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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2025

0421
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2013

0509
 深夜に彼の携帯が鳴った。
「あ、久しぶり」
 次に彼の口から出た名に私はひどく動揺する。高校時代の親友の名だったからだ。その人については私も会ったことがあるが、頭もさながらパンチのよく効いた人だった。サングラスにアロハシャツ、首にかけた金のネックレスが今も印象深い。一目でそっちの世界の人だと悟った。
 私に一抹の不安がよぎる。心配そうに見上げると、彼は大丈夫、と言ってから隣りの部屋へ行った。大丈夫と言われても気になるし不安はつきない。
 私は扉に張りつき、聞き耳を立てていた。
「で、話ってのは? うん。そっちは? まだ『店』は続けているの?」
 彼の言う『店』というのは健康食品の会社のことだ。いかにも怪しい商品を勝手に送りつけ、相手を脅して金額をせしめていた。親友の手前、彼も商品を幾つか購入し、十万単位のお金を支払っていたらしい。
 その後、親友からは経営が立ち行かないから金を貸してほしいと泣きつかれた。人の良すぎる彼は親友の為に借金までして金を工面したわけだが、渡してすぐに社長である親が自己破産して金をチャラにされた。これは計画的な犯行としか言いようがない。
 私としてはこれ以上関わって欲しくない人間だった。
「そう、家族が病気に。手術代って? そんなにかかるんだ。それは大変だね。
 僕もお金を工面できればいいけど――貯金?まぁなくもない。実を言うと二年前から積んでいる定期がある」
 話を聞いていた私は扉を開けて彼の頭を叩きたくなった。
 馬鹿、何正直に話しているのよ。
「確かにそのお金があれば君の家族は助かるかもしれない。でもこのお金は貸さないよ。
 これは今付き合っている彼女との未来の為に貯めているお金だから。そう、結婚資金だ。近いうちプロポーズしようと思ってる。
 ああ、親友より彼女の方が大事だ。これからもね。
 今までの僕は困っている人に手を差し伸べてきた。必要ならお金も貸したし、そのための借金もした。でもそれは自分で責任を持てたからだ。万が一騙されても傷つくのが僕一人で済んだからだ。
 でも僕には大切な人ができた。彼女は人のことをまず疑えって、簡単に信じるなって言うんだ。僕とは正反対の人間だよね。最初僕は彼女は哀れな人だと思ってた。けどそれは違うってすぐ分かったんだ。僕が性善説を信じて生きてるように、彼女は性悪説を地で生きているだけだったんだ。
 だから君にお金を貸した時、彼女は僕のことを滅茶苦茶けなしたよ。騙されたと分かってて何故何も言わないんだって。自分のことのように怒って悔しがって、僕のために泣いてくれたんだ。自分のことをこんなにも思ってくれたのは彼女が初めてだったんだよ。
 前回の件で僕は一つ決心したんだ。大切な人を悲しませることはもうしないって。
 だから金は貸さないよ。君の言ってることが真実だとしても、だ。人でなし?ああ、なんとでも言うがいいさ。君の家族がどうなろうとも僕には関係ない。大切な人が幸せになるなら僕は人を裏切る側にもなってみせるよ。
 悪いけど、今の話は録音させてもらっている。今日は見逃すけど、今後訳の分からない商品を売り付けたり金を無心するようなら法的手段を取らせてもらうから。こんな形で別れるのは残念だけど、君と話すことはもうないから切るよ。じゃあ」
 電話を切る音と同時に扉が揺れる。彼の深いため息がこちらにも届いた。慣れない啖呵を切って疲れてしまったのだろう。たまらず、私は声をかけた。
「大丈夫?」
「うん――もしかして、話聞いてた?」
 頷く私に変な話聞かせちゃったな、と彼が苦笑した。私は首を横に振る。カッコよかったよ、と言葉を添えて。
 彼が親友に突きつけたのは絶縁だけど、私にとっては最高の殺し文句だった。(1554文字)

このお題引いた時点で難産確定。恋愛スキル高くないし。こんな話だし。文字数もアレで時間ぎりぎりで推敲もほとんどできず……穴があったら入りたい

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2013

0508
 その日の放課後、私が一連の作業を終えて教室に戻ると、川上君がいた。
「顔色悪そうだけど、大丈夫?」
 私の前に川上君の手がかざされる。
「汗が出てる。熱は?」
 ただでさえ憧れの人の前では固まるというのに、額に手を当てられたことで、熱どころか動悸も上昇した。
 やばい、嬉しすぎる。
 でもこのままでは――確実に「来る!」 
 私は川上君から離れた。ごめんなさい、と一言謝ってその場を去る。廊下を全速力で走るとすぐに「その時」は来た。
 真っ直ぐ行って左側にトイレがある。私は迷わずそこに飛び込んだ。誰もいない洗面所にうっつぷす。シンクの栓をしてから水道を全開にした。
 怒涛のように落ちる洪水音を盾に私は嘔吐した。どろりとしたものが落ちてくる。その大きさに何度もむせると、目から珠玉がこぼれる。
 その場にしゃがみこんだ。深い呼吸を何度か繰り返し、心を落ち着けてから再び立ち上がって水道の栓を閉じた。
 シンクの中を改めて見る。足のない物体は餌をくれと口をぱくぱくさせていた。立派な尾びれに光る鱗、見事な紅色に私はげんなりとした。
 嗚呼、今までは金魚程度で済んだのに。何でこんなデカイのが。恋だけに鯉なのか? だとしたら本当洒落にならん。
「おいこら! 黙ってないで何とか言いなさいよ!」
 私は自分の中にいる神とやらに暴言を吐く。もちろん返事は返って来ない。私は泣きたくなった。何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!
 ――【八百万の神対策委員会】によると、今年の春から私に食物神が憑いたらしい。食物神とは食べ物の神のこと。とり憑いた理由は謎だが、今彼女の体質が私にシンクロしている。
 神話によると食物神は月読命をもてなすため、山に向かって獣を吐き、海に向かって魚を吐き、さあどうぞと差し出した。そしたらこんな物食えるかと月読命に斬られたらしい。その後食物神の死体からは五穀が湧いてきたとかなんとか。つうか、神様ならもっとスマートなやり方でもてなせっての!
 私は今、喜怒哀楽どの感情がきても吐き気をもよおすようになっている。喜の時は特に酷い。他の感情の二倍増しでくるからたまったもんじゃない。
 私は今にも床に落ちそうな鯉を見た。いつものように校庭の池に離してもいいのだが、あの池も住人が増え続けてそろそろ限界だ。もっと別の場所を探さないと。
 とりあえず、入れ物だ。
 私は小さな水たまりにいる鯉を救出すべく、バケツを探した。(1022文字)

以前某企画に出そうとしたものの、なかなか書けずに没ったネタ。蛇足として主人公の目から出る涙は白い繭なって床に落ちたという。そのへんのくだりは日本書紀を参考に

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2013

0507
 大通りから道一本離れた路地にカウンター席のみの小さな喫茶店がある。そこは美人のバリスタがいた。彼女以外の店員はいない。メニューもコーヒーだけだ。客が席につくと彼女がサイフォンに手をかける、そんなシステムになっている。
 彼女は必要以外の接客はしない。初めてこの店を訪れた時、愛想の悪い彼女を見てこれはダメだな、と思った。でも差し出されたコーヒーは格別に旨いし、淹れる時の立ち姿は堂に入って、とても美しい。
 カウンターに置かれた小さな花も店内を流れる音楽も、決して客の邪魔をしない。ただ寄り添って同じ時間を過ごしているだけだ。最低限の要素しかない店なのに、要所要所に気配りが利いている。
 僕はこの店をすぐに気に入った。晴れの日はもちろん、雨の日も雪の日も、時間を見ては店を訪れ、彼女の淹れるコーヒーを飲んだ。
 ある日、仕事帰りに店を訪れると看板の電気が消えていた。扉の前に私服姿の彼女がいる。ちょうど扉に鍵をかける所だった。
「今日はもう終わっちゃいましたか?」
 突然声をかけたせいか、彼女の肩が大きく揺れていた。でも声をかけてきたのが常連客だと分かり、すぐに体制を立て直す。
「今日は豆の仕入れがあるので。早めに閉めました」
「それは残念。貴方の入れるコーヒーを楽しみにしてたのに」
「また明日お越しください」
 そう言って彼女が踵を返す。刹那、金属音が響いた。持っていた鍵が落ちたのだ。
 彼女はすぐさま膝を折った。顔は上げたまま、地面の砂をかき集めるように手を動かして探している。そこで僕は初めて彼女が全盲だということに気がついた。
 僕は隅に追いやられた鍵を拾った。鍵ありましたよ、と声をかけてから彼女の腕に触れる。手の平に鈍色の鍵を乗せた。彼女がお礼を言う。愛おしそうに鍵を包む姿は仕事の時とも違う。
 とても柔らかな笑顔に僕の心がときめいた。(781文字)

小さな喫茶店の物語。ネタがなかなか出てこなくて苦戦した

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2013

0506
 まだ夏は先というのに、今日はやけに暑い。
 私はリビングで干物になりかけてた。ここでエアコンをつけてもいいが、広い部屋に一人だと電気代が勿体ない。扇風機の風で十分だ。
 私は息子の部屋に古い扇風機があったことを思い出した。早速息子の部屋へ向かう。普段ノックをしないと入れない部屋も、昼間は堂々と入れるから楽だ。
 久々に入る息子の部屋は混沌と化していた。布団は出しっぱなし、服は脱ぎっぱなし、壁や布に汗の匂いが染みついている。掃除をしないのは本人の責任だと放置していたが、ここまで散らかってると衛生上よくない。あとで掃除機をかけなきゃ。
 私はそんなことを考えながらクローゼットを開けた。上段に息子のワードローブがかけてある。下段には息子が趣味で集めたラジコンやプラモデルの箱。箱はぎっしり詰まっていて奥の扇風機が取り出せない。私は箱を一度よけることにした。
 一番上の箱に手をかける。たかがプラモと思ったが持ってみると意外にも重い。どうやら玩具以外のものが入っているらしい。
「中身は何かしら?」
 私は好奇心で箱を開けてみる。すると胸をあらわにした女性が目に飛び込んできた。悩殺ポーズが実に決まっている――いわゆるエロ本だ。他にも隠避そうなDVDが数枚出てきた。
 私ははやる動悸をおさえる。愛する息子が女性の体に興味を持ち始めたのは少なからずショックだった。その一方で、子供の成長を微笑ましく思える自分がいる。息子が一生懸命隠している姿を想像したら、可笑しくてたまらなかった。
 ――そうだ。
 私はちょっとした悪戯を思いつく。エロ本の箱の側にしまってあったラジコンをリビングに飾ったのだ。
 これを見て息子はどう思うだろう。見られたくないものの側に親が手を出して、ちょっとは慌てるだろうか、怒るだろうか。
 私はうきうきしながら息子の帰りを待った。(779文字)

息子の部屋でえっちぃな本を見つけた時の母親の心境。息子は中学生くらい。ほぼ実話といってもいい(笑)

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2013

0505
 大学近くの公園を散策していると、懐かしい奴に会った。
「よぉ」
 中学時代の悪友は昔の面影をだいぶ残していた。とはいえ筋肉質だった体はだいぶスリムになっている。背も伸びていてひょろりとしていた。
「原田じゃないか。どうした?」
「どうも何も、この間の約束を果たしにきたんだよ」
 そう言って原田はにっと笑う。会うのは一年ぶりだというのに、ついこの間会ったかのような口調。
「ほら、中学の時小宮と三人でコンビニ行った時、俺が財布忘れて、おまえらに払ってもらったじゃん。今度金返すって話したじゃんか」
「そういえば――そうだったっけ?」
 僕は昔の記憶を引きだすが、なかなか思い出せない。でも三人でよくつるんでいたから小銭の貸し借りはしてたかもしれない。とはいえ内容は肉まんひとつとか百円バーガーとかで、大した金額じゃなかった気がする。
 僕はすっかり忘れていたことを素直に話す。原田はふてくされた。
「こういうのは貸したほうが忘れないのがデフォだろ? ちゃんと覚えてろよ」
 そう言って原田は五百円玉を二枚を僕に渡した。 
「ちょっとだけど利子つけといたからさ。小宮にも渡しておいてくれ」
「じゃ遠慮なく頂こう」
「沢井は昔から抜けてる所あるよなー。顔だけはいいのに――俺の次に、だけどな」
「それにしても、何で返す気に? 古い約束なんて黙ってればいいのに」
「んー、しいていうなら心の整理?
 俺ら今年でハタチじゃん。人生の節目を迎えるわけだ。その前に過去の清算というか――俺なりのけじめっての? そんな感じだ」
「……そうか」
 そろそろ行くよ、と原田は言う。
「小宮に会ったらよろしく伝えといて。色々すまなかった、って」
「ああ。今度会う時はおまえの好きな物でも持って行くよ」
 僕の言葉に原田はにやりと笑う。手を振って別れた。明日また会おう、そんな感じで。
 原田の姿が見えなくなると携帯が鳴った。小宮からだ。受話器の向こうで小宮は声を震わせていた。
「原田の親から電話あって――さっき息を引き取ったって」
 小宮の報告に僕は目を伏せた。実は原田と会った時点で僕はこのことを覚悟していた。僕には見えないものが「見える」から。
 原田は難病を患い、余命半年と宣告されていた。僕と小宮は何度か病院を訪れたけど、原田は決して僕らに会おうとはしなかった。今思えばそれは原田の優しさであり、意地だったのだろう。
 本当なら外に出ることさえ無理だというのに。原田は最期、僕に会いに来てくれた。一番の未練を断ち切るために。
 手のひらに残された五百円玉が熱を帯びていた。(1082文字)

親友との再会と別れの時。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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