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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0708
私は手入れの行き届いた城の庭で横になっていた。たまにころころん、と転がり仰向けになって空の様子を伺う。今日は快晴。真っ青な空は澄んでいて、空中に虹にも似た薄い膜のようなものが張ってあるのが肉眼でも見えるようになっていた。
 この日、私は上から待機を命じられていた。待機とは何もしないこと。つまりは役立たずってことだな。
 私は芝生の絨毯から起き上がると、ひとつ背伸びをする。忙しそうに動く魔法使いたちを遠目に見ながらはぁ、とため息をつく。何時もだったらここでほけほけ顔でやってくるジジィがいるのだが、生憎今日はいない。ヤツは偉大な魔道士故に前線での活躍を余儀なくされたのである。重大な任務を負わされヤツは不服そうだったけど、私としてはヤツと離れることができてラッキーだった。
 とはいえ、やることがないとすごく退屈。これからどうしよう。
 その時、何かの気配を感じた。私はくるりと振り返る。目が合った瞬間私はげ、と言葉を漏らした。真っ白な生き物が私めがけて突進してくるではないか。そいつは小さくて色も白い。けど鋭い牙と爪、とかげにも似た風貌は前に見たのと一緒だ。私は血の気が引く。ドラゴンなんて、見たくもなかったのに! 何でこんな所にいるのーっ!
 小さなドラゴンはすばしっこい動きで私の周りをくるくる回る。そして私の体をいっきに登ると鼻にがぶり噛みついた。
「ったたたた、いたいーーーっ!」
「わーごめんなさいっ」
 私がじたばたあがいていると、追いかけてきた魔女らしき人が幼獣をべりっと引きはがした。
「ごめんなさい、この子ちょっと目を離すとすぐ脱走して――大丈夫? ああ、歯形がべったり……ってあれ?」
 魔女が私の顔をまじまじと見つめる。貴方シフ先生の弟子よね? そう問われた。私は赤くなった鼻をさすりながら一応そうだけど、と無愛想な態度を取る。
「その、服従の魔法はマスターした?」
「もうその話はしないで……」
 私はがっくりと肩を落とし地面に「の」の字を描いた。もうあの事を思い出すだけでも凹むわ恥ずかしいわでどっかに隠れていたい気分なのだ。
 あの日、私が初めて行った服従の魔法はドラゴンに届くことなく床に撃沈。その瞬間、私に注目をしていた魔法使いたちからはえ? と間抜けな声が漏れた。壇上にいた議長が鼻で笑ったのは今でも覚えている。そして痺れを切らしたドラゴンは私に炎を向けた。バランスを崩して壇上から落ちなかったら私は丸焼きにされていたに違いない。一階からは嘲笑され、二階席からはなんであんなのを弟子にしたのだというブーイングがヤツに集中した。でもヤツはちっと舌打ちしただけで、あとは優雅に茶を飲んでいたらしい。
 あのあと、ヤツが私を言及することはなかった。お仕置きだ何だって言われるんじゃないかって思ったのに。ヤツは一言、ご苦労だったと言うだけだった。
 とにもかくも、あの一瞬がこの世界における私の立場を決めた。私は魔法使いたちの中でも一番最低のランクを授かったのである。あとはごらんのとおり。きっと奴らは私がいずれ破門になると思っているに違いない。
 かくして国中の魔法使いを召集した会議は終わった。酷い目に遭い、疲労困憊でクレアさんの家に戻ると、ももちゃんが突然私に抱きついてきた。
「おかあさんは?おかあさん、いつになったらももをむかえにきてくれるの?」
 このあとももちゃんはおうちに帰りたいと声を上げて泣いてしまった。好奇心旺盛でもまだ三歳。お母さんが恋しいのは当然のことだ。
 私はヤツにももちゃんだけ元の世界に返してもらえないかと頼もうとしたけど、それはクレアさんによって止められた。隕石が近づいている今、ヤツの魔力も半減しているらしい。本当の所、私達をここに連れてきた時点でかなりいっぱいいっぱいだったと言うのだ。この環境で時空を超える魔法を使ったらももちゃんが何処に飛ばされるか分からない、そっちの方が危険だ。とクレアさんは言った。
 結局、ももちゃんは元の世界に戻れないままだ。でもこのままだと何だか可哀想なので、応急処置としてクレアさんが母親だという暗示をかけてもらった。それは名案ではあったけど、正直ももちゃんがクレアさんをお母さんと呼んでいるのを見てると複雑な気分になる。何だか従妹にも申し訳ないし、ももちゃんをこっちの世界に盗られてしまった気がして――
 魔法使いたちから総スカンを食らっている今、私はこの世界で孤独を感じていた。
「どーせあんたも、私の事馬鹿にしてるんでしょ?」
 私は通りすがりの魔女に毒を吐いた。くさくさした気持ちで庭木の葉を引きちぎる。
「偉大なる魔道士がわざわざ異世界から連れてきた弟子が出来そこないで。術も数えるほどしか覚えてなくて落ちこぼれで。恥をかいて良い気味だと思ってるんじゃないの? 言っとくけど、私は破門されるつもりはない。その前にこっちから師弟契約を解除して慰謝料ふんだくってやるんだから!」
「別に、そこまで思ってはいないけど……」
 ちょろちょろと動き回る幼獣を抱えながら魔女は言う。
「私はむしろ異世界からひとりでここに来るなんて、相当勇気がいったんじゃないかって思ってる。知りあいのいない所なんて――旅ならともかく、こういう時って行っても寂しいじゃない?」
 それは今の私の心に一番響く言葉だった。魔女は言葉を続ける。
「私ね、今回のことで師匠と一緒に登城する予定だったんだけど、師匠が怪我しちゃって、私ひとりここに来ることになって、すごい不安だったんだ。住んでる所は山奥の集落だし、近くの村や町に知り合いの魔法使いもいないし――だから私、親とはぐれたこの子を連れてここまで来ちゃった」
 そう言って彼女はドラゴンの顎を人差し指でくすぐる。ドラゴンは気持良さそうに目を細めた。私は魔女の彼女に自分の姿を少しだけ重ねる。何か言葉をかけなきゃ、そう思った時だ。
「あーっ、ホワイトドラゴンのあかちゃん!」
 ふいに子供の声が耳を突き抜ける。声のあった方を見やればそこにももちゃんが立っていた。私はももちゃん、と声をかける。
「今日はクレ――おかあさんとおしろにきたの?」
「そう! もも、おかあさんのおてつだいにきたのー。まじょのおねえさん、ドラゴンにさわってもいーい?」
「うーん、触っても構わないけど、この子逃げちゃうかも。警戒心も強いから、触るなら魔法をかける必要が」
「ももしってるよー。うちにあるごほんにかいてあった。それってふくじゅうのじゅもんでしょ」
 そう言ってももちゃんは魔法の呪文をひとつ唱える。それは前にジジィがおしえた破壊魔法ではなく、この間私が唱えた服従魔法だ。え? それ何処で覚えたの? まさかヤツがまた教えたってこと?
 私の疑問をよそに、魔法は効力を発揮した。それまで私に牙を剥いていた幼獣が魔女の手を離れ、ももちゃんに近づく。あっという間に肩に乗ると、その柔らかい頬に自分の体をすりよせたではないか。なんてこった。あまりのショックに私は頭を抱えてしまった。
 ああ、私の魔力はももちゃん以下なのですか。それこそままごとレベルとか? じゃあ、私が今までやってきた修行はなんだったの? 本当、出来ることなら元の世界に帰りたいぜ畜生。
 私が口をぱくぱくとさせていると、隣りにいた魔女が私の肩をぽんと叩いた。
「まぁ生きていれば色んな事があるって。気にしない気にしない」
 そんなことを言われたら余計気になるって。私は頭を抱える。カオスと化した私の脳内は負の感情で今にも溢れそうだった。

(使ったお題:15.なんてこった)

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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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