もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
「お持たせだけどどうぞ」
そう言って礼華さんがお茶受けを差し出した。それぞれの席にロールケーキが二種類置かれる。一つはチョコレート味、もう一つは限定のクリームチーズ味だ。
くそう、海斗のやつ。俺が狙っていたチーズクリームを買いやがったな。
俺は双子の弟を睨む。お互い別々に出発したのに、一歩出遅れたせいで俺は目的の品を買えなかった。クリームチーズは礼華さんの大好物なのに。
「今日の夕飯はどうだった?」
「とても美味しかったです」
「最高でした。毎日食べてもいいくらい」
俺達の言葉に礼華さんは満足そうだ。この春に短大を卒業した礼華さんは栄養士になるべく、更なる勉強を続けていた。
「じゃあ、今日のメニューで何が一番よかった?」
その質問に俺は「牛すね肉のトマト煮込み」と答えた。声がユニゾンする。俺は海斗と顔を見合わせた。
「さすが双子ね。好みも一緒」
嬉しそうな礼華さんの表情にお互いばつが悪くなった。仕方なく、俺達は出されたロールケーキにかぶりつく。会話などない。そっぽを向いて茶を飲んでいると、礼華さんがため息をついた。
「二人ともいつまで意地張ってるのよ。何で私が二人を夕食に誘ったか分かるよね? いい加減仲直りしなさい」
礼華さんのたしなめに俺達は肩をすくめる。しばらくの沈黙。口火をきったのは海斗が先だった。
「陸があやまれば許してやってもいい」
「それはこっちの台詞だ。海こそ土下座しろ」
「何?」
「何だと?」
「やめなさい!」
張りのある声に俺達は委縮した。
「貴方達、もう中学生でしょ? 人前で兄弟喧嘩して恥ずかしくないの? というか、喧嘩になった原因は何なわけ?」
合気道をしているせいか、礼華さんの声はよく通る。礼華さんに詰め寄られ、俺達は閉口した。原因を目の前にして実は、なんて言えるわけがない。
そもそもの発端は一週間前のこと。海斗は俺に内緒で礼華さんに会っていた。
双子の悲しい性なのか、俺と海斗は同じ人を好きになることが多い。だから俺達はルールを作った。同じ人を好きになった時は正々堂々と戦うこと。抜けがけは一切しないこと。なのに、今回それを破られた。
俺は腹いせに海斗の携帯に保存してあった礼華さんの画像を全て消去した。保存してるであろうSDカードも破壊してやった。海斗は烈火のごとく怒ったが、これはルールを破った報いだ。ざまあみろ。
俺達兄弟がそろって貝になっていると礼華さんが、まぁいいわ。と話を打ち切った。実は二人を呼んだ理由はもう一つあるの、と続けて言う。
「前から二人に合気道教えるって約束していたでしょう? でも私、それができなくなっちゃったの」
「え?」
「なんで?」
「お世話になった先生が怪我で入院して、しばらくの間先生の穴埋めをしなければならないの。ごめんね」
そう言って謝る礼華さんに俺達は首を横に振った。
「そんな、そういった理由なら全然OKです。気にしないで」と俺。
「そうそう。教えてもらうのはいつでもいいんだし」と海斗。
すると礼華さんはにっこり笑った。
「ああ、そのことなら大丈夫。代わりの先生を用意したから」
その時、タイミング良くインターホンが鳴った。
「あ、来たみたい。ちょっと待って」
礼華さんが部屋を出て行く。居心地の悪い時間がしばらく続いたあとで、再び扉が開く。礼華さんが連れてきたのは俺たちよりもひとまわり年上の男だった。
「こちら、平山修二さん。私の大学の先輩で今は師範をしているの」
「君達が陸斗君と海斗君だね。君達のことは礼華からよく聞いているよ。合気道に興味があるんだって?」
「そうなの。二人とも若いから、鍛えがいあるわよー」
「そりゃ楽しみだ」
平山という男は礼華さんの前で終始ご機嫌だった。礼華さんの頬が上気している。二人を包み込む雰囲気は何と言うか、先輩と後輩の域を超えているような。
「そうだ礼華。この間ウチに来た時、これ忘れてっただろう?」
「ああ、片方なくて探してたのよー ありがとう」
礼華さんが平山から受け取ったのは天然石のピアスだった。小さな石を留め具で抑えるタイプだ。普通、留め具のついたピアスを他人の家に置き忘れることなんてない。ということは礼華さんが自分で外したというわけで――え? ええっ!
俺は口をわなわなとふるわせる。ちらり隣りを見ると海斗が泡を食っていた。
こうして俺達の淡い恋は終わったのである。(1834文字)
双子の兄弟恋に破れる、な話。
そう言って礼華さんがお茶受けを差し出した。それぞれの席にロールケーキが二種類置かれる。一つはチョコレート味、もう一つは限定のクリームチーズ味だ。
くそう、海斗のやつ。俺が狙っていたチーズクリームを買いやがったな。
俺は双子の弟を睨む。お互い別々に出発したのに、一歩出遅れたせいで俺は目的の品を買えなかった。クリームチーズは礼華さんの大好物なのに。
「今日の夕飯はどうだった?」
「とても美味しかったです」
「最高でした。毎日食べてもいいくらい」
俺達の言葉に礼華さんは満足そうだ。この春に短大を卒業した礼華さんは栄養士になるべく、更なる勉強を続けていた。
「じゃあ、今日のメニューで何が一番よかった?」
その質問に俺は「牛すね肉のトマト煮込み」と答えた。声がユニゾンする。俺は海斗と顔を見合わせた。
「さすが双子ね。好みも一緒」
嬉しそうな礼華さんの表情にお互いばつが悪くなった。仕方なく、俺達は出されたロールケーキにかぶりつく。会話などない。そっぽを向いて茶を飲んでいると、礼華さんがため息をついた。
「二人ともいつまで意地張ってるのよ。何で私が二人を夕食に誘ったか分かるよね? いい加減仲直りしなさい」
礼華さんのたしなめに俺達は肩をすくめる。しばらくの沈黙。口火をきったのは海斗が先だった。
「陸があやまれば許してやってもいい」
「それはこっちの台詞だ。海こそ土下座しろ」
「何?」
「何だと?」
「やめなさい!」
張りのある声に俺達は委縮した。
「貴方達、もう中学生でしょ? 人前で兄弟喧嘩して恥ずかしくないの? というか、喧嘩になった原因は何なわけ?」
合気道をしているせいか、礼華さんの声はよく通る。礼華さんに詰め寄られ、俺達は閉口した。原因を目の前にして実は、なんて言えるわけがない。
そもそもの発端は一週間前のこと。海斗は俺に内緒で礼華さんに会っていた。
双子の悲しい性なのか、俺と海斗は同じ人を好きになることが多い。だから俺達はルールを作った。同じ人を好きになった時は正々堂々と戦うこと。抜けがけは一切しないこと。なのに、今回それを破られた。
俺は腹いせに海斗の携帯に保存してあった礼華さんの画像を全て消去した。保存してるであろうSDカードも破壊してやった。海斗は烈火のごとく怒ったが、これはルールを破った報いだ。ざまあみろ。
俺達兄弟がそろって貝になっていると礼華さんが、まぁいいわ。と話を打ち切った。実は二人を呼んだ理由はもう一つあるの、と続けて言う。
「前から二人に合気道教えるって約束していたでしょう? でも私、それができなくなっちゃったの」
「え?」
「なんで?」
「お世話になった先生が怪我で入院して、しばらくの間先生の穴埋めをしなければならないの。ごめんね」
そう言って謝る礼華さんに俺達は首を横に振った。
「そんな、そういった理由なら全然OKです。気にしないで」と俺。
「そうそう。教えてもらうのはいつでもいいんだし」と海斗。
すると礼華さんはにっこり笑った。
「ああ、そのことなら大丈夫。代わりの先生を用意したから」
その時、タイミング良くインターホンが鳴った。
「あ、来たみたい。ちょっと待って」
礼華さんが部屋を出て行く。居心地の悪い時間がしばらく続いたあとで、再び扉が開く。礼華さんが連れてきたのは俺たちよりもひとまわり年上の男だった。
「こちら、平山修二さん。私の大学の先輩で今は師範をしているの」
「君達が陸斗君と海斗君だね。君達のことは礼華からよく聞いているよ。合気道に興味があるんだって?」
「そうなの。二人とも若いから、鍛えがいあるわよー」
「そりゃ楽しみだ」
平山という男は礼華さんの前で終始ご機嫌だった。礼華さんの頬が上気している。二人を包み込む雰囲気は何と言うか、先輩と後輩の域を超えているような。
「そうだ礼華。この間ウチに来た時、これ忘れてっただろう?」
「ああ、片方なくて探してたのよー ありがとう」
礼華さんが平山から受け取ったのは天然石のピアスだった。小さな石を留め具で抑えるタイプだ。普通、留め具のついたピアスを他人の家に置き忘れることなんてない。ということは礼華さんが自分で外したというわけで――え? ええっ!
俺は口をわなわなとふるわせる。ちらり隣りを見ると海斗が泡を食っていた。
こうして俺達の淡い恋は終わったのである。(1834文字)
双子の兄弟恋に破れる、な話。
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プロフィール
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和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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