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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0910

 まず最初に、突然家を出てしまったことを申し訳なく思う。
 でもこうするしか方法はなかった。私も正面から君と話すのは難しいと思った。きっと感情にまかせて喋ってしまいそうだから。だから手紙をしたためることにした。
 君と過ごした数カ月はとても穏やかで心地よかった。今思い出しても楽しい事しか浮かばない。
 君は身寄りのない老いぼれをどういうわけか自分の家に泊めてくれたね。美味しい料理を差し出し、風呂を用意し、温かいベッドの上に寝かせてくれた。そしていつまでもここにいていいよと言ってくれた。それは絶望の道を歩いていた私にとって神様のおぼしめしのような、縁のようなものさえ感じていたんだ。
 一緒に過ごしながら、私は君に何かしてあげたいとずっと前から考えていた。
 私は年を取りすぎて労力で返すことは難しい。学校に通ってなかったから知識もない。できるのは畑仕事をするくらいだ。でもこの場所には畑どころか土もない。
 たったひとつ、君の為にできることがあるとするなら、それはこの体を検体として差し出すことだろう。
 君が身寄りのない老いぼれを養ってくれた理由はすぐに気がついた。君が本当は医者ではなく、研究者でもあることも。あの悪しき存在を作った上司の命令で私を囲ったことも。
 でも君はそんなことを微塵とも感じさせず、私に尽くしてくれた。私の身の上に心から同情し、涙を流してくれた。それが贖罪の涙だと後から知っても、私は君を恨むことはできなかった。君の誠実さ、優しさを私はずっと見ていたから。それに私はこれまで何度も救われたのだから。
 君も知っている通り、私は先のテロで国を追われた。細菌を巻かれ、愛しい家族と沢山の友を失くした。私はかろうじてその抗体を持った唯一の存在で発症してもなんとか生き延びた。私は権力者たちにとって喉から手が出るほど欲しい存在らしい。
 君は私を差し出すことにまだ葛藤を続けているのかもしれない。私に後ろめたさを感じているのかもしれない。でも私はそれで構わないと思っている。それが見えざる何かの手による策略だとしても、だ。
 君は私を失う事を恥じることはない。私が研究に協力すればあの悪しき存在を消すことができるだろう。ワクチンが完成すれば、この世界は救われる。君の手によって沢山の命が救われる。それは君へのささやかな恩返しだと思えばいい。
 どうか私をこれからの研究に使って欲しい。それが君の糧になるというなら喜んでこの身を捧げよう。脳や皮膚や、細胞のひとつひとつに至るまで――どうか今後の研究に役立ててほしい。
 君の未来が輝かしいものであるように。私は君の影となりそっと祈ろう。少しの間だけでも、家族になれたことを幸せに思う。
 ありがとう。本当にありがとう。

老人が恩人にしたためた手紙、な感じで。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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