいい言い訳をしているだけじゃないの? 東吾と一緒にいる「あの女」の顔を見たくないの? と。
 あの女とは東吾と同じファミレスで働いている女子高生のことだ。一度写メで顔を見たけど、可もなく不可もない地味目の女。東吾はあの女の教育係だった。
 東吾曰く、あの女は今の自分が嫌いなのだと言う。学校に馴染めず、やりたいことも見つからない。このままだと、置いてきぼりにされそうで怖い――そういったことを言ったらしい。
 東吾はその日バイト先であったことを私に話す。最初はへぇそうなんだ、で済んだ内容も東吾の就職が決まってからは少しずつ変わった。そのうちシフト変更や残業が増え、その理由の傍らにあの女の名が出るようになり、私はあの女にもやもやとした感情を抱くようになった。それが嫉妬だということは自分でも分かっていた。
 その人、東吾に気があるんじゃない?冗談半分で私が言うと、東吾はまさか、と笑った。相手は女子高生だよ。あっちから見たら俺オジサンだろ?その答えに私は苦笑した。東吾はそういった事にてんで鈍感なのだ。まぁそれが東吾の持ち味なのだけど。そのおかげで私が救われたのも事実だ。
 東吾は男女かまわず優しい。相手を決してないがしろにしないし、相手の相談に真摯に向き合う。無償の優しさに惹かれた女性は過去にもいた。でも彼女は自分の気持ちに葛藤を抱いていたし、彼女は東吾への好意も私への背徳も嫉妬も全部自分の中に閉じ込めて、告白もせず私たちから離れていった。
 あの女は彼女に似てると東吾は言う。でも私はそう思わない。あの女の言動からは東吾に対する「迷い」が見えてこない。だからこそ私は不安になるし苛立ちもする。それが杞憂だってことも分かっている。東吾の気持ちはいつだって私の方を向いているってことも。
 けど私の中では「まさか」の事態が拭えないのだ。顔を合わせる時間が少なくなったなら尚更のこと。同棲を始めたのにすれ違ってばかりで――これじゃ一人暮らしの時と何ら変わらない。
「さみしいなぁ……」
 私は携帯を机に伏せ、ため息をつく。昨日まで私はこのやり場のない思いを酒にぶつけていた。当てつけに男友達と飲んでいたけど、東吾はきっと私の本心に気づいてない。
 東吾の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿阿呆ぉ! 今日こそ家出してやるんだから!
 とはいえ、誰の所に転がりこめばいい?
 私は自分に問いかける。すぐに思い浮かんだのは離れてしまった親友の顔だった。(1313文字)

本サイト連載中「プレゼント」より芽衣子視点。このような経緯で映画館にいた綾にメールが届いたという。この時点で東吾はまだ仕事中。携帯も解約されてなかった。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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