もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
夏休みまであと数日と迫ったある日の昼下がり。私は久実とショッピングモールにいた。特に買いたい物があったわけではない。バイトの時間までの暇つぶしだ。
ウィンドウショッピングをしながらぶらぶらと歩く。すると不意に腕を掴まれた。
「ちょ、ヒガシっ。あれは何?」
私は久実が指で示した方向を見る。アクセサリーを売っている店の前にニシと南さんがいた。二人は店頭に飾られた商品を手にしながら笑っている。
「ああ、あれがどうかした?」
「どうかした、じゃないわよ! 一緒にいる女は何? 恋愛に興味がないって言ったのはどこの誰? ニシの奴、ヒガシがいながら何浮気してんのよ!」
久実がそちらに向かって吠えまくる。放っといたら乗り込みそうな勢いだったので、私はとっさに友の体を抑えた。体を引きずり、何かたべたいなー、と言いながらその場を離れていく。あとで質問責めされそうだけど……まぁいい。最後に言った言葉は聞かなかったことにしよう。
私は二人が一緒にいる事を特におかしいとは思わなかった。だって今日のシフトに南さんの名前は入っていない。二人はここでの買い物を楽しんでいたのだろう。あるいは併設されているシネコンにこれから行くのかもしれない。二人の距離は日々縮まっていく。それは予想もしなかった展開だったけど、日を追うごとにそれは必然だったのかなとさえ思えてしまう。
あの日――ニシが南さんと和解したあと、私達はすぐに店をあとにした。この件はこれでおしまい。ニシと南さんが顔を合わせることはもうないだろう、私はそう思っていた。でもそれは見事に覆される。帰り際、南さんはニシにファミレスのクーポン券を渡したのだ。お口にあうかは分からないけど一度庶民の味も試して下さいね、と言葉を添えて。
それからニシは度々私達のバイト先に現れるようになった。その時は南さんがニシのテーブルを担当した。最初は客と店員のやりとりだけだったが、次第に二人だけの会話も増えていく。
最近ニシは学校が終わると南さんの通っている学校まで車で出向き、バイト先まで送り迎えしている。私も一緒にと誘われたことがあったけど、一度乗りあわせただけであとはお断りしていた。だって車の中で二人だけの世界が出来上がっているんだもの。どう見ても私はお邪魔虫としか言いようがな。だから私は適当な理由をつけて二人を避けていたのだ。
当然だけど、ニシは高級車に乗っているイメージしかない。南さんは私と同じ庶民の一人だ。でもご両親に礼儀正しく育てられたのか、とにかく仕草の一つ一つが美しい。どんな高級シートの前でも上品に座り、美しい姿勢をキープしている。これには私も驚いた。更に驚くべきは二人の車の中でのやり取りだ。
二人の会話の内容は、趣味や好きな本の話、学校で起きたことなどだ。けど、南さんがもてなしの紅茶を受け取ればすかさずニシが砂糖とミルクを差し出す。車が工事中の道を進むものならニシの服がコーヒーで汚れぬよう、南さんがハンカチを広げる。言葉に出ずとも二人は目と目で会話し、お互いの次の動きをさりげなくフォローしている。あれは気づかいを飛び超えて夫婦並みの熟練さだ。阿吽の呼吸、ってああいうことを言うんだろうな。あそこまで呼吸が合うのを見せつけられると、二人の出会いそのものが運命としか思えない。
南さんはニシと一緒にいる時間はとても楽しいと言っていた。価値観の違いは否めないけど、それもまた面白い、と。そこで私は初めて南さんの奇特な性格を知った。もともと私と南さんは最初から親しかったわけじゃない。つい最近まで挨拶を交わす程度だった。そう、ニシの勘違いがなければここまで深く関わることもなかったのだ。
南さんが高級車で送迎されるものだからバイト先でも二人の関係が噂されていた。南さんはあくまで友達だと言っているけど、周りはそう思っていない。まだ友達でもいずれ二人は付き合うと思っている。
でも――
周りが盛り上がれば盛り上がるほど、私の中でそれでいいのか、と疑問符が湧く。一抹の不安を感じるのは私が紗耶香さんの存在を知ってしまったからだろう。
紗耶香さん。もうこの世にはいない人。南さんにそっくりの顔を持つ人。ニシにとってはかけがえのない――大好きだった幼馴染。傷を負っているなら尚更、私だったら触れるのさえ恐れ多い。
ニシは何とも思わないのだろうか。
いくら似ているからとはいえ南さんは別人だ。一緒に居て昔のことが蘇ってきたりしないのだろうか? 辛くはないのだろうか――?
私の中で疑問が水滴のように落ちてくる。やがてそれは大きな池となり、氾濫を起こすこととなった。
(使ったお題:13.目と目で会話)
ウィンドウショッピングをしながらぶらぶらと歩く。すると不意に腕を掴まれた。
「ちょ、ヒガシっ。あれは何?」
私は久実が指で示した方向を見る。アクセサリーを売っている店の前にニシと南さんがいた。二人は店頭に飾られた商品を手にしながら笑っている。
「ああ、あれがどうかした?」
「どうかした、じゃないわよ! 一緒にいる女は何? 恋愛に興味がないって言ったのはどこの誰? ニシの奴、ヒガシがいながら何浮気してんのよ!」
久実がそちらに向かって吠えまくる。放っといたら乗り込みそうな勢いだったので、私はとっさに友の体を抑えた。体を引きずり、何かたべたいなー、と言いながらその場を離れていく。あとで質問責めされそうだけど……まぁいい。最後に言った言葉は聞かなかったことにしよう。
私は二人が一緒にいる事を特におかしいとは思わなかった。だって今日のシフトに南さんの名前は入っていない。二人はここでの買い物を楽しんでいたのだろう。あるいは併設されているシネコンにこれから行くのかもしれない。二人の距離は日々縮まっていく。それは予想もしなかった展開だったけど、日を追うごとにそれは必然だったのかなとさえ思えてしまう。
あの日――ニシが南さんと和解したあと、私達はすぐに店をあとにした。この件はこれでおしまい。ニシと南さんが顔を合わせることはもうないだろう、私はそう思っていた。でもそれは見事に覆される。帰り際、南さんはニシにファミレスのクーポン券を渡したのだ。お口にあうかは分からないけど一度庶民の味も試して下さいね、と言葉を添えて。
それからニシは度々私達のバイト先に現れるようになった。その時は南さんがニシのテーブルを担当した。最初は客と店員のやりとりだけだったが、次第に二人だけの会話も増えていく。
最近ニシは学校が終わると南さんの通っている学校まで車で出向き、バイト先まで送り迎えしている。私も一緒にと誘われたことがあったけど、一度乗りあわせただけであとはお断りしていた。だって車の中で二人だけの世界が出来上がっているんだもの。どう見ても私はお邪魔虫としか言いようがな。だから私は適当な理由をつけて二人を避けていたのだ。
当然だけど、ニシは高級車に乗っているイメージしかない。南さんは私と同じ庶民の一人だ。でもご両親に礼儀正しく育てられたのか、とにかく仕草の一つ一つが美しい。どんな高級シートの前でも上品に座り、美しい姿勢をキープしている。これには私も驚いた。更に驚くべきは二人の車の中でのやり取りだ。
二人の会話の内容は、趣味や好きな本の話、学校で起きたことなどだ。けど、南さんがもてなしの紅茶を受け取ればすかさずニシが砂糖とミルクを差し出す。車が工事中の道を進むものならニシの服がコーヒーで汚れぬよう、南さんがハンカチを広げる。言葉に出ずとも二人は目と目で会話し、お互いの次の動きをさりげなくフォローしている。あれは気づかいを飛び超えて夫婦並みの熟練さだ。阿吽の呼吸、ってああいうことを言うんだろうな。あそこまで呼吸が合うのを見せつけられると、二人の出会いそのものが運命としか思えない。
南さんはニシと一緒にいる時間はとても楽しいと言っていた。価値観の違いは否めないけど、それもまた面白い、と。そこで私は初めて南さんの奇特な性格を知った。もともと私と南さんは最初から親しかったわけじゃない。つい最近まで挨拶を交わす程度だった。そう、ニシの勘違いがなければここまで深く関わることもなかったのだ。
南さんが高級車で送迎されるものだからバイト先でも二人の関係が噂されていた。南さんはあくまで友達だと言っているけど、周りはそう思っていない。まだ友達でもいずれ二人は付き合うと思っている。
でも――
周りが盛り上がれば盛り上がるほど、私の中でそれでいいのか、と疑問符が湧く。一抹の不安を感じるのは私が紗耶香さんの存在を知ってしまったからだろう。
紗耶香さん。もうこの世にはいない人。南さんにそっくりの顔を持つ人。ニシにとってはかけがえのない――大好きだった幼馴染。傷を負っているなら尚更、私だったら触れるのさえ恐れ多い。
ニシは何とも思わないのだろうか。
いくら似ているからとはいえ南さんは別人だ。一緒に居て昔のことが蘇ってきたりしないのだろうか? 辛くはないのだろうか――?
私の中で疑問が水滴のように落ちてくる。やがてそれは大きな池となり、氾濫を起こすこととなった。
(使ったお題:13.目と目で会話)
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プロフィール
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自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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