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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0913

 その日、校長から停学処分を宣告された私は肩を落としながら校庭を歩いていた。
 停学の原因は校外での飲酒と喫煙――なのだが本当の所私はやっていない。生徒間で流れた動画は完全なる誤解であって私は無実なのだ。でもそれを証明するにはかなりの労力が必要で、提示された三日間の停学よりも時間がかかる。今の私にはそこまでする気力すら残されていなかった。
 校門の前まで来た所で私の足がふと止まった。悪の根源である黒塗りのベンツが停まっていたからだ。私は思わずげ、と言葉を漏らす。それと同時に車の扉が開き、ヤツが現れた。
「おお親友ではないか」
 その、本気だかわざとなんだか分からない台詞に私は思わず身構える。目の前に現れたニシという男は私と同じ高校生だ。でも育った環境が全然違う。ヤツは年収数十億を抱える実業家の息子で――いわゆるボンボンだ。ニシは私にとって疫病神以外の何者でもない。何故なら私が停学に追いやられた理由のひとつにニシの存在があるからだ。
 ニシは目の前にある校舎をひととおり眺めるとにっと笑った。
「ここがおまえの通う学校か――思ったより狭いな」
「ここは公立高校であんたの通う超セレブの私立高とは違いますからねぇ。つうかなんでここまできた? あんたは私のストーカーか?」
「丁度いいところで会った。ヒガシよ。校長か理事長のいるところに案内しろ」
 ニシの言葉に私は眉をひそめた。先日あんだけ私を引きずりまわして、今度はウチの学校で何をしようとするのだろう。
 私はきゅっと唇を結ぶ。最初は私の停学処分を取り消して貰うよう取りなしてくれるのかと一瞬思ったが、私はその考えをすぐに打ち消した。こいつはそんな人助けをするようなヤツではない。というか、私が停学処分をくらったのはつい先ほどでこいつは何も知らないはず――
 私はいぶかしげな顔でニシを見上げる。でも深く追求すると面倒なことになりそうな気がしたので正面玄関入ってすぐの所だから、と場所だけ教えた。だが、ニシは一人で行くのは嫌だと駄々をこねる。あんたは何処の子供だと思いつつ、結局私がついて行くしかなかった。 
 全く、何で私がこんなこと。また校舎に戻らなきゃならないなんて気まずいったらありゃしないじゃないか。
 私は心の中でぶつぶつ文句を言いながら校舎に戻り、ニシの先を進む。廊下を歩いていると、先ほど顔を合わせたばかりの担任に出くわした。私の姿を見つけ、担任の表情が険しいものに変わる。
「ヒガシ、おまえまだこんな所にいて――早く自宅に戻りなさい!」
「あの、そうしたいのは山々なんですけど……コイツが」
 私は後ろにいるニシを指差した。担任はニシの頭からつま先までひととおり見すえるといぶかしげな顔をした。当然だ。ここの学校の生徒でもない人間がアポも取らずに学校に乗り込んできたのだから。不審者として扱われても仕方ない。というか不審者でつまみ出してほしいのだが。
 難しい表情の担任にニシが首をかしげる。
「ヒガシ、これは何者だ?」
「ウチの担任。あの、先生。コイツを校長室に用があるみたいなんですけど。案内してもらえませんか?」
 私はチャンスとばかりにニシを担任に押しつける。じゃあ、と言って踵を返した。来た道を戻ろうとすると、反対方向に向かう担任とニシの会話が耳に入ってくる。
「一体何の用でここに?」
「明日からこの学校に通いたいのだが――転入手続きはどうすればいいのだ?」 
 その一言に廊下を歩いていた私の足が止まる。気がつけばくるりと振り返りはあぁ? と声をあげていた。
「何それ、転入ってどういう事よ」
「どうも何も。言葉の通りだが?」
「だからってどーしてアンタがこの学校に通う必要があるわけ? アンタは金持ち専用の学校があるでしょうが!」
「あの学校は生徒も教師もいちいち鼻について居心地が悪い。それなら親友と同じ学校に通う方が有意義だ」
「親友って……」
「もちろんおまえのことだ」
 即答するニシに私の顔が更に引きつる。
「あのさ、私はあんたの親友になった覚えもないんだけど。つうかアンタは顔見知り以下! 金輪際関わりたくないんですけど!」
 私の強烈なパンチにニシがぐっ、と言葉を詰まらせる。でもヤツはそんなことではへこたれなかった。ふふふ、と不気味な笑い声をあげている。
「いいね。そう言われると余計燃えてくるというものだ」
 何だよこの変態は。私は思いっきりドン引きした。
 ああ、この非常に残念な人間をどうにかして欲しい。今すぐに。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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