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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0427
 仕事からの帰り道、彼女に会った。
「こんばんは」
 朗らかに微笑まれるとこちらの目じりも思わず下がってしまう。
 彼女は近所に越してきた奥さんだ。今日もふわふわの洋服を着ていた。フリルのエプロンが良く似合う。
「今日は帰りが遅いんですね」
「ええ、まぁ」
「またウチに寄って行きませんか? おいしいお茶ごちそうしますよ」
 彼女が上目遣いで俺を見る。これは明らかに俺を誘っている。
 これまで俺は彼女の誘いを断れずにいた。その可愛い顔も、まとう香りも俺好みだったから。
 それが向こうの作戦だと知っていても俺は彼女に甘んじていた。
 でも、このままではまずい。
 危機を感じた俺は今日、わざと帰宅時間をずらした。けど実際は彼女の方が一枚上手だったようだ。
 今日誘いに乗ったら、本当にダメになる。
 こんな俺を妻はどう思うだろう。
 怒るだろうか。呆れるだろうか。
「どうぞ、遠慮しないで」 
 囁く彼女に俺は唾をのむ。
 漂うのは甘い香り。俺の脳がじわじわと溶けていく。
 この後の幸せを想像したら、いてもたってもいられなくなった。
「じゃあいちごのタルトを――テイクアウトでふたつ」
「ありがとうございます」 
 注文を受けた彼女が店の中へ入っていく。
 こうして俺は今日も甘い毒に犯されるのであった。(554文字)

近所にできたケーキ屋の前での葛藤。久々に短くまとまった♪

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2013

0426
 ある秋の一日、動物たちがそれぞれの宝物を見せ合っていました。
 松ぼっくりや栗の実、鮮やかな色の葉――その中でも蛙の宝物はひときわ輝いていました。
 小さな箱の中にハートの模様が入った珠がひとつ入っています。その可愛らしさに他の動物たちは目を奪われました。
 どこで拾ってきたの、と鳥が聞くと蛙は空から落ちてきたと言いました。
 きっとこれは神さまからの贈り物だよ、と言う兎に蛙も頷きます。これは大切な宝物。大切すぎて触るのも恐れ多いんだと言いました。
 蛙は宝物の入っている箱の蓋を閉めました。そして誰にも開けられないよう鍵をかけます。物重しい蛙に他の動物たちもほう、とため息をつきました。
 やがて寒い冬がやってきます。蛙は冬の間土の中で寝て過ごします。蛙は土の中へ潜ると鍵のかかった箱を抱えて長い眠りにつきました。
 雪が溶け、春が来ます。冬眠から覚めた蛙は宝箱に異変が起きていることに気づきました。鍵穴から小さな芽が出ていたのです。
 どうしよう、宝物は大丈夫なのかしら?
 蛙は気が気ではありません。すぐに鍵を解いて確かめたかったのですが、芽が鍵穴を塞いでしまっている以上、どうしようもありません。
 箱を壊すことも考えましたが宝物も一緒に壊れてしまうのではないかと思い、できませんでした。 
 芽はやがて双葉となりました。蔓を伸ばし葉を増やします。夏が来るころには蕾をつけ、小さな白い花を沢山咲かせました。
 花が落ちると、そこから緑色の風船が現れます。風船は風に揺れるとからからと音をたてました。何か中に入っているようです。
 蛙は風船のひとつを取ると中を割ってみました。
 するとどうでしょう。中からハートの模様が入った珠が出てきたではありませんか。それは蛙が大事にしていた宝物でした。それも3つも。
 そう、蛙の宝物は花の種だったのです。
 蛙はその実を集めると他の動物たちにあげました。蛙からの贈り物にみんはとても喜びました。(824文字)

フウセンカズラの話。たまには童話っぽいのを書いてみる

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2013

0425
 普段は冴えない女子高生の私だが、実は人に言えないバイトをしていた。
 悩みを抱える人の話を聞きアドバイスをする、いわゆる人生相談なわけだが、私の場合は特殊だ。
 本日も迷える子羊がやってきた。が、目の前に現れた人を見て私は思わず叫びそうになる。何故ならその人物とはさっき教室で別れたばかりだからだ。宿題忘れるなよ、と念も押された。
「え、えっと、本日はどういったご相談で?」
 変装しているとはいえ気が気でない私に相手はとつとつと身の上を語ってくれた。
「私は教員をしているんですが、その、副業で占いをしてまして」
「占い、ですか?」
「ええ。先月、顔を出さないことを条件に取材を受けたんですが、ちょっと困ったことになってしまって」
 私はふとクラスの噂話を思い出す。確か、テレビに出た占い師が実はこの町に住んでいるとか。それは先生のことだったのか。
 先生の話によると、取材を受けてからそっちの仕事に忙殺され本業がままならないらしい。今は寝る間もないのだとか。
 確かに、先生は体が細くなったし授業中に貧血で倒れることが多かった。なるほど。蓋を開ければなんてことない。そっちにも表の顔と裏の顔があったからだ。
 でも教員の副業は原則として認められない。顔を隠しているとはいえ、先生はメディアに晒されてしまった。このままだと遅かれ早かれ正体がバレるだろう。
「で? 貴方はどうしたいの? 教師を辞めて占い師になる?」
「いいえ。私は占いを廃業します。でもこの力は手に余る。だから」
「私に消してほしいと?」
「はい。ある方が言ってました。貴方は獏の中でも異質だとか」
 先生の真剣な眼差しに私は息を飲んだ。
 先生の言うとおり、私は獏の血を引いている。獏は悪夢を喰うといわれるけど、突然変異の私はヒトの潜在能力を喰らう。それはヒトの将来や可能性を奪うに等しい。
「わかりました。あなたの望みを叶えましょう」
 私は先生に壁の古時計をずっと見るように伝えた。振り子の揺れに集中していた先生の瞼が徐々に降りてくる。日頃の睡眠不足も手伝ってかあっさりと眠りに落ちた。
 私は先生に近づき、眠ってることを確認すると自分の眼鏡を外す。
 先生の周りからはただならぬオーラが放出されていた。これだけの能力をため込んでいたら、確かに回りは放っておかない。隠そうとしてもそのオーラが人を引き寄せてしまう。
 人気というものはそういうもの。でも、先生はそれを望んでいないのだ。
 私は先生は触れた。息を吸いオーラを引き寄せる。するすると口の中へ入っていくと心と腹が満たされていく。全てを吸い込むと手をあわせ、頂きましたと感謝の意を告げた。
「時計が鳴ったら今まで起きたことは全て忘れます。貴方はいつものように家に帰ってゆっくり休んでください」
 明日また学校で会いましょう。
 私は心の中で呟くと部屋をあとにした。(1200文字)

 お題知った昨日からこのネタ思いついてぐるぐる。文字数がアレでキリ良すぎて苦笑

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2013

0424
 競馬場の喫煙室で一服してると、出口に妻が立っていた。頬が引きつっている。当然だ。俺は休日出勤と嘘をついてここにいるんだから。
「賭けが過ぎるからしばらく競馬は控えてって言ったよね?」
「いや、気が付いたら足がふらふらと」
「嘘つけ! いい加減止めろ!」
「って言われても馬は俺の生活の一部で――あ、せっかく来たならおまえも一度やってみれば? 馬の楽しさが分かるって」
「……わかった。じゃあ一つ、賭けをしようか」
「は?」
「次のレース、一着の馬を当てたら相手の言う事を何でも聞く。これでどう?」
 その条件に俺は乗った。勝った時に言うのは決まっている。相手はギャンブルとは無縁の人間、負ける気がしなかった。
 俺は競馬新聞を睨む。色々考えた末、手堅い一番人気でいくことにした。配当金は雀の涙ほどだが、要は当たればいいこと。
 俺が券売機に向かうと、先にいた妻に券を渡された。
「もし私が勝ったらその券自由に使って。そのかわり競馬とは縁を切ってね」
 俺は彼女の買った馬券を見る。単勝大穴狙いで投資額は一万円。勝てば万馬券だが無茶にもほどがないか?
 俺は首をかしげつつ、券を買い会場へ向かう。ファンファーレが鳴りひびきゲートが開かれた。
 トップを走るのは彼女が賭けた馬。だがこれは大逃げ、予想通り第二コーナー手前で失速する。
 一方俺の賭けた馬は先行で馬群の前方にいた。読み通り第三コーナーを回った所で先頭の馬を捉える。
 そして第四コーナーで事件は起きた。
 先頭を走っていた馬がぬかるみにはまったのだ。バランスを崩して他の馬に体当たりする――俺の賭けた馬に。
 何頭かが将棋倒しになったあと、列の後半を走っていた馬が差しに入った。
 大逃げした馬が最後のスパートをかける。空に舞うは紙吹雪。阿鼻叫喚とも呼べる声。喧騒の中隣りにいた妻が思ったより大したことないのねと呟いている。
 俺は手切れ金を手にしたまま、しばらく動けずにいた。(821文字) 

いわゆるひとつのビギナーズラック。

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2013

0423
 夏休みが明けた九月、校門で光に会った。
 光は幼馴染の男の子。今年の夏はアメリカへホームステイに行っていた。会うのはひと月ぶりだ。
「あさひちゃん、おはよう」
 光はぱっと見、夏休み前と何ら変わってなかった。
 でもなんでだろう。心なしか見下ろされたような。
 最初は目の錯覚と思った。けど光が私の横に並んだことでそれは違うと気づく。夏休み前は同じだった肩の高さが微妙に違ったからだ。
 私は校舎に入ると教室に向かわず、光を連れて保健室へ向かった。お互いの身長を計る。私一五三センチ、光は……一五五センチ?
「やった、あさひちゃんに勝った」
 私に万年チビと呼ばれていた光がガッツポーズをした。追い抜かれた私は嘘、と叫んだ。生まれてから今まで一度も光に負けたことなかったのに。
 そこへ保健の先生があらあら、という顔をしてやってきた。
「せんせー、僕身長伸びたの。あさひちゃんに勝ったんだよ!」
 嬉しそうに話す光に先生はにっこりと笑った。
「そうね。男の子はこれからが成長期だから。このぶんだとあと10センチは伸びるかしら」
「やったー!」
 大喜びの光に更に私も問いかける。
「私は? 私も身長伸びる?」
「女の子も伸びるけど男の子ほどではないかな。体は徐々に丸みを帯びてふっくらしてくるけど」
 それって体重が増えるってこと?
「そんなのイヤあ」
 私は思わずしゃがみこむ。光には絶対負けられなかった。勉強も運動も、遊びひとつとってもそう。私は光の前にいなきゃいけないのに。
『光に何かあった時は、あさひちゃんが守ってあげてね』
 私は光のおばあちゃんとの約束を思い出す。小さい頃、泣き虫だった光を心配しておばあちゃんは私を頼った。光のおばあちゃんはその次の日に病気で亡くなった。
 どうしよう。このままじゃ光を守れなくなる。
 おばあちゃん、私どうしたらいい? 
 私が途方に暮れていると肩を叩かれた。振り向いた先に光がいる。
「今まで守ってもらってばかりだったけど、これからは僕があさひちゃんを守ってあげるからね」
 光の言葉は頼もしかった。
 でも私にとってそれは一番聞きたくなかった言葉。
「イヤ、それだけは絶対イヤ!」
 私は全力で拒否する。そのあと大声をあげて泣いた。(944文字)

守る側が守られる側に変わった瞬間に無邪気な子供心を添えて。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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