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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

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  そのあと、私はニシに自分の携帯番号を教えた。携帯の番号を教えるのは嫌だったけど、緊急事態だから仕方ない。最悪番号を変えれば済むだろう。
 ニシは親友(私は断じて認めないけど)との番号交換に嬉々としていた。たぶん最低限の連絡以外は電話をかけるな、という私の忠告を完全にスルーしていたに違いない。
 家に帰ると案の定、玄関で両親が顔を揃えて待っていた。いきなり雷を落とされた私はたまったものじゃない。 
 親からたっぷり一時間しぼられたあとで、ようやくご飯にありつける。部屋に戻ると携帯に着信がきていた。履歴に残っていたのは先ほど登録した番号だ。
 私はひとつため息をついてから折り返しの電話をかける。呼び出しも出ないうちからニシの声が聞こえたから私は思わず耳を受話器から離した。
 着信があったのは四十分ほど前。まさか。それから携帯の前でずっと待ってたってこと、ないよね?
 ニシは興奮気味な声で私に色々分かったぞ、と言う。
「え? もう調べたの?」
「当然だろう。俺の力を侮るな」
 ニシの話によると、動画は国外のネットカフェから投稿されたらしい。その店は防犯カメラがついてなくて人物が割り出せなかったそうだ。また登録の際に使われたアドレスは誰でも取得できるやつだったらしい。
「じゃ、犯人が誰なのか分からないってこと?」
「こっちの方向からの調査は手詰まりということだ」
「そっか……」
 ニシが明るい声で言うからつい期待してしまったけど、トントン拍子で上手くいかないらしい。
「今度は映像の方から調べてみるつもりだ。あんなにも上手く出来た合成写真を作るのには相当な技術が必要だからな」
 ニシの言葉に私はそうね、と同意する。確かにあの合成はよくできていた。切り取った感も歪みも全然ないし――って、え?
 私は携帯を手にしたままはっとする。
 あんなにも上手く出来た合成写真って。まさか。
「アンタあの動画見たの?」
 つくり物とはいえ、アラレモナイ姿にされた私を?
 私の質問にもちろん、と答えた。しかも嫌がらせの原因を探るわけだから隅々までしっかと見た、なんて言いやがるじゃないか。
 コイツ、やっぱり変態だ――
 私は速攻で電話をブチ切った。今かけた番号を着信拒否にして携帯を引き出しの中へしまう。一連の騒動が終わったら携帯の番号変えてやる、と本気で思う。
 日付けが変わる頃にパソコンを確認すると、例の動画は削除されていた。私の削除依頼が効いたのか、はたまた裏でニシが動いたのかは分からない。とにもかくも不安要素の一つが消え、私は安心して床につくことができた。
 だからといって私につけられた枷が外されるわけもなく、翌日から私はリビングでの宿題を強いられた。日中は母親がずっと側についていておちおちテレビも見てられない。トイレにいても扉の外でずっと待っているのだ。監視生活の中で唯一の楽しみは食事だけ。今は体重計に乗るのが怖くてたまらない。
 自宅学習に入って二日目の夕方、担任から電話が来た。
 明日校長先生が出張から戻ってきたので明日の午後から登校しなさいとの事だ。おそらくそこで正式な処分が下されるのだろう。母親は恥ずかしい、もう外に出られないわ、と嘆きながらサンドバッグにパンチを連発している。私はそれを見なかったことにすると、明日への思いを馳せた。
 出てくるのは吉か凶か。それを知るのは神だけだ。


 


 翌日指定された時間どおりに登校すると、すぐ校長室に呼ばれた。
 部屋にある応接セットの二人掛けに校長が座っている。私が来ると知るなり校長は一度立ちあがって深々と頭を下げた。
「今回は色々申し訳なかったですね」
 のっけからのパフォーマンスに私はビビってしまう。
「先ほど暁学園の理事長が来まして、ヒガシさんに大変ご迷惑をかけたと謝罪されていきました」
「え?」 
「話によるとヒガシさんの制服を預かった暁学園の生徒が一時帰国していた父親を驚かせるのに着たとか――最初から援助交際ではなかったらしいです」
「は……ぁ」
 話に一区切りがついた所で校長は手を合わせた。さて、と言う。
「ここから本題に入りますが――貴方が教師に手を上げたことは校則違反に当たります。ですがそれに至るまでの経緯を聞くとこちらにも非があるようですね。不愉快な思いをさせたなら申し訳ない。代わって謝罪します」
 そう言って校長先生は私に向かって再び頭を垂れた。これも深々と。一度ならず二度も頭を下げられたので私は反応のしように困ってしまう。
「貴方を疑っていた先生も今は反省しております。なのでここは私の顔に免じて喧嘩両成敗ということでどうでしょう? 今回の処分はなしということで」
 校長が出した条件はそう悪いものではなかったと思う。でも何かが腑に落ちない。
 それは当事者――犯人がここにいないからだろう。ニシに聞けばそれが誰なのか分かるのかもしれないけど、今はアイツと関わるのもごめんだ。
 一番の原因は最初から無関係の校長に二度も謝られてしまったからだろう。先にそうされるとバツが悪いしケチをつけようにもできないではないか。
 私はちらりと担任を見やる。担任は私の心を悟ったのかこくこくと頷いた。ここは校長の言うとおりにした方がいいと目で訴えられる。その方が自分の為だというのだろうか。
 大人二人に押され、私はわかりました、と返事するしかない。校長は目元に皺をよせながらにっこりと笑った。話が丸くおさまって安堵の表情を見せている。
「もう教室に戻って構いませんよ」
 お許しが出たので私は部屋を出る。ひとり教室に向かって歩きはじめるが消化不良のままだ。
「どうした? 機嫌が悪そうだな」
「そりゃそうよ――って。何でアンタがここにいるわけ?」
「いちゃ悪いか?」
「当然でしょ!」
 私は近づいてきたニシから三歩後ずさる。ここはニシの通う暁学園ではない。違う制服の男が校舎の中をうろうろしてたら目立つじゃないか。
「つうか一体何の用?」
「それはひどい言い草じゃないか。電話しても繋がらないから直々に来たというのに」
 ニシは心外だな、といわんばかりの顔をする。そして犯人が分かったぞ、と続けた。でもその情報は私の知る所だ。
「暁の生徒だったんでしょ? さっき校長から聞いた」
「そう。ビーチフラッグでおまえにクレームをつけた女、あいつが犯人だ」
 ニシの言葉に私はさほどさほど驚かなかった。暁学園の生徒、と聞いた時点でなんとなく予想できていた。というか、あの場所で恨みを買ったのはあの女ひとりだけだったし。
「調べた所、例の動画はあの女の取り巻きが作ったらしい。合成はそいつの親の専売特許だったんだ。合成した映像を海外の知り合いに送って投稿するよう頼んだんだろう。その一方で盗んだヒガシの服を他の取り巻きに着せてホテルに向かうよう指示したわけだ」
「すべて『身代わり』がやったってこと?」
「そういうことだ。でもってあの女自身は何もしてないと言い張っている。あれは取り巻きたちが勝手にやったことだと」
「はぁ? 何それ」
「あの女、俺が問い詰める前に実行犯を理事長へ自首させたんだ。あの女は奴らを擁護しながら処分の軽減を訴えて理事長を味方につけたわけだ」
 怒りを超えてあきれたと言わんばかりにニシは言う。話を聞いていたら私の中で、あの縦巻き女が甘ったるい声でオッサンに取り入る姿が容易に浮かんでしまった。やっぱり停学になってでも先生たちに噛みつくべきだったかもしれない。
「それで――アンタは泣き寝入りしたってわけ?」
「いや。あの女にはヒガシ停学を取り消すよう理事長に嘆願しろと言った。それなら今回のことを不問にしてもいいと。交換条件だな」
「ちょ、なんで私のいない所で話進めちゃってるわけ?」
「でも疑いは晴れて、停学も免れただろう?」
「そりゃそうだけど」
 やっぱり気に食わない。第三者であるニシが勝手に話をつけたというのだから尚更だ。できることならビンタのひとつでもかましたかったのに。
 私が複雑な顔でいると、今回はヒガシに迷惑をかけてしまったな、とニシが言う。
「でも今度同じことが起きても大丈夫だ。しっかり対策を考えたから」
 そう言ってニシは持っていた紙袋を私に押しつけた。開くとニシが着ているのと同じ濃紺のブレザーが入っている。ご丁寧にスカートとブラウスまで。
「今度はサイズを聞いたからばっちりだ。今すぐ着てみるか?」
 ええと、それって。
「もしかして私に暁学園に転校しろ……とか?」
「そういうことだ。いい考えだろう?」
 私は開いた口がふさがらない。本当、どこをどうやったらそう言う考えに至るんだ? 
「どうした? あまり嬉しそうじゃないな」
「何て言うか、その――」
「ああ、学費のことだったら問題ない。俺が全て援助する」
「そういうことじゃなくて!」
 授業中にも関わらず、私は廊下で大声を張り上げる。ニシに紙袋を投げ返した。
「何だ? 学費の他に何か問題でもあるのか?」
 えーえ、そりゃあありますよ。あんな宇宙人の集まりの中に飛び込んだら完全に浮くじゃないか。しかもストーカー付き。こいつと一緒にいたら妬み嫉み恨みのオンパレードだってことを。平穏な生活を臨む私に地獄へ行けって言ってるようなものだ。
「とにかく、私はこの学校に通ってるのが一番いいの!」
「どうしても暁には来てくれないのか?」
「行くわけないでしょ! あんな学校誰が行くもんですか」
「そうなのか……」
 私のめいっぱいの拒否っぷりにニシが残念そうな顔をする。仕方ないな、と言ったので諦めてくれたのかと思った。
 ところが――
「だったら俺がこっちに転入するかないな」
 は?
「うん。そうしよう。こういうのは思い立ったら吉日というしな」
 ちょっと話をしてくる、そう言ってニシはくるりと踵をかえした。校長室に向かったので、私は全力でそれを止めにかかる。
「ちょ、アンタ本気でそんなことを言ってるわけ? あの学校に思い入れは? あんた、生徒会長でしょ? そんなことしていいわけ?」
「考えてもみればあの学校は生徒も教師もいちいち鼻について居心地が悪い。それなら親友と同じ学校に通う方が有意義だ」
「親友って……」
「もちろんおまえのことだ」
 ニシの即答に私は頬をひきつらせた。
「今回の件で俺も色々考えさせられた。親友に何かあった時そばにいれないのはもどかしいものだな。相手の苦しみを分かち合えないほど悲しいものはない。
だが今度からは大丈夫だ。ヒガシに何かあったらすぐに俺が飛んでくるからな」
 そう言ってニシは胸を張って見せる。
「あのさ、私はあんたの親友になった覚えもないんだけど。つうか顔見知り以下って言ったでしょ! 金輪際関わりたくないんですけど!」
 私の強烈な否定にニシがぐっ、と言葉を詰まらせる。でもヤツはそんなことではへこたれなかった。ふふふ、と不気味な笑い声をあげている。
「いいね。そう言われると余計燃えてくるというものだ」
 何だよこの変態は。どうしたらそういう方向に勘違いできるんだろうか。
 ああ、この非常に残念な人間をどうにかして欲しい。今すぐに。

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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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