もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
人生で一度あるかないかの非日常は三日も経つと私の中で完全に消去された。リア充? そんなんじゃない。試験期間中に入っただけの話だ。
ウチの学校は中の下をいく偏差値だけど、赤点のラインは他の学校よりも十点高い。だから試験前は皆必死で勉強する。それはそれは過去の失態や無礼を忘れるほどに。そういうことで、私も例外に漏れることなく勉強に集中した。
その後中間試験は予定通り行われ日程を全て消化した。最後の科目を終えた私はまっすぐ家に帰る。明日は休み。だらだらしてても誰も咎めたりはしないだろう。私は削られた部分を補給すべくベッドにもぐりこむ。すぐに深い眠りについた。
次に私が目を覚ましたのは翌日の午後だった。カーテンの隙間から光が差し込む。ベッドサイドで携帯がぶるぶる震えている。振動があまりにもしつこいので、私は布団の中に携帯を引きずり込んだ。しょぼしょぼした目をこすり画面を確認する。蛍光色の指先に久実の名前があった。
「ナノちゃん寝てた?」
「今起きた……なぁに?」
「えと、あのね――」
そう言って受話器の向こうで久実が喋り始める。でも向こうの電波がよろしくないのか、声が飛び飛びだ。
「もしもし? あのー、声が聞きとりずらいんだけど」
「身代わりをよこすとは大層な御身分だな」
突然耳元がクリアになる。割って入った低い声は久実のものじゃない。私は目元をひきつらせた。思わずアンタ誰? と聞いてしまう。次の瞬間、つまるような声が耳元に届く。
「誰、って――おま、俺のことを忘れたのか?」
「忘れたも何も、知らないものは知らないんだけど。久実の彼氏か何か?」
それとも電波が悪すぎて回線が混乱したのかしら? 私は一度欠伸をしたあとで携帯から耳を離す。自分の携帯に異常がないことを確認すると再び携帯に耳をあてた。でも聞こえてくるのは男の罵声だ。
「おい、アズマだかヒガシだかのハナ! 命の恩人にその態度は何だ。おまえは阿呆以下の存在か」
「はぁ?」
私はすっとんきょうな声を上げる。
「命の恩人って何。顔も知らないアンタに助けられた覚えなど全くないんだけど」
「おま……俺の顔も忘れたのか?」
信じられない、と嘆く男に私は困ってしまう。丁度その時、ぼさぼさの髪の毛が顔についた。頬に手が触れる。その瞬間、かすかに残るかさぶたに気づいた。すっぽ抜けていた記憶がブーメランのごとく返ってくる。思わずあああっ、と大きな声を上げた。被っていた毛布がふっとぶ。
「ふんぞり返った俺様男っ。えっと名前は――何だっけ?」
「ニシだ!」
そこでヤツが初めて名を名乗った。神の一族とは無関係と思いこんでいた私は思わず西田? とツッコミそうになったが、すぐに違うと脳みそがツッコんだ。ここでボケたら収集がつかないだろう、なんて叩かれながら。
私は一度姿勢を整えるとその節はどうも、と形式上のお礼だけ述べた。受話器からヤツの満足げな頷きが耳に届く。相変わらず高飛車な、私はこっそり毒づいた。
確かに助けてもらったことに感謝はしている。だけど私としてはそれで終わらせたかったのが本音だ。本心としてはヤツのことに首をツッコミたくないなぁ、という気分だった。でも親友が巻きこまれてしまった以上は足を踏み入れるしかない。
「それで、私の友達に何がおきたんでしょうか?」
私は口調を変え、ヤツに問いただした。一体久実に何が起きたというのだろうか。
ヤツの話によると、招待状には案内状とカードが入っていたと言う。カードはスーパーや駅で使うようなプリペイドになっていて、学園内の飲食や買い物の精算に使えるようになっていた。 また、受付に頼めば持ち主の通過時間や招待状を渡した生徒が誰なのか調べることができるらしい。
一般公開の今日、昼を過ぎてもなかなか来ない私にヤツは肝入っていた。そして学園に私が来ているかどうか受付で調べてもらったらしい。でも、全くの別人が通り抜けたからこれはどういうことなんだという話になり――学園内はかなり大騒ぎになったらしい。暁学園の生徒の親は著名人や年商ン億という実業家や金持ちたちだ。そんなセレブを恨む輩少なくない。一般公開される学園祭は他人を受け入れる唯一の機会。厳重なセキュリティをうたっても生徒の誘拐や学園の乗っ取り、テロなどが起きてもおかしくはないのだというのだ。
つまり――久実はそのもろもろの容疑をかけられているのである。
「というわけで、ナノちゃんお願い。今すぐ暁学園に来て」
今にも泣きそうな声が私の耳に届いた。現在久実は暁学園の生徒指導室に連行されているという。このままだと両親や学校に通報されてしまうらしい。私は久実に招待状をあげてしまったことを後悔した。これは自分で蒔いた種なのか、はたまた運が悪いだけなのか。
私はだらりと垂れた前髪をかきあげた。
ウチの学校は中の下をいく偏差値だけど、赤点のラインは他の学校よりも十点高い。だから試験前は皆必死で勉強する。それはそれは過去の失態や無礼を忘れるほどに。そういうことで、私も例外に漏れることなく勉強に集中した。
その後中間試験は予定通り行われ日程を全て消化した。最後の科目を終えた私はまっすぐ家に帰る。明日は休み。だらだらしてても誰も咎めたりはしないだろう。私は削られた部分を補給すべくベッドにもぐりこむ。すぐに深い眠りについた。
次に私が目を覚ましたのは翌日の午後だった。カーテンの隙間から光が差し込む。ベッドサイドで携帯がぶるぶる震えている。振動があまりにもしつこいので、私は布団の中に携帯を引きずり込んだ。しょぼしょぼした目をこすり画面を確認する。蛍光色の指先に久実の名前があった。
「ナノちゃん寝てた?」
「今起きた……なぁに?」
「えと、あのね――」
そう言って受話器の向こうで久実が喋り始める。でも向こうの電波がよろしくないのか、声が飛び飛びだ。
「もしもし? あのー、声が聞きとりずらいんだけど」
「身代わりをよこすとは大層な御身分だな」
突然耳元がクリアになる。割って入った低い声は久実のものじゃない。私は目元をひきつらせた。思わずアンタ誰? と聞いてしまう。次の瞬間、つまるような声が耳元に届く。
「誰、って――おま、俺のことを忘れたのか?」
「忘れたも何も、知らないものは知らないんだけど。久実の彼氏か何か?」
それとも電波が悪すぎて回線が混乱したのかしら? 私は一度欠伸をしたあとで携帯から耳を離す。自分の携帯に異常がないことを確認すると再び携帯に耳をあてた。でも聞こえてくるのは男の罵声だ。
「おい、アズマだかヒガシだかのハナ! 命の恩人にその態度は何だ。おまえは阿呆以下の存在か」
「はぁ?」
私はすっとんきょうな声を上げる。
「命の恩人って何。顔も知らないアンタに助けられた覚えなど全くないんだけど」
「おま……俺の顔も忘れたのか?」
信じられない、と嘆く男に私は困ってしまう。丁度その時、ぼさぼさの髪の毛が顔についた。頬に手が触れる。その瞬間、かすかに残るかさぶたに気づいた。すっぽ抜けていた記憶がブーメランのごとく返ってくる。思わずあああっ、と大きな声を上げた。被っていた毛布がふっとぶ。
「ふんぞり返った俺様男っ。えっと名前は――何だっけ?」
「ニシだ!」
そこでヤツが初めて名を名乗った。神の一族とは無関係と思いこんでいた私は思わず西田? とツッコミそうになったが、すぐに違うと脳みそがツッコんだ。ここでボケたら収集がつかないだろう、なんて叩かれながら。
私は一度姿勢を整えるとその節はどうも、と形式上のお礼だけ述べた。受話器からヤツの満足げな頷きが耳に届く。相変わらず高飛車な、私はこっそり毒づいた。
確かに助けてもらったことに感謝はしている。だけど私としてはそれで終わらせたかったのが本音だ。本心としてはヤツのことに首をツッコミたくないなぁ、という気分だった。でも親友が巻きこまれてしまった以上は足を踏み入れるしかない。
「それで、私の友達に何がおきたんでしょうか?」
私は口調を変え、ヤツに問いただした。一体久実に何が起きたというのだろうか。
ヤツの話によると、招待状には案内状とカードが入っていたと言う。カードはスーパーや駅で使うようなプリペイドになっていて、学園内の飲食や買い物の精算に使えるようになっていた。 また、受付に頼めば持ち主の通過時間や招待状を渡した生徒が誰なのか調べることができるらしい。
一般公開の今日、昼を過ぎてもなかなか来ない私にヤツは肝入っていた。そして学園に私が来ているかどうか受付で調べてもらったらしい。でも、全くの別人が通り抜けたからこれはどういうことなんだという話になり――学園内はかなり大騒ぎになったらしい。暁学園の生徒の親は著名人や年商ン億という実業家や金持ちたちだ。そんなセレブを恨む輩少なくない。一般公開される学園祭は他人を受け入れる唯一の機会。厳重なセキュリティをうたっても生徒の誘拐や学園の乗っ取り、テロなどが起きてもおかしくはないのだというのだ。
つまり――久実はそのもろもろの容疑をかけられているのである。
「というわけで、ナノちゃんお願い。今すぐ暁学園に来て」
今にも泣きそうな声が私の耳に届いた。現在久実は暁学園の生徒指導室に連行されているという。このままだと両親や学校に通報されてしまうらしい。私は久実に招待状をあげてしまったことを後悔した。これは自分で蒔いた種なのか、はたまた運が悪いだけなのか。
私はだらりと垂れた前髪をかきあげた。
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プロフィール
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和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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