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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0512
 本来ならば直接会ってお礼を言うべきなのでしょう。
 失礼を承知で筆を取りました。
 Nさん、先日はお世話になりました。
 あれから私は相変わらずの日々を送っています。
 六月を迎え、庭の薔薇が満開の花を咲かせました。
 私はこの季節がとても好きです。
 庭が一面の紅色に染まるのは圧巻です。
 私は庭から三本の蕾と一つの花を摘んで、部屋に飾りました。
 今度はNさんにも赤い薔薇の葉を送りましょう。
 それではまた、お手紙を書きます。



「これは暗号――というよりレンジョウカだね」
 葉書を読み終えた後で彼が言う。レンジョウカ? 私はオウム返しした。彼が庭に落ちていた枝を取る。地面に恋情歌、と記した。
「おそらく、お母さんはNさんのことが好きなんだと思う。だから花言葉に乗せてこの手紙を書いたんだ」
 紅色の薔薇は【死ぬほど恋焦がれています】といった意味があるのだという。そして満開の薔薇は【私は人妻です】とも。
 私の心臓がどきどきうずいた。葉書は昨日母にポストに入れておいてと頼まれたものだ。ポストに入れる直前、何気に内容を読んで私は首をかしげた。家の庭には薔薇の木など一本もなかったからだ。しかも宛先の名は男性。
 でもまさか。これが暗号文だなんて思いもしなかった。 
「つまり、お母さんは浮気してるってこと?」
 私は彼に問う。それはない、と彼は即答した。
「この手紙を読む限りは何もないよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「手紙をよく読めばわかる」
 つまり自分で解読しろということか。
 葉書を返された私はため息をつく。心を読んだ彼がショックだった? と聞いてきた。私は素直に頷く。
 父と母はお見合い結婚だったけど、とても仲が良かったから。私にはそういう想像ができなかったのだ。
 かといって他の男性に心を乱した母を責める気はない。いくつになっても心ときめく出会いはあるのだと思う。ただ、一線を超えるか超えないかだけの話で。
 しばらくして、私達を呼ぶ声がした。母だ。
「こっちでお茶でも飲まない?」
 私たちは顔を一度見合わせ、わかったと答える。そのあとで彼が言った。
「一度お母さんに聞いてみたら? 気になるならちゃんと吐き出した方がいい」
「そうだね」
 まずは手紙を読んだことを謝ることから始めよう。
 私は葉書を上着のポケットにしまうと、母の元へ向かった。(995文字)

母の日だけに母ネタで。三つの蕾に一つの花→【あのことは永遠に秘密】 赤い薔薇の葉→【あなたの幸福を祈るわ】

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2013

0511
 車で走らせていると、道路のまん中に蛇がいた。霧が濃いせいで気づくのが遅かった俺はその上を素通りする。助手席にいた佐々木があっと叫んだ。ぶちり、と潰れる音。俺はスピードを保持したまま舌打ちする。
「轢いちまったか?」
「わっかんねぇ。最初から死んでたかもしれないし。つーか、俺の車汚れちまったし。ほんっとついてねぇ」
「それにしてもでかかったよな、あの蛇」
 佐々木の言葉に俺はこの辺に蛇の名をもじった池があったことを思い出した。池には大蛇が住んでいて、地元の住民はそいつをヌシと呼んでいた。
 昔は洪水のたびにそいつのせいだと恐れ崇めたとか。生贄を差し出したとか。
「もしかして、池のヌシ轢いちゃったとかないよな?」
「あんなの昔話だって。この辺に出るのはマムシかアオダイショウぐらいだろ」 
「そうだけどさぁ」
 佐々木は言葉をすぼめた。こいつは昔からそういうのに対して信心深い。
「呪いとか……ないよな」
「まさか」
 俺はけらけらと笑った。
 車はうねる坂を登る。トンネルを超えると霧は更に濃さを増した。佐々木が次の缶ビールに手を伸ばす。臆病風を吹かせたのか、ピッチが異常な位早かった。
 しばらくして、佐々木が短い悲鳴をあげる。
「どうした?」
「うっ、後ろ……」
 俺はバックミラー越しに後ろを確認する。もちろんそこには誰もいない。
「何だよ、俺を脅かそうって魂胆か?」
「ちが――ぐけふっ!」
「おいおい、俺の車にゲロすんなよ」
 俺は顔をしかめるが佐々木からの返事はない。俺は車を止め、助手席を見た。佐々木はビールを持ったままぐったりとしていた。目は見開き、舌はありえない位出ている。ひと目で死んでいると分かった。
 でも一体何故?
 俺は再び佐々木を伺う。首に何かで絞められたような跡があった。描かれた蛇模様に俺はぎくりとする。
「嘘、だろ?」
 やがて首にひんやりとしたものを感じた。悪寒が走る。ぬるりとうごめくそれは長い体をくねらせ、俺の頬をぺろりと舐めた。(840文字)

この後、主人公はぺろり頂かれましたとさ。

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2013

0510
 ――私が恋をしたのは生涯でただ一度きりのことでした。
 私が初めてこの庭を訪れた時、あの人は地面に転がった林檎をついばんでいました。あの人の目は水のように澄んでいて、青い羽根はきらきらと輝いていました。あんな綺麗な青を見たのは初めてで、私は見とれてしまいました。たぶん一目ぼれだったと思います。
 それから私はあの人に会うためにこの庭を訪れるようになりました。あの人は決まった場所に現れ、そこから一歩も動きませんでした。私もあの人に話しかけるわけではなく、遠くから様子を伺うだけだけです。
 あの人は寡黙でした。仲間の誰かが挨拶しても振り向きませんでしたし、他の誰かが赤い木の実を差し出してもそっけない態度でした。ただ目の前の林檎を黙々と食べているだけです。それでも私は姿を見るだけで満足でした。
 ある日、私が庭を訪れると灰色の猫が居座っていました。猫は目を見開き、口を大きく開けています。あの人の姿はどこにもありません。煙のように消えてしまいました。
 あの人は獰猛な猫に恐れをなして逃げたか、あるいは――食べられてしまったのかもしれません。どちらにしても、私はあの人に会うことができなくなりました。私の初恋は儚く散ったのです。
 その後、私は色々な人と出会いました。時に熱烈な求愛も受けましたが、彼らの翼の色を見るたびあの人と比べてしまう自分がいました。心に焼きつくのは空に似た青色。あんなにも美しい方に会えたのは後にも先にもないことでしょう。
 私も年をとりました。羽も色褪せ、今は飛ぶのがやっとです。
 自分の寿命を悟った私は最後の力を振り絞り、この庭に降りました。柔らかい草の上に転がります。見上げた先にはあの人の翼と同じ色の空。近くで木蓮の香りが漂います。
 体を横に向けると猫と目が合いました。猫は相変わらず大きな口を開けて笑っています。このままだと私も食べられてしまうかもしれません。でも私はそれでも構いませんでした。食べられてしまえばあの人の所へ行けるかもしれない。それこそ本望でしょう。
 しばらくして、庭に人間がやってきました。何か喋っています。もう何を言ってるのか聞き取れません。
 あの人の思い出に包まれながら、私はゆっくりと瞼を閉じました――

「母さん、鳥が死んでるよ」
「羽に艶もないし、きっと寿命だったのね。庭に埋めてあげましょう」
「そういえばここに小鳥の置物あったよね?」
「ああ、あれは玄関に移したの。この猫も愛嬌があって可愛いでしょ?」(1041文字)

鳥さんの淡い恋物語

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2013

0509
 深夜に彼の携帯が鳴った。
「あ、久しぶり」
 次に彼の口から出た名に私はひどく動揺する。高校時代の親友の名だったからだ。その人については私も会ったことがあるが、頭もさながらパンチのよく効いた人だった。サングラスにアロハシャツ、首にかけた金のネックレスが今も印象深い。一目でそっちの世界の人だと悟った。
 私に一抹の不安がよぎる。心配そうに見上げると、彼は大丈夫、と言ってから隣りの部屋へ行った。大丈夫と言われても気になるし不安はつきない。
 私は扉に張りつき、聞き耳を立てていた。
「で、話ってのは? うん。そっちは? まだ『店』は続けているの?」
 彼の言う『店』というのは健康食品の会社のことだ。いかにも怪しい商品を勝手に送りつけ、相手を脅して金額をせしめていた。親友の手前、彼も商品を幾つか購入し、十万単位のお金を支払っていたらしい。
 その後、親友からは経営が立ち行かないから金を貸してほしいと泣きつかれた。人の良すぎる彼は親友の為に借金までして金を工面したわけだが、渡してすぐに社長である親が自己破産して金をチャラにされた。これは計画的な犯行としか言いようがない。
 私としてはこれ以上関わって欲しくない人間だった。
「そう、家族が病気に。手術代って? そんなにかかるんだ。それは大変だね。
 僕もお金を工面できればいいけど――貯金?まぁなくもない。実を言うと二年前から積んでいる定期がある」
 話を聞いていた私は扉を開けて彼の頭を叩きたくなった。
 馬鹿、何正直に話しているのよ。
「確かにそのお金があれば君の家族は助かるかもしれない。でもこのお金は貸さないよ。
 これは今付き合っている彼女との未来の為に貯めているお金だから。そう、結婚資金だ。近いうちプロポーズしようと思ってる。
 ああ、親友より彼女の方が大事だ。これからもね。
 今までの僕は困っている人に手を差し伸べてきた。必要ならお金も貸したし、そのための借金もした。でもそれは自分で責任を持てたからだ。万が一騙されても傷つくのが僕一人で済んだからだ。
 でも僕には大切な人ができた。彼女は人のことをまず疑えって、簡単に信じるなって言うんだ。僕とは正反対の人間だよね。最初僕は彼女は哀れな人だと思ってた。けどそれは違うってすぐ分かったんだ。僕が性善説を信じて生きてるように、彼女は性悪説を地で生きているだけだったんだ。
 だから君にお金を貸した時、彼女は僕のことを滅茶苦茶けなしたよ。騙されたと分かってて何故何も言わないんだって。自分のことのように怒って悔しがって、僕のために泣いてくれたんだ。自分のことをこんなにも思ってくれたのは彼女が初めてだったんだよ。
 前回の件で僕は一つ決心したんだ。大切な人を悲しませることはもうしないって。
 だから金は貸さないよ。君の言ってることが真実だとしても、だ。人でなし?ああ、なんとでも言うがいいさ。君の家族がどうなろうとも僕には関係ない。大切な人が幸せになるなら僕は人を裏切る側にもなってみせるよ。
 悪いけど、今の話は録音させてもらっている。今日は見逃すけど、今後訳の分からない商品を売り付けたり金を無心するようなら法的手段を取らせてもらうから。こんな形で別れるのは残念だけど、君と話すことはもうないから切るよ。じゃあ」
 電話を切る音と同時に扉が揺れる。彼の深いため息がこちらにも届いた。慣れない啖呵を切って疲れてしまったのだろう。たまらず、私は声をかけた。
「大丈夫?」
「うん――もしかして、話聞いてた?」
 頷く私に変な話聞かせちゃったな、と彼が苦笑した。私は首を横に振る。カッコよかったよ、と言葉を添えて。
 彼が親友に突きつけたのは絶縁だけど、私にとっては最高の殺し文句だった。(1554文字)

このお題引いた時点で難産確定。恋愛スキル高くないし。こんな話だし。文字数もアレで時間ぎりぎりで推敲もほとんどできず……穴があったら入りたい

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2013

0508
 その日の放課後、私が一連の作業を終えて教室に戻ると、川上君がいた。
「顔色悪そうだけど、大丈夫?」
 私の前に川上君の手がかざされる。
「汗が出てる。熱は?」
 ただでさえ憧れの人の前では固まるというのに、額に手を当てられたことで、熱どころか動悸も上昇した。
 やばい、嬉しすぎる。
 でもこのままでは――確実に「来る!」 
 私は川上君から離れた。ごめんなさい、と一言謝ってその場を去る。廊下を全速力で走るとすぐに「その時」は来た。
 真っ直ぐ行って左側にトイレがある。私は迷わずそこに飛び込んだ。誰もいない洗面所にうっつぷす。シンクの栓をしてから水道を全開にした。
 怒涛のように落ちる洪水音を盾に私は嘔吐した。どろりとしたものが落ちてくる。その大きさに何度もむせると、目から珠玉がこぼれる。
 その場にしゃがみこんだ。深い呼吸を何度か繰り返し、心を落ち着けてから再び立ち上がって水道の栓を閉じた。
 シンクの中を改めて見る。足のない物体は餌をくれと口をぱくぱくさせていた。立派な尾びれに光る鱗、見事な紅色に私はげんなりとした。
 嗚呼、今までは金魚程度で済んだのに。何でこんなデカイのが。恋だけに鯉なのか? だとしたら本当洒落にならん。
「おいこら! 黙ってないで何とか言いなさいよ!」
 私は自分の中にいる神とやらに暴言を吐く。もちろん返事は返って来ない。私は泣きたくなった。何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!
 ――【八百万の神対策委員会】によると、今年の春から私に食物神が憑いたらしい。食物神とは食べ物の神のこと。とり憑いた理由は謎だが、今彼女の体質が私にシンクロしている。
 神話によると食物神は月読命をもてなすため、山に向かって獣を吐き、海に向かって魚を吐き、さあどうぞと差し出した。そしたらこんな物食えるかと月読命に斬られたらしい。その後食物神の死体からは五穀が湧いてきたとかなんとか。つうか、神様ならもっとスマートなやり方でもてなせっての!
 私は今、喜怒哀楽どの感情がきても吐き気をもよおすようになっている。喜の時は特に酷い。他の感情の二倍増しでくるからたまったもんじゃない。
 私は今にも床に落ちそうな鯉を見た。いつものように校庭の池に離してもいいのだが、あの池も住人が増え続けてそろそろ限界だ。もっと別の場所を探さないと。
 とりあえず、入れ物だ。
 私は小さな水たまりにいる鯉を救出すべく、バケツを探した。(1022文字)

以前某企画に出そうとしたものの、なかなか書けずに没ったネタ。蛇足として主人公の目から出る涙は白い繭なって床に落ちたという。そのへんのくだりは日本書紀を参考に

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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