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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0502
「なぁ知ってるか? 隣のクラスの山田、あいつのいとこが足立と同中だったらしい。そのいとこが言うには、足立は中学の頃からすごかったって。
夜な夜なクラブに出入りしてたとか、二十歳差のオヤジと援助交際してたとか。そっちの中学じゃかなり有名な話らしいぜ。」
 俺はクラスの奴らの話をそのまま伝えるが、佐藤からの反応はない。グラウンドの隅で黙々とスパイクのピンを外している。俺の話に興味がないようだ。
 俺は自販機で買った炭酸を一気に飲みほした。桜の花びらが風に乗ってやってくる。
 やがて全てのピンを外した佐藤がぽつり言った。 
「足立さんって言葉キツイけど、悪い人じゃないと思う」
「なんで?」
「足立さんってさ、近所にいた猫に似てるんだよね」
「はぁ?」
「黒くて細くて毛並みが良くて、すっごく綺麗だったんだよ 」
「飼い猫か?」
「昔飼い猫だったけど、捨てられたって噂だった。すっごい警戒心強くてさ、人が近づくと引っかくんだ。で、あたしはその猫にどーしても触りたくて。その猫見つけた時はいつも餌をあげてたんだ。最初は遠くから見ているだけで徐々に距離を近くしてくの。触れるまで一年くらいかかったかな? あたしの手のひらで餌を食べてくれた時は嬉しかったなー」
 話が本筋から逸れた気がするが、佐藤の言わんとしていることは分かった。
 足立は美人だ。美人だと良くも悪くも目立つ。出回る噂も何処まで本当か分からない。もしそこに悪意がこめられてたら人間不信になるだろう。
 そう考えると足立の言う「自分の回りは敵か味方か傍観者」も納得がいく。
「あ」
 小さなつぶやきが耳に届く。気がつくと佐藤があさっての方向を向いていた。視線を追いかける。グラウンドにに噂の本人がいた。
 俺はこっちに向かってくる足立に猫の姿を重ねる。黒い耳と尻尾、ケモノ皮のビキニ。あまりにも似合いすぎる。真っ先に浮かんだ言葉はもちろん萌えだ。ただ、本人にそのことを言えば確実に殺される。
 俺は自分の邪な考えを速攻で消した。(844文字)

本サイト作品「スタートライン」高校一年生春の話。この頃の葉月はまだ「足立さん」と呼んでいたという

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2013

0501
 孝太郎さんが帰るというので私たちは家の外まで見送ることにした。
 孝太郎さんは旦那の従兄弟だ。子供の頃から旦那と仲が良い。この間まで海外で仕事をしていて、旦那とは実に十年ぶりの再会だった。
「ごちそうになりました」
「大したお構いもできずに……その、いろいろごめんね」
 帰り際、私は孝太郎さんに謝る。孝太郎さんは笑顔で許してくれた。本当、心の広い人だなと思う。
「……じゃあ、駅まで送ってくるから」
 義妹の美也ちゃんがそう言うと、横から旦那が口を挟んだ。
「送るんなら俺がいこうか? 積もる話もある――」
 私は旦那の足を思いっきり踏みつけた。どうぞごゆっくり、と行って二人を送り出す。
「ったー、何すんだよ!」
「ここは二人っきりにさせてあげなさいよ」
「なんで?」
「なんでって、そういうことなの! いい加減気付け」 
 ここまで言って、旦那はやっと気付いたらしい。自分の妹と従兄弟、二人の背中を交互に見ながら目を白黒させる。
「あいつら付き合ってるの?」
 私はため息をついた。この人が鈍感なのは知っていたけど、ここまでくると重症だ。
「おまえは知ってたのか?」
「もちろん」
「おまえらは?」
 旦那は後ろにいた自分の弟妹に聞く。彼らの答えはもちろんイエス。
「姉ちゃん、昔から孝ちゃんになついてたし」
「孝ちゃんスーツ着てたよね。私『娘さんを下さい』って話になるかと思った」
「俺も」
 顔を見合わせる彼らに私はうんうんと頷く。やはり二人はちゃんと空気を読めていた。
 それなのにこの馬鹿旦那、家を訪れた従兄弟を両親の前で拉致るとは、一体どういう神経してるのやら。
 昔のアルバムを出して語る、思い出の場所へ連れまわす。お互いの旧友を呼んで酒盛りまで始める――
 普段は私が旦那の暴走を止める役だけど、買い物の帰りに車が故障してしまい、家に戻った時は既に手遅れだった。自分勝手な息子に家族は匙を投げ、美也ちゃんは居間でふつふつと怒りをたぎらせていた。
「とにもかくも、今日のあんたはKYすぎ。恥ずかしくて仕方なかったわよ」
 私は旦那を小突く。孝太郎さんは日を改めて挨拶に来ることになったけど――本当二人には申し訳ない気持ちで一杯だ。
 旦那はというと未だ信じられなさそうな顔をしている。
「あいつらいつの間に――つうか、いとこ同士の結婚ってアリなわけ? え? 大丈夫なのか?」
 初歩的な質問に頭が痛くなる。足元で三歳の娘がけーわいってなに、と聞いてきたので私は答えた。
「KYってのは空気を読めないバカのこと。あなたはお父さんみたくならなくていいからね」(1087文字)

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2013

0430
 駅から家までの帰り道、普段は車を使うが今日は自転車だ。町境を超える帰り道は高校時代、アユと一緒に走った道でもあった。
 すぐ近くの駄菓子屋でコーラを買う。アユはここのたい焼きが好きだった。
 小さな商店街を抜ければ水田が広がる。蛙の声を聞きながら自転車を十分ほど走らせる。鬱蒼とした林道に入った。長い上り坂は息を切らせながらペダルを漕いだ。
 町境越えて坂を下ると再び田園風景が広がる。水田にぽつぽつと建つ農家を通って道なりに進む。
 やがて大きな橋が見えてきた。
 俺は橋のまん中で自転車を止めた。ポケットをさぐる。中から出てきたのは銀色の指輪だった。俺とお揃いで、アユが就職でこの町を出る時に買ったものだ。
 離れ離れになるけど心は変わらない。これは二人の絆の象徴だと思っていたのに――
 実際は二年しか効力を持たなかった。別れ話の際、俺は浮気したアユを平手打ちにした。殴っても心は一向に晴れなかった。別れてからも俺は自分の指輪を外せずにいた。

 ――今日、アユのいる街へ行く機会があった。
 日帰りの出張先がたまたまアユの住処の近くだっただけだけど、俺の足は勝手にそちらへと向かっていた。我ながら情けないと思う。
 アユの住んでいる街は相変わらず住宅とビルが雑然と建っていた。緑と呼べるものは公園と庭先の鉢植え位だ。アユは駅前の量販店で働いていた。
 俺は自分の顔を隠しながら店の隅に佇んだ。アユは接客に忙しくて俺に気づいてないようだった。
 時折アユのはきはきとした声が聞こえる、鏡越しにアユの自信を持った笑顔が見える。どれもが俺の知っているアユじゃなかった。
 俺の知っているアユは大人しい。弱っている者を見たら手を差し伸べる、心の優しい女。
 どっか抜けている所とか、とろい所とか、全てが愛おしかった。
 でもアユは変わってしまった。俺を置き去りにして――

 俺は薬指につけていた自分の指輪を抜き取る。アユの指輪に重ねた。大きく振りかぶり川に投げる。銀色が清流に沈むのを確認すると俺は再びペダルを漕ぎ出した。
 橋を渡ってしばらくすると、左右に広がるわかれ道にぶつかる。左に曲がれば俺の家、右に曲がればアユの家。
 昔はここで別れるのが惜しくて何度も右に曲がった。でも今は――
 俺はハンドルを左に切る。反対の道を一度見たあとで呟いた。さよなら、と。(984文字)

昨日書いた「70.一緒にいよう」のヒロ視点。

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2013

0429
 注文したコーヒーが届いてから少しして、私は手に握っていたものをテーブルに置いた。恋人のヒロの前に差し出す。
 銀色のそれは、今ヒロがしているのと同じ指輪だった。
 離れ離れになっても心は側にある、そんな気持ちを込めてお互いに買ったものだった。
「私は二年前と同じ気持ちでいることはできなかった……ごめんなさい」
 言葉を紡ぐと感情が高ぶる。泣いてはいけないと思った。自分から別れを切り出したのに、そこで泣くのはあまりにも卑怯すぎる。
 私は指輪に視線を落とした。そこにヒロの歪んだ顔が映っていた。嘘だろ、と唇が動いている。
「約束したよな。おまえがこっちに帰ってきたら結婚しようって。今度こそ離れない、一緒にいようって。あれは嘘だったのか?」
 ヒロの声が震えていた。私は唇をかむ。膝に置いた拳に力がこもった。 
 地元へ異動になったら結婚しよう――
 確かにヒロ約束をした。でもそれは離れていてもお互いの気持ちが変わらなかったら、という前提があった。
 私は就職を機に故郷を離れた。地元に就職したヒロと離れてもう二年が経とうとしている。知らない場所で暮すのは怖くて寂しくて、最初は何度もヒロに電話をした。
 でも一年過ごすと親友と呼べる人ができた。仕事で尊敬できる上司に会った。ヒロ以外の男の人に出会った。
 彼らは年齢も考え方も違う。彼らの生き様は興味深くて刺激的だ。話を聞く度私は狭い世界を生きていたのだと思い知らされた。
 最初はヒロと会う時間がとても大切に思えたけど、その気持ちは徐々に薄れていった。
「男……か?」
 しばらくして唸るような声が耳に届いた。私は息をのむ。顔をあげるとヒロが真剣な眼差しで見ていた。
「向こうで好きな男ができたのか?」
 もう一度問われた。私は覚悟を決める。
「好きな人は、いた。振られたけど、一度だけ寝た」
 ふいに風が切る。頬を叩かれた。平手だったのはヒロの優しさだろう。
「俺がいたのに告ったわけだ。上手くいったら二股かけてたってことか? ずいぶんだな」
「そう、だね」
 私は腫れた頬のまま同意する。口元に慟哭が広がった。
 私は臆病だから。もしそうなっていたら怖くて、きっとヒロに言えなかった。
 でもその一方でヒロに叱咤してほしかったのだと思う。だって今、ぶたれてほっとしてる自分がいる。
 ああ、やっぱり私はずるい女なのかもしれない。(996文字)

結婚ネタを書くつもりが別れ話になっていたという。色々書いたら洒落にならん文字数に。ここまで削るのに苦労した

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2013

0428
 ソフト部に入部してから三カ月目、晴天の霹靂が起きた。
 今度の大会のスターティングメンバーに私が選ばれたからだ。
 突然の抜擢に私は驚いた。思わず顔がにやけるけど、その喜びはすぐ消えた。
 レギュラーの人たちに緊張が走っている。
 私が選ばれた、これが事実ならレギュラーの誰かが一人外される、それもまた事実。
 メンバーから外されたのは三年生だった。
 毎日練習を欠かさない、努力家の先輩だ。先輩にとって次の試合は学生生活最後の大会だった。
 名前を呼ばれ、先輩はうつむいた。悔しさをにじませている。何とも言えない重い雰囲気が回りを覆った。
 無理もない。私はまだ三か月で、向こうは三年間の実績があったのだから。
 私は唇を噛みしめた。感情を噛み砕き闇に放り込む。何とも言えない苦い味がする。
 その日、練習が終わったあとで先輩に声をかけられた。
「レギュラー入りおめでとう」
 先輩の言葉に悪意はない。だからこそ私は戸惑う。出てきた返事はは「すみません」の一言だった。
「何言ってんの。選ばれたことに自信を持って」
「でも」
「私に負い目を感じなくていい。ウチの部は実力主義、私情を挟まないって分かってるでしょう?」
 先輩の言葉に私は頷く。ここで自分を卑下したら私は先輩の努力を否定することになる。それこそ先輩に失礼だ。
「誰に何を言われても堂々としてなさい。そして私が到底かなわないって思うような活躍をしなさい」
 先輩の激励に私ははい、と大きな声をあげた。かぶっていた帽子を取り、先輩に一礼する。本当なら私のことを恨んでも仕方ないはずなのに。先輩の気づかいが嬉しくて、私は瞳を潤ませた。(698文字)

スポ根と勝負は切っても切れない関係。それもまた事実

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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