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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2025

0421
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2013

0409
「楽しそうだね、いつもそうやって遊んでいるの?」
 穏やかな声が私の耳に届く。
 二階の手前の部屋、扉の向こうに沢井の背中があった。私は彼の隣りに立って同じ景色を見る。目の前にあるのは真っ白な壁。もちろんそこには誰もいない。
「そうか、ここは君の部屋なんだね。うん、素敵な部屋だ」沢井はにっこりと微笑む。
 ああ、やっぱりそこに『居る』んですか?
 私が目で訴えると沢井は小さく頷いた。
 沢井の説明によると、目の前にいるのは五歳位の男の子。壁に突進してぶつかる遊びをしていたらしい。今はこれがマイブームなのだとか。
 正直に言うと私はそういった類が苦手だった。でも沢井と一緒にいるようになってそれは克服しつつある。
 動揺したり窮地に追い込まれた時、沢井の声を聞くと私の心は落ち着く。穏やかな低音は私にとって唯一の特効薬なのだ。
 とりあえず足音と家鳴りの原因は小さな幽霊の仕業だということは分かった。
 でもこの後はどうすればいいんだ? やっぱりお祓いとか必要なのかしら?
 私が考えあぐねていると沢井はこの子の両親をここに呼んであげるといいんじゃないかな、と言った。
「彼は留守番しているんだ。親の帰りをずっと待っているんだよ」
 なるほど。それなら不動産屋に問い合わせれば両親の連絡先が分かるかもしれない。
 私は先日不動産屋からもらった名刺を探した。
「好きな動物は? 食べ物は何が好き?」沢井は男の子に再び話しかける。たわいのない会話は傍からみたら異様な光景だけど、沢井の笑顔にそれはかき消される。
 私は彼の視線の先に小さな男の子の姿を見た気がした。(682文字)

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2013

0408
 颯爽と現れた教授の姿に誰もが青ざめた。手ぶらで会場に来たからだ。
「教授、学会の資料はどうしたんですか?」
 俺は恐る恐る聞いてみる。
 昨日、一人で発表の練習をするからと言って教授は資料を持ち帰っていた。必ず明日持ってくるから、と言いながら。 
「家を出た時はちゃーんとバッグに入れて持っていたんだけどねぇ。カラスにでも持ってかれたかな?」
「つまり、ここに来る途中に無くしたということですね」
「まぁ、そういうことですねぇ」
 次の瞬間、教授の座っていた椅子が吹っ飛んだ。もの凄い音が部屋の中をこだまする。
 ひっくり返った教授の頬には見事な痣ができあがっていた。見事なパンチを披露したのは教授の一番弟子。彼女はありえない、と嘆いている。
「一体どうするんですか? これから発表ですよ? 今から資料とスライド作り直しても間にあわないじゃないですか!」
「まぁ落ちつきたまえ、ここは礼儀を重んじる国、日本だ。
 君は知っているかい? この国は海外に比べて落し物が戻ってくる確率が高いんだ。特に財布や携帯電話は七割近く持ち主に戻ってくるという結果が出ている。これって素晴らしいことだよね」
「で?」
「私のバックの中には学会の資料の他に携帯と財布が入っていた。つまり、今頃私のバッグは優しき誰かが拾っているかもしれない。そして何らかの形で会場に連絡が来るだろう。その可能性は十分にありえる」
「ではそれまで待っていろと?」
「そういうことだねぇ」
「もう一発殴られたいですか?」
 ドスの効いた声が辺りを震わす。やばい、こうなるともう歯止めが効かなくなる。
 俺は彼らの視界に入らないよう後ずさりをしながら部屋を出て行く。そっと扉を閉めてから数秒後、雷が盛大に鳴り響いた。(737文字)

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2013

0407
 私たちは夜の帳が降りたベッドの上に横たわっていた。
 私は隣りに眠る彼の髪をそっとすいてあげる。静かな寝息が頬をかすめる。温もりがとても心地よい。
 このまま世界が終わってしまっても構わないと思う。
 でも彼には好きな人がいた。
 その左手薬指の指輪、対になる指輪を持つ女性――もうこの世に存在しない人。
 幸か不幸か、私はその人と同じ顔を持っていた。
 初めて会ったのは仕事の打ち合わせの時、彼は私を見てひどく狼狽していた。
 彼は私を見るたび懐かしむような表情をする。そのあとで、必ずといっていいほど憂いを帯びた目を向ける。
 今にも泣きそうな表情は私の中にある母性を引き出した。彼の「事情」を知ったのはそれからすぐあとのことだ。
 恋に落ちるまで時間はそんなにかからなかった。
 何回目かの再会の後、私は全てを知っている、と前置きしてから彼を求めた。
 彼はいつものように切なげな顔をして、やめておいた方がいいとたしなめた。
 一緒に居れば僕は君を都合良く利用するだろう、と。
 それでいい、と私は答えた。身代りでいい。貴方の側に居させてください――と。
 寄り添っていると、彼の肩がぴくり、と動いた。
 穏やかな寝顔が徐々に歪んでくる。
 また、あの人を失った時の夢を見ているのだろうか。
 彼の唇が動く。呟くのは彼が本当に求めている人の名。
 彼との逢瀬を重ねるたび、私の心は締め付けられる。決して叶わない願いをねだってしまう。
 たった一度、一度でいい。
 私の名前を呼んで。
 嘘でもいいから、愛してると囁いて欲しい。(667文字)

ひとまず1~10クリア。今まで昇順で消化してきましたが明日からランダムにお題を選びます

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2013

0406
 仕事から解放されて夕飯食べてお風呂入って、さあこれから寝ようって時になって「ヤツ」が現れた。
「そちの世界にあるカレぇというものを作ってくれ」
「嫌です」
 すると腕につけてあるブレスレットが光を放った。
 私は慌てて呪文を唱える。バリアーを張って衝撃を抑えたけど、それでもビリビリして痛い、痛すぎる!
「ふぉっふぉ。それなりに使えるようになったではないか」
 ふさふさの髭をもてあましながらヤツは言う。老人の戯言にどこが、と私は反論した。
 まったく誰よ、こんなの発明したのは。
 私は恨めしそうにブレスレットをつまむ。契約に反すると○カチュウ並みの電流が直撃するなんて。冗談じゃない。
 本当、こんなコト関わるんじゃなかった、私は心の底から思う。魔法使いにスカウトされて浮かれていたけど、弟子とは名ばかり、ただの雑用係ではないか!
「今夜の祭りで王に献上するからのう。気張って作れ」
 このくそジジぃ。
 ぎりぎりと歯ぎしりを立てながら、私はヤツを睨む。でもここで文句を言ってもさっきの繰り返しだけだ。百万ボルトをこれ以上受ける気力もない。
 私はのろのろと台所に立った。
「野菜は一口で食べられる大きさがよいのぉ。玉葱は飴色になるまでじーっくり、な」
 ソファーに寝転びながらヤツは言う。何の断りもなしにテーブルに置いてあったデザートに手をつけている。
 あ、あれは一時間並んでゲットした限定スイーツうぅ。
 私はぐつぐつ煮えたぎる思いを野菜と一緒に鍋の中へブチ込む。烈火の炎でぐっちゃぐちゃになるまでかき混ぜ続けた。野菜が柔らかくなった所で一度火を止め、個形のルーを二種類、崩しながら入れる。
 全く、何が悲しゅうて真夜中にカレーを作らなきゃならないんだか。
「ほほう、これがカレぇか」
 香りに誘われたのだろう。ヤツが鍋をのぞきこんでいた。熱い鍋の中に躊躇なく指を突っ込んで味見をする。
「うむ。これなら異世界の料理で他の奴らを出し抜ける。祭りがたのしみじゃ。ふぉーっふぉっふぉ」
 さて行くかのう、そう言って魔法使いは持っていた杖を回転させる。熱々のカレー鍋が時空を超えるべく宙を舞った。そして私も――
「えええっ! 私も?」
「当然じゃろう。レシピはおまえしか知らんのだから」
 ちょっと。私パジャマにエプロン姿なんですけど。全身カレー臭なんですけど。それ以前に私の貴重な週末は?
「もぉいやああっ」
 私の雄たけびをよそに、魔法使いは時空の扉を開けた。(1035文字)


昨日カレー鍋いじってたことを思い出しお題に絡めてみた。私には珍しいファンタジー系。何だかんだで1000文字超えたよ。

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2013

0405
 病院の待合室で待っていると、入口からもの凄い勢いで山瀬が走ってくるのが見えた。
「美緒は? 美緒はどこだ?」
 山瀬が私を見つけ叫んだ。彼の首筋から汗がだらだらと流れていた。
 私は一回うつむいた。そして天井にぶら下がっている看板に目を向ける。そこには手術室と書いてある。
「打ちどころが悪くて――覚悟しとけって」
「そんな」
 山瀬はがくりと膝を折った。
 美緒は私達のバイト仲間だ。昨日もファミレスに集まって一緒に夕飯を食べた。山瀬と美緒はいつものようにお互いをからかいあって最後にケンカ別れをした。
 山瀬は唇を噛みしめている。悪態をついているけど山瀬が美緒のことを好きなのはバレバレだった。
 それがこんなことになるなんて。誰がこんなことを予測できただろう。
 沈黙が続く。しばらくして診察室の扉から人が出てきた。
「あれ? 山瀬じゃん」
 見知った顔に山瀬は驚きの色を隠せない。
「みみみ、みおおっ?」
「こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
「おま、病院運ばれたって……」
「店長のこと? 脳震盪起こしたけど問題ないって」
「はぁぁあ?」
 山瀬がすっとんきょうな声をあげた。どういうことだといわんばかりに私の方を見る。
 でも私は今日見たことを正直に話しただけだ。
 今日店長が脚立から落ちて病院に運ばれた。美緒は付添いで一緒に乗っただけ。まぁ覚悟云々は悪い冗談だけど。
「でもこうでもしなきゃあんたは素直になれないでしょ?」
 お節介な嘘吐きの言葉に山瀬は目を丸くした。そのあとで参ったな、とつぶやく。
「そういうことかよ……」
 山瀬はため息をつく。その横でひとり事情を掴めない美緒が不思議そうな顔をしている。
「なに? いったいどゆこと?」
「ぜってー教えねぇ」
 そう言って山瀬は美緒を抱きしめた。美緒の口からふぎゃあ、と悲鳴が上がる。
 お幸せに。
 私はひらひらと手を振ってその場を離れた。(809文字)

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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