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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

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 その日は社会の授業があり、裁判員制度について実際に模擬裁判をしてみることになった。
 私の役目は書記官だ。裁判中は証言台に立つ人の発言を全て記録しなければならない。私は裁判所に見たてられた教室の中央で机に向かっていた。証言台を模した教卓に立っているのは被告人役の男子生徒だ。罪状は窃盗――万引きである。被告人に前科はないが、被害者の証言によると以前も万引きしたことがあるらしい。
 裁判は被告人の最終弁論に突入していた。弁護人役の生徒の質問にに被告人がとつとつと答える。私は彼の発言を一言一句逃さず文字に表す。
「あの時――ナナちゃんが僕に囁いたんです。『私を助けて。ここから出して』って。だから僕は彼女を助けるべく行動に出たわけです。ナナちゃんは僕の嫁です。かけがえのない存在なんです。僕はナナちゃんの為だったら命を賭けます。彼女を助けるためなら何だってします。だから彼女を助けて下さい。お願いです」
 被告人はそう言うと、命乞いをするかのように手を合わせた。そこへ弁護人が後押しのフォローに入る。
「先の証言にもある通り、被告人の心の拠り所はテレビアニメでした。そこに出てくる『魔法使いナナ』だけが彼の心を癒していたのです。
 被告人は犯行を犯す前から幼馴染に虐げられておりました。パシリや金を脅し取られるなどの被害を受けておりました。日頃のいじめにより、被告人はストレスを溜め、心を病んでしまったのです。そんな彼に責任能力があるとは思えません。陪審員の皆さん。どうか寛大な判決をお願いします」
 どうやら被告側は心神喪失で無罪を狙うらしい。話を聞きながら、私は肩を震わせる。弁護人は話を終えると一礼した。裁判長が閉廷の言葉を告げる。被告人の罪は十人の陪審員に委ねられた。陪審員役の生徒が別室に移り、協議を始める。教室に残された私達はその間、机をいつものレイアウトに戻す作業に入る――のだが、どうも様子がおかしい。生徒の数人が私とヤツを見てにやにやと笑っているのだ。その理由はなんとなくわかっていた。
 私は腱鞘炎になりそうな腕をふりはらうと、被告人席に向かって歩き出した。迫真の演技をしたクラスメイトを服ごと引きずって廊下に出る。溢れそうな感情を必死で抑え込むと、低い声でヤツに問う。
「あの台詞は何?」
「な、何って?」
「まさか本気で言ってるんじゃないでしょうねぇ?」
「奈々ちゃん落ちついて。あれはもともと架空の事件なわけだし。別に僕らのことをモデルにしたわけじゃ――」
 本当に言い切れるか? 私は言葉に出かかった問い返しを目で訴える。私の眼差しにヤツが一瞬うろたえた。公判中、私はノートに文字を書きながらイライラする気持ちを必死に抑えていた。ああ、できることなら、これまでに記録した一言一句全てを消しゴムか真っ白なペンで消去してやりたい。
「ええと、あの台詞ってのは弁護人の『被告人は幼馴染に虐げられており~』の所? それとも『ナナちゃんは僕の嫁』って所?」
「どっちもだ!」
 何時私が幼馴染を虐げた? 誰が嫁だこの野郎! 全くどの口からそんな台詞が出るんだ!
 私は他のクラスが今も授業中だと言う事も忘れ、大きな声で怒鳴った。


ということで、新しいお題スタート。今日は被告人役の男子の名前をわざと伏せてみた。アニメオタクに魔法使いナナときたら――ということで。そういや、彼女の名前が初めて明かされたかも。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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