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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0507
 大通りから道一本離れた路地にカウンター席のみの小さな喫茶店がある。そこは美人のバリスタがいた。彼女以外の店員はいない。メニューもコーヒーだけだ。客が席につくと彼女がサイフォンに手をかける、そんなシステムになっている。
 彼女は必要以外の接客はしない。初めてこの店を訪れた時、愛想の悪い彼女を見てこれはダメだな、と思った。でも差し出されたコーヒーは格別に旨いし、淹れる時の立ち姿は堂に入って、とても美しい。
 カウンターに置かれた小さな花も店内を流れる音楽も、決して客の邪魔をしない。ただ寄り添って同じ時間を過ごしているだけだ。最低限の要素しかない店なのに、要所要所に気配りが利いている。
 僕はこの店をすぐに気に入った。晴れの日はもちろん、雨の日も雪の日も、時間を見ては店を訪れ、彼女の淹れるコーヒーを飲んだ。
 ある日、仕事帰りに店を訪れると看板の電気が消えていた。扉の前に私服姿の彼女がいる。ちょうど扉に鍵をかける所だった。
「今日はもう終わっちゃいましたか?」
 突然声をかけたせいか、彼女の肩が大きく揺れていた。でも声をかけてきたのが常連客だと分かり、すぐに体制を立て直す。
「今日は豆の仕入れがあるので。早めに閉めました」
「それは残念。貴方の入れるコーヒーを楽しみにしてたのに」
「また明日お越しください」
 そう言って彼女が踵を返す。刹那、金属音が響いた。持っていた鍵が落ちたのだ。
 彼女はすぐさま膝を折った。顔は上げたまま、地面の砂をかき集めるように手を動かして探している。そこで僕は初めて彼女が全盲だということに気がついた。
 僕は隅に追いやられた鍵を拾った。鍵ありましたよ、と声をかけてから彼女の腕に触れる。手の平に鈍色の鍵を乗せた。彼女がお礼を言う。愛おしそうに鍵を包む姿は仕事の時とも違う。
 とても柔らかな笑顔に僕の心がときめいた。(781文字)

小さな喫茶店の物語。ネタがなかなか出てこなくて苦戦した

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2013

0506
 まだ夏は先というのに、今日はやけに暑い。
 私はリビングで干物になりかけてた。ここでエアコンをつけてもいいが、広い部屋に一人だと電気代が勿体ない。扇風機の風で十分だ。
 私は息子の部屋に古い扇風機があったことを思い出した。早速息子の部屋へ向かう。普段ノックをしないと入れない部屋も、昼間は堂々と入れるから楽だ。
 久々に入る息子の部屋は混沌と化していた。布団は出しっぱなし、服は脱ぎっぱなし、壁や布に汗の匂いが染みついている。掃除をしないのは本人の責任だと放置していたが、ここまで散らかってると衛生上よくない。あとで掃除機をかけなきゃ。
 私はそんなことを考えながらクローゼットを開けた。上段に息子のワードローブがかけてある。下段には息子が趣味で集めたラジコンやプラモデルの箱。箱はぎっしり詰まっていて奥の扇風機が取り出せない。私は箱を一度よけることにした。
 一番上の箱に手をかける。たかがプラモと思ったが持ってみると意外にも重い。どうやら玩具以外のものが入っているらしい。
「中身は何かしら?」
 私は好奇心で箱を開けてみる。すると胸をあらわにした女性が目に飛び込んできた。悩殺ポーズが実に決まっている――いわゆるエロ本だ。他にも隠避そうなDVDが数枚出てきた。
 私ははやる動悸をおさえる。愛する息子が女性の体に興味を持ち始めたのは少なからずショックだった。その一方で、子供の成長を微笑ましく思える自分がいる。息子が一生懸命隠している姿を想像したら、可笑しくてたまらなかった。
 ――そうだ。
 私はちょっとした悪戯を思いつく。エロ本の箱の側にしまってあったラジコンをリビングに飾ったのだ。
 これを見て息子はどう思うだろう。見られたくないものの側に親が手を出して、ちょっとは慌てるだろうか、怒るだろうか。
 私はうきうきしながら息子の帰りを待った。(779文字)

息子の部屋でえっちぃな本を見つけた時の母親の心境。息子は中学生くらい。ほぼ実話といってもいい(笑)

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2013

0505
 大学近くの公園を散策していると、懐かしい奴に会った。
「よぉ」
 中学時代の悪友は昔の面影をだいぶ残していた。とはいえ筋肉質だった体はだいぶスリムになっている。背も伸びていてひょろりとしていた。
「原田じゃないか。どうした?」
「どうも何も、この間の約束を果たしにきたんだよ」
 そう言って原田はにっと笑う。会うのは一年ぶりだというのに、ついこの間会ったかのような口調。
「ほら、中学の時小宮と三人でコンビニ行った時、俺が財布忘れて、おまえらに払ってもらったじゃん。今度金返すって話したじゃんか」
「そういえば――そうだったっけ?」
 僕は昔の記憶を引きだすが、なかなか思い出せない。でも三人でよくつるんでいたから小銭の貸し借りはしてたかもしれない。とはいえ内容は肉まんひとつとか百円バーガーとかで、大した金額じゃなかった気がする。
 僕はすっかり忘れていたことを素直に話す。原田はふてくされた。
「こういうのは貸したほうが忘れないのがデフォだろ? ちゃんと覚えてろよ」
 そう言って原田は五百円玉を二枚を僕に渡した。 
「ちょっとだけど利子つけといたからさ。小宮にも渡しておいてくれ」
「じゃ遠慮なく頂こう」
「沢井は昔から抜けてる所あるよなー。顔だけはいいのに――俺の次に、だけどな」
「それにしても、何で返す気に? 古い約束なんて黙ってればいいのに」
「んー、しいていうなら心の整理?
 俺ら今年でハタチじゃん。人生の節目を迎えるわけだ。その前に過去の清算というか――俺なりのけじめっての? そんな感じだ」
「……そうか」
 そろそろ行くよ、と原田は言う。
「小宮に会ったらよろしく伝えといて。色々すまなかった、って」
「ああ。今度会う時はおまえの好きな物でも持って行くよ」
 僕の言葉に原田はにやりと笑う。手を振って別れた。明日また会おう、そんな感じで。
 原田の姿が見えなくなると携帯が鳴った。小宮からだ。受話器の向こうで小宮は声を震わせていた。
「原田の親から電話あって――さっき息を引き取ったって」
 小宮の報告に僕は目を伏せた。実は原田と会った時点で僕はこのことを覚悟していた。僕には見えないものが「見える」から。
 原田は難病を患い、余命半年と宣告されていた。僕と小宮は何度か病院を訪れたけど、原田は決して僕らに会おうとはしなかった。今思えばそれは原田の優しさであり、意地だったのだろう。
 本当なら外に出ることさえ無理だというのに。原田は最期、僕に会いに来てくれた。一番の未練を断ち切るために。
 手のひらに残された五百円玉が熱を帯びていた。(1082文字)

親友との再会と別れの時。

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2013

0504
 買ったパンを食べるべく公園のベンチに向かうと、そこに黒皮の本が置かれていた。
「魔法大全集?」
 私は本のタイトルを声に出して読む。すると、
「そなた、その本が読めるのか?」
と後ろにいた老人が聞いてきた。
 老人の質問に私は読めるも何も、と言いかけ、はっとする。書かれている文字が日本語じゃなかったからだ。英語ともアラビア語とも違う。歴史で学んだ象形文字にも似つかない。今まで見たことがなかった。
 じゃあ何故私はこれを読めた?
「ふぉふぉ、どうやらそなたには素質があるようじゃのう」
 長い顎髭をもてあましながら老人は言う。
「そなた、儂のような魔法使いにならんかえ?」
 老人の言葉に私はくるりと踵を返した。さわらぬ神に祟りなし、だいたいその三角帽子は何? 長い白髪と顎髭は何? 今日はコミケでもアニフェスの日でもない。なのに、そのいかにも的なコスプレは何。どう見ても怪しいだろ。
「宗教の勧誘はお断りします」
 私は早足で公園をあとにした。交差点に出る。丁度信号が青になったので渡ると、車が私めがけて突っ込んできた。
 ぶつかる!
 私は目を瞑る。体がふわりと浮いた。衝撃に耐えるべく体を縮めるけど――あれ? 一向に落ちる気配がない。
 私は恐る恐る目を開ける。目の前にさっきの老人がいた。
「危ない所だったのぅ」
 のんびりとした口調。ヨボヨボの体が浮いている。私は自分の足下を見てぎょっとした。ちょ、空に浮かんでるんですけど。これは夢ですか?
 老人は抱えていた本を開き何かを唱えた。小さなかまいたちが私たちを取り囲む。風は私をさっきの公園に下ろしてくれた。
「お爺さんって本当に魔法使いだったんですね」
「勿論じゃ。信じてくれたかのう」
「はい。あの、ありがとうございます。助かりました」
「そう思うなら儂の弟子になってくれんか」
「は?」
「魔法の世界も後継者不足でのう。なぁに、弟子と言っても週に二回儂の所で修行してもらうだけでいいんじゃ。習い事と一緒と思えばよい」
 老人の言葉に私は唸る。不安要素は沢山だ。けどまぁ助けて貰ったし、習い事感覚でいいなら構わないか。
「いいわ。弟子になる」
 老人は喜び、早速契約を結ぼうと言った。その笑顔に裏があると気づいたのは一週間後のこと。
 その時の私は契約の果てにとんでもないことが待ち受けていることを知らずにいた。(990文字)

09.真夜中の祭」「30.魔法の呪文」に続き魔法使いネタ。主人公の受難はここから始まったといってもいい。

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2013

0503
 その夜、月は雲に籠っていた。
 私は息子の辰之進を連れていた。増改築を繰り返した館の廊下を歩く。うねる道の終は行き止まりだった。
 私は壁に蝋燭をかざす。板と板の合間にある楔を見つけ、つまみ出した。楔を横に引き壁をずらす。開いた扉の奥に小さな部屋が現れる。
 半畳ほどの板間はいわゆる「隠し部屋」だ。床板が外れるようになっていて地下へ降りる階段がある。地下には横穴があり、それは村はずれの廃寺へ繋がっている。
 ひととおりの説明を終えると息子はほう、とため息をついた。
「まさか、この館に抜け道があったとは」
「抜け道を知っているのは殿と私の二人だけだ。近いうちここも戦場になる。敵はいつ城に侵入してもおかしくない。よいか辰之進。その時は奥方様をここに案内しろ。二人で峠を越え、奥方の実家へ向かうのだ」
「分かりました。無事奥方様を送りましたら私も城に戻りましょう」
「否、おまえは戻らなくてよい」
「どうしてですか?」
「もうよいのだよ――『お辰』」
 久々に呼ぶ名に息子の目が見開く。男の皮が剥がれた。しゃがれた声が消え甲高い声が響き渡る。
「私が女子だからですか? 女子では役に立たないと、父上はおっしゃるのですか?」
「それは違う」
「だったら何故!」
 辰が私に詰め寄る。鼻息が酷くて持っている蝋燭が今にもにも消えそうだ。
 私は興奮を抑えきれない娘を静かに諭した。
「この城はやがて落ちる。私は最期まで殿をお守りする所存だ」
「だったら私も」
「だがな。おまえがもしここで討たれたらと思うと――私は口惜しいのだ。
 おまえを産んだ母上に申し訳が立たない、心苦しくて仕方ない。死に急ぐにおまえはあまりにも若すぎるのだ」
 五人の子を授かったものの、男子に恵まれなかった私は末娘の辰を男として育てあげた。辰は利発で武道も秀でている。初陣では私の期待に応えてくれた。
 男と肩を並べるのは大変だったことだろう。女であるが故に苦しんだこともあるだろう。姉達にひがまれても愚痴ひとつこぼさず、私の側にいてくれた。
 この国は滅びの道を進んでいる。父親として子に出来ることはただひとつ。
「おまえは賢い。その知恵を別のことに生かせ。『辰』として新たな道を歩め」
「父上……」
「辰之進は私にとって最高の息子だった。ありがとう」
 私の言葉に覚悟を見出したのだろう。辰は膝を折りその場にへたりこんだ。
 私は再び蝋燭をかざす。娘の体が震えている。その頬に光るものを見つける。
 辰は口元を手で覆い、今にもこぼれそうな感情を必死に殺していた。(1070文字)

戦国あたりの時代モノ。つっこむトコは色々あるんだが、時間切れになったのでそのままup

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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