もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
バーでワインをたしなんでいると、カウンターから視線を感じた。さっきからあたしを見ている男がいる。顔はバッチリストライクゾーン。でもどこかひ弱そう。
「ねぇ」
酔った勢いもあったのか、あたしは男に声をかけた。
「さっきからあたしのこと見てるけど、何か用?」
あたしは男を睨む。すると、男はあたしの元へ歩み寄りこう答えた。
「そのピアス――もしかしてお守り?」
その問いかけにあたしは目を丸くする。
今耳にしているのは小さな石がついたシンプルなものだ。ピアスなんて種類もデザインもごまんとあるけど、あたしはいつも同じものをつけていた。それにはちゃんとした理由がある。最初から的を突いた奴は初めてだ。
「どうして分かったの?」
「マカライトは魔除けの効果があるからね。こんなにも良質なのは初めて見た」
そう言って男があたしの耳に触れる。無防備だったのは男との至近距離よりも驚きが勝っていたからだ。あたしは何度も瞬きをする。一度見ただけで石の名前を当てるなんて――
「あんた何者?」
「通りすがりのサラリーマンです。名刺いる?」
「いらない」
あたしは耳元にある男の手を払う。イケメンは嫌いじゃないけど、手が早いのはいただけない。
軽く髪を整えたところで、あたしは改めて男を見る。二度見てもいい男だ。手は早いが仕草も自然で気品がある。こんなのに優しく微笑まれたら普通はころりといってしまうだろう。
「もしかして、僕を品定めしてる?」
「当然でしょ。男は皆狼なんだって、歌かなんかになかった?」
「いつの時代の話なんだか」
男は苦笑すると、自分のグラスを持って隣りに座る。
「残念ながら、僕が興味あるのは君がつけているピアスの石でした。これ、何処で手に入れたの?」
「貰ったの」
「誰に」
「父親。これ、ママの形見なんだって」
あたしのママはあたしが生まれてすぐ死んだ。事故か何かだと聞いていたけど。このピアスも元はネックレスの一部だった。
「最初にこの石貰った時、オヤジに『何かあった時はこれが守ってくれるから』って真剣な顔で言われたんだよね。最初は何の冗談かと思ったんだけど、まんざらでもないみたい。この石、あたしに身の危険が起こる前に壊れたり消えたりするんだ。今までも待ち合わせ遅れたおかげで大事故から免れたとか、変な奴に絡まれずに済んだとか。なんとなく振った男が実はヤク中だったとか。とにかく色々助けられて」
「だろうね」
あたしの話を聞いた男はグラスを傾ける。
「石は持ち主の身代わりになってくれるから。おそらく、君も君のお母さんも災いを引きこみやすい体質なんだろうね。だからお父さんは君にお母さんの形見を託したんじゃないかな?」
男の言葉には川の流れのような、穏やかさがあった。
私は肘をつくと、男のグラスの中を覗いた。浮かぶ液体は石と同じ青緑。ゆらり、ゆらりと流れる姿にあたしは惹きこまれる。
父も二年前に他界した。小さい頃は首にかけていた石も、一つずつ減る度にアンクレット、ブレス、と加工しなおした。残っている石は今しているふた粒だけ。
「この石――全部なくなったら、どうなっちゃうんだろ」
あたしはずっと怖くて言えなかった言葉を吐き出す。でもこれがなくなったらあたしはどうなる? やっぱり死んじゃうのだろうか。
オヤジやママに会うのも悪くない。でも。
あたしは小さく呟く。死にたくない、と。
「だから僕はここに来たんです。貴女を救うために」
隣りで男がそう言ったのは空耳だろうか。
「気が向いたらこちらへ連絡を下さい。お待ちしてますよ」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
気がつくと隣りにいたはずの男は消えていた。テーブルに残されたのは空っぽのグラスと一枚の名刺のみ。手を伸ばし、名刺をつまむ。そこで初めてあたしは男の名を知った。(1592文字)
「ねぇ」
酔った勢いもあったのか、あたしは男に声をかけた。
「さっきからあたしのこと見てるけど、何か用?」
あたしは男を睨む。すると、男はあたしの元へ歩み寄りこう答えた。
「そのピアス――もしかしてお守り?」
その問いかけにあたしは目を丸くする。
今耳にしているのは小さな石がついたシンプルなものだ。ピアスなんて種類もデザインもごまんとあるけど、あたしはいつも同じものをつけていた。それにはちゃんとした理由がある。最初から的を突いた奴は初めてだ。
「どうして分かったの?」
「マカライトは魔除けの効果があるからね。こんなにも良質なのは初めて見た」
そう言って男があたしの耳に触れる。無防備だったのは男との至近距離よりも驚きが勝っていたからだ。あたしは何度も瞬きをする。一度見ただけで石の名前を当てるなんて――
「あんた何者?」
「通りすがりのサラリーマンです。名刺いる?」
「いらない」
あたしは耳元にある男の手を払う。イケメンは嫌いじゃないけど、手が早いのはいただけない。
軽く髪を整えたところで、あたしは改めて男を見る。二度見てもいい男だ。手は早いが仕草も自然で気品がある。こんなのに優しく微笑まれたら普通はころりといってしまうだろう。
「もしかして、僕を品定めしてる?」
「当然でしょ。男は皆狼なんだって、歌かなんかになかった?」
「いつの時代の話なんだか」
男は苦笑すると、自分のグラスを持って隣りに座る。
「残念ながら、僕が興味あるのは君がつけているピアスの石でした。これ、何処で手に入れたの?」
「貰ったの」
「誰に」
「父親。これ、ママの形見なんだって」
あたしのママはあたしが生まれてすぐ死んだ。事故か何かだと聞いていたけど。このピアスも元はネックレスの一部だった。
「最初にこの石貰った時、オヤジに『何かあった時はこれが守ってくれるから』って真剣な顔で言われたんだよね。最初は何の冗談かと思ったんだけど、まんざらでもないみたい。この石、あたしに身の危険が起こる前に壊れたり消えたりするんだ。今までも待ち合わせ遅れたおかげで大事故から免れたとか、変な奴に絡まれずに済んだとか。なんとなく振った男が実はヤク中だったとか。とにかく色々助けられて」
「だろうね」
あたしの話を聞いた男はグラスを傾ける。
「石は持ち主の身代わりになってくれるから。おそらく、君も君のお母さんも災いを引きこみやすい体質なんだろうね。だからお父さんは君にお母さんの形見を託したんじゃないかな?」
男の言葉には川の流れのような、穏やかさがあった。
私は肘をつくと、男のグラスの中を覗いた。浮かぶ液体は石と同じ青緑。ゆらり、ゆらりと流れる姿にあたしは惹きこまれる。
父も二年前に他界した。小さい頃は首にかけていた石も、一つずつ減る度にアンクレット、ブレス、と加工しなおした。残っている石は今しているふた粒だけ。
「この石――全部なくなったら、どうなっちゃうんだろ」
あたしはずっと怖くて言えなかった言葉を吐き出す。でもこれがなくなったらあたしはどうなる? やっぱり死んじゃうのだろうか。
オヤジやママに会うのも悪くない。でも。
あたしは小さく呟く。死にたくない、と。
「だから僕はここに来たんです。貴女を救うために」
隣りで男がそう言ったのは空耳だろうか。
「気が向いたらこちらへ連絡を下さい。お待ちしてますよ」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
気がつくと隣りにいたはずの男は消えていた。テーブルに残されたのは空っぽのグラスと一枚の名刺のみ。手を伸ばし、名刺をつまむ。そこで初めてあたしは男の名を知った。(1592文字)
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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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