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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0422
 今朝、遠距離恋愛をしている彼女からメールが届いた。
 好きな人ができたの。だからあなたとはもう付き合えない。ごめんね。
 彼女とはSNSで知り合った。最初は同じ趣味を持つ仲間としての付き合いだ。何度かメールをやりとりし、数ヶ月前のオフ会で初めて会った時、交際を申し込んでつき合い始めた。
 実際に会えたのは週末や連休の時だけだけど、二人でいる時間は楽しかったし、幸せだった。彼女も同じ気持ちだと信じていたのに――
 ネットがきっかけで始まった俺達の付き合いはたった三行のメールであっけなく幕を閉じた。 
「でもさぁ、別れる時はせめて電話とかにしない?」
 その日の夜。俺は大学時代の後輩を連れてやけ酒に走っていた。
「大事な話なら遠くても顔見て話そうって思わない?」
 俺は後輩にからむと、長期の出張から帰ってきたという後輩はそうですよね、と親身に答えた。時々携帯の着信らしき振動が何度かあるが、後輩はそれらすべてを拒否していた。
 何度目かの着信で気になった俺は後輩に聞いてみた。
「電話出なくていいのか?」
「いいんです。電話はいつでも折り返しできますから。今は先輩の話の方が大事です」
 謙虚な後輩の態度に俺は感動する。電話の催促よりも俺の愚痴を優先してくれるなんて。本当にいいやつだ。
「でも、そんなに何度もかけてくるってのは大事な用かもしれないぞ。一回かけてこい」
「いや止めておきます」
「なんで?」
「たぶん、話が長くなるだろうし。あとで電話するってメールだけ打っておきます」
「もしかして、彼女か?」
「に、なるかもしれない人です」
「まーじーで?」
 俺は思わず声をあげた。これはショックと言うより感嘆の声。
「そういうことは早く言えよ。おまえと俺の仲だろうが。すぐに言ってくれればよかったのに」
「先輩がこんな時に言っても失礼かと思って」
「んなことねぇって」
 俺は後輩の背中をどんとたたく。俺は今不幸を背負っているが、人の幸せをねたむほど器の小さい男じゃない。可愛い後輩ならなおさら、応援する気満々だ。
「で? どんな子なんだ? 可愛いのか?」
 後輩は照れながら携帯に撮った画像を見せてくれた。
「出張先で出会ったんですけど、向こうは彼氏がいて。でも諦めきれなくて、ダメ元で告ったんです。そしたら向こうも会った時から気になっていたって。
 彼女、彼氏と別れることができたら俺とつき合ってくれるって――あれ? 先輩どうしました?」
 後輩が俺の顔を覗き込む。
 携帯の画像を見た瞬間、俺は真っ白な灰になっていた。体の震えが止まらない。
 無理もない。映っていたのは俺の――(1099文字)

このあとの展開はご想像にお任せします。

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2013

0421
 宵闇の中で物音を聞いた。
 私はそっと体を起こす。触台を持ち廊下に出ると外へ出る扉の前に彼の姿を見つけた。伸びかけの金髪はひとつにまとめられている。身なりを整え、一振りの剣を腰に抱えていた。
 私は彼の行く先を悟り、問いかける。
「行くのですね」
「ああ」
 彼ははっきりと答えた。深紅の瞳に希望の光を携えて。 
 彼は隣国の王子だった。ひとつの罪を犯し、雪と厳しい寒さに覆われた国境を越え、この村へ着いた時は虫の息だった。
 私は彼と初めて会った時のことを思い出す。彼は自分自身を「災いの種」と呼んでいた。己の存在は国を滅ぼす、だから消えていなくなるべきだと。当時彼の目に生気は宿っていなかった。
 だが、彼はひとりの少女に救われた。
 小国民だった少女は掟によりこの国を背負わされた。ただでさえ大変なことなのに、彼女は彼を受け入れた。それが破滅への道だと分かっていても差し伸べた手を離すことはなかった。
 この国は今、罪人を匿ったことを立前に隣国から侵略されていた。すでに都は焼かれ、城も制圧されている。彼女は捕えられ隣国に投獄された。瀕死だった彼は極秘にこの村に運ばれ、今日まで匿われていた。
 彼は言った。城が落ちた時、側近も侍女も殺された、彼女の愛する人も彼女の目の前で殺されたと。
 知り合いたちの死を私は悲しんだ。そして彼は自分を責め続けていた。
 己のせいで国を滅ぼしたこと、彼女を護れなかったこと、そして大きな力の前に自分が叶わないことを彼は思い知らされていた。  
 でも彼は再び立ち上がった。彼女を救うために。
「貴方に神の加護がありますように」
 巫女である私は彼に祈りを捧げる。その先の未来を知りつつも、無事を願わずにいられなかった。
 彼は私に感謝の言葉を述べ旅立っていった。重い扉が閉まり重苦しい闇が訪れる。
「行ってしまわれましたね」
 気がつくと私の隣りに人が立っていた。
「これでよかったのでしょうか?」
 疑問を投げかけられ、私は答える。 
「彼は自分の進む道へ――本来在るべきところへ向かった。ただそれだけだけのことです」(882文字)

昔に書いた掌握の続き。巫女さんは未来予知の力があり、この先の展開を知りつつも王子を見送る、そんな話。

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2013

0420
 久々に従妹の家を訪れると小さな魔法使いが迎えてくれた。
「わたしはまほうつかいもも。まほうのくにへようこそ」
 風呂敷のマントに三角帽子、杖の代わりはペロペロキャンディ。そのいで立ちに私は思わず笑みをこぼした。
「魔法少女っての? 最近ブームみたい」
 リビングでお茶を出しながら従妹は言う。なんでもももちゃんの魔法使いはどのアニメにも当てはまらないだとか。しかも彼女の呪文は難解すぎるらしい。
 そんな話を聞いていると、早速ももちゃんが魔法の呪文を唱え始めた。
「■※○▲★§‰~ トビラよひらけーっ」
 私は思わず茶を吹いた。
「ね、意味不明でしょ」
 母親である従妹がころころと笑う。私も相づちするが内心はひやひやだ。
 私の記憶が確かなら、ももちゃんが唱えたのは物を壊す呪文だ。昨日教わったから忘れるはずがない。
 誰にも話してはいないけど、私は魔法使いの卵だ。ある日魔法使いにスカウトされ、目下修行中の身である。
 まぁ、そのスカウトした魔法使いもアレっちゃあアレなんだけど。
 それにしても、ももちゃんはあの呪文を何処で覚えたのだろう。あれは魔法使い以外誰も知ることのない言葉のはず。
 私に一抹の不安がよぎる。まさか、ねぇ?
「ねぇももちゃん、その呪文はどこで覚えたのかなー?」
「だんごこーえんにいたおじいちゃんがおしえてくれたの」
 ももちゃんの言う「だんごこーえん」とは、近所の児童公園のことだろう。隣に団子屋さんがあって、そこのみたらし団子は絶品との評判だ。
 確かにヤツはみたらし団子に目がない。
「えっと、そのおじいちゃんってのは、もしかして三角帽子と眼鏡つけた、髭の長い、杖を持ったおじいちゃん?」
「うん。おねえちゃん、おじいちゃんのことしってるの?」
 あ の く そ じ じ い ! なに子供に攻撃魔法を教えてるんだよ。
 杖が本物だったら天変地異が起こっていたぞ。
 それだけじゃない。
 話を聞く限り、ももちゃんは私よりも先に魔法を教わったことになる。私の時はどんだけ頼んでも教えてくれなかったくせに。何よそのお手軽さは。
 あのじじい、いつかぶっ殺してやる。
 私は作ったこぶしにぐっと力をこめた。(920文字)

お題を見てこのキャラたちしか出てこなかったという。詳しくは「09.真夜中の祭」で

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2013

0419
 今年の文化祭、うちのクラスは演劇をすることになった。演目はロミオとジュリエットだ。
 シェイクスピアの原文は台詞が長く難しい言葉も多い。現代風の砕けた台本もあったけど、原語にこだわったのは先駆けとなる人たちがいたからだ。
 去年の文化祭で三年生が演じたリア王は私たちに衝撃を与えた。言葉の意味は分からなくても口調や動きで内容を理解できたし、何より演技している人達が堂々としていた。
 私たちもあんな風に演じてみたいね。 
 その一言からクラスの出し物が決まった。だが現実は甘くなかった。
 原語のままの台詞はほぼ全員が覚えられずにいる。そのうち部活だ塾だと理由をつけて練習をさぼる人間が出始めたのだ。
 しまいには主役のひとりが(自分で立候補したくせに)出来ない、役を降りたいと言い始めた。
 芝居班のぐだぐだぶりに、裏方班も士気を失っていた。舞台の背景はもちろん、衣装も小道具も出来上がらない。
 先生は「自分たちで決めたことだから自分たちで何とかしろ」と言うだけだ。
 このままだとヤバイ――クラスの誰もが思った頃、私たちのクラスに来客がきた。去年、リア王を演じた先輩だ。
「文化祭でシェイクスピアやるって聞いたから覗きに来たんだ。今年はロミジュリだって?」
「ええ、まぁ」
「どしたの? 元気ないけど」
「その、みんな色々手を焼いてまして」
 私は言葉を濁す。
 ノリだけで決まった出し物だけど、私達にシェイクスピアは無謀だったのだ。 
 それを考えると先輩達はすごい。受験でいっぱいいっぱいだったはずなのに彼らは立派に演じきったのだ。
「先輩はあの量の台詞をよく覚えられましたね」
「あー、あれ口パクだったから」
 その一言に衝撃が走った。
「あらかじめ録音していた声に合わせて人が動いてたの。あの量の台詞は手に負えないし。そんな時間あったら英単語覚えたほうが有意義だって」
 あっけらかんという先輩にその場全員の腰がくだけたのはいうまでもない。(828文字)

このあとクラスの士気は復活し無事カーテンコールを迎えましたとさ。

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2013

0418
「私、葛城さんに『もし、明日雨が降ったら二人で映画見にいきませんか?』ってメール送りました!」
 さつきの話を聞いた私はなんて無茶なことを、と思う。というのもメールを送った相手、葛城陽一が晴れ男だからだ。
 明日は草野球の試合がある。葛城は私の彼氏と草野球のチームを組んでいた。陽一の陽は太陽の陽だというが、それは間違いではない。葛城が試合に出る日はとにかく晴れる。いつぞやは上陸予定だった台風の進路を変えたこともあった。太陽の名を頂いた人間は最強の晴れ男として君臨している。
 蛇足になるが明日の天気は快晴だと携帯のひつじも言っていた。
 私はさつきにそのことを話す。だが、「大丈夫です」とあっさり返された。私、雨女なんでというその理由もすごい。
 「私、昔からここぞと言う場面で雨に遭うんです」
 そういいながら彼女は朗らかに笑う。私は苦笑するが、しばらくしてあれ? と思う。
 そういえばさつきが入社した年は初日から雨だった。レクや社員旅行も、彼女が参加した年は雨が降っていたような。いや待て。この間うちの部署が計画した花見、あれもさつきを誘っていた。だがそれも嵐で中止になってしまった。まさか。
 私はごくりと唾をのむ。同時にさつきの携帯が鳴った。画面を見ていたさつきに満面の笑みが広がる。
「雨が降るのを楽しみにしています、って。きゃーっ」
 葛城はどんな気持ちでそのメールを送ったのだろう。もしかしたら鼻で笑っていたかも。明日その鼻がへし折れるかもしれないと思ったら、私も結末が気になってしまった。
 空を見上げる。明日は五月晴れか五月雨か? 答えは天上の神のみぞ知る――というところか。
 そういえば二人が初めて出会った合コンは晴れだった? 雨だった? 思い出せない自分がもどかしい。あとで彼氏に聞いてみよう。(762文字)

 晴れ男と雨女の戦い第1R。さつきは葛城にほぼ一目ぼれ。葛城の気持ちは謎のまま。このタイトル見た時、わらべの「もしも明日が」がふっと浮かんだ自分がいたわ

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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