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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0430
 駅から家までの帰り道、普段は車を使うが今日は自転車だ。町境を超える帰り道は高校時代、アユと一緒に走った道でもあった。
 すぐ近くの駄菓子屋でコーラを買う。アユはここのたい焼きが好きだった。
 小さな商店街を抜ければ水田が広がる。蛙の声を聞きながら自転車を十分ほど走らせる。鬱蒼とした林道に入った。長い上り坂は息を切らせながらペダルを漕いだ。
 町境越えて坂を下ると再び田園風景が広がる。水田にぽつぽつと建つ農家を通って道なりに進む。
 やがて大きな橋が見えてきた。
 俺は橋のまん中で自転車を止めた。ポケットをさぐる。中から出てきたのは銀色の指輪だった。俺とお揃いで、アユが就職でこの町を出る時に買ったものだ。
 離れ離れになるけど心は変わらない。これは二人の絆の象徴だと思っていたのに――
 実際は二年しか効力を持たなかった。別れ話の際、俺は浮気したアユを平手打ちにした。殴っても心は一向に晴れなかった。別れてからも俺は自分の指輪を外せずにいた。

 ――今日、アユのいる街へ行く機会があった。
 日帰りの出張先がたまたまアユの住処の近くだっただけだけど、俺の足は勝手にそちらへと向かっていた。我ながら情けないと思う。
 アユの住んでいる街は相変わらず住宅とビルが雑然と建っていた。緑と呼べるものは公園と庭先の鉢植え位だ。アユは駅前の量販店で働いていた。
 俺は自分の顔を隠しながら店の隅に佇んだ。アユは接客に忙しくて俺に気づいてないようだった。
 時折アユのはきはきとした声が聞こえる、鏡越しにアユの自信を持った笑顔が見える。どれもが俺の知っているアユじゃなかった。
 俺の知っているアユは大人しい。弱っている者を見たら手を差し伸べる、心の優しい女。
 どっか抜けている所とか、とろい所とか、全てが愛おしかった。
 でもアユは変わってしまった。俺を置き去りにして――

 俺は薬指につけていた自分の指輪を抜き取る。アユの指輪に重ねた。大きく振りかぶり川に投げる。銀色が清流に沈むのを確認すると俺は再びペダルを漕ぎ出した。
 橋を渡ってしばらくすると、左右に広がるわかれ道にぶつかる。左に曲がれば俺の家、右に曲がればアユの家。
 昔はここで別れるのが惜しくて何度も右に曲がった。でも今は――
 俺はハンドルを左に切る。反対の道を一度見たあとで呟いた。さよなら、と。(984文字)

昨日書いた「70.一緒にいよう」のヒロ視点。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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