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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0606
 バイト前に店のショーウィンドウを覗いていると、何をしている、と声をかけられた。振り返るとニシが立っている。
「最近付き合いが悪いと思ったら、こんな所にいたのか」
 その台詞に私はあんたとつき合った覚えはないんですけど、と毒を吐く。ニシがうっ、と言葉に詰まった。HPが10ほど削れたか?
「で、何を見ていたんだ?」
 復活したニシが改めて聞いてくる。いつもだったら絶対に教えない所だが、今日は機嫌が良かったので教えることにした。店頭に飾られた商品の一つを指す。私が見ていたのは女物の腕時計だった。円盤で文字は銀色、背景は薄いピンクで覆われている。ベルトもチタン製で上品な仕上がりだ。
「型落ちだが、なかなかのセンスだ。さすが俺の親友」
 ニシの評価には余計な単語が多かったが、それをスルーし、そうでしょそうでしょ、と私は頷く。この店の前を通った時一番に目を引いたのはこの時計だった。たぶん一目ぼれだったんだと思う。
 私が目をきらきらとさせながら時計を眺めていると、ニシが不思議そうな顔をした。
「買わないのか?」
「え?」
「たかが時計だろ? 欲しいなら買えばいいじゃないか?」
 私は頬をひきつらせる。そりゃあ金持ちのニシにとって五桁の金額は「たかが」な物でしょうよ。でも私にとっては高い買い物なのだ。私はこの時計を手に入れるために今まで週三だったバイトを週五に増やした。土日は朝から晩まで詰めて、がむしゃらに働いた。あと一週間で給料日だ。お金が振り込まれたら速攻で買いにいく。時計ちゃん待っててね、すぐに迎えにいくからね。私は心の中で呟くとにっこりと笑う。
「じゃ、私バイトだから」
 私はニシに手を振ると、軽い足取りでバイト先へ向かった。
 次の日、バイト前に店を覗くと、ショーウィンドウに飾ってあった時計がなくなっていた。私は硝子にはりつく。どこかに移動したのかと思ったけど、何度見てもない。その時丁度店の人が出てきたので、私はあの、と声をかけた。
「ここに飾ってあった一点ものの時計、売れちゃったんですか?」
「ああ、あれねぇ」
 店員は私の顔を覚えていたのか、ばつの悪そうな顔をする。それでも正直に話してくれた。今日の昼間、若い男が買っていったらしい。高校生なのにブラックカード出され、店員は仰天したのだとか。その話に私は凍りつく。そんなことができるのは私が知っている中でただ一人だけだ。
 その後のことは記憶にない。あまりのショックでどうやってバイト先にたどりついたのか、そこで何をしたかも覚えていない。のろのろとした足取りで帰途につく。家の前に黒塗りのベンツが停まっていた。扉が開く。私の目の前に現れたのはニシだ。
「親友よ、待っていたぞ」
「何の用?」
「おまえに渡したいものがある」
 そう言って差し出されたのは小さな紙袋だった。見覚えのある店のロゴに私は眉をひそめる。
「開けてみろ。きっと喜ぶ」
「いらない」
 私は即答する。今はその顔を見るのも嫌だ。
「変な物が入ってるわけじゃない。中身は――」
「時計でしょ? 昼間買ってったんだって?」
「だったら早い。じゃあ受け取れ」
「いらないって言ってるでしょ!」
 私はニシの手を払った。紙袋がニシの手から離れ地面に落ちる。私の拒否っぷりにさすがのニシもキレたらしい。なんだよ、と言葉を荒げる。
「ずっと欲しかったんだろ? だからお前の代わりに買ってやったのに。なんで断る? 訳わかんねーんだけど」
「そうね。簡単に買えるあんたには、私の気持ちなんて絶対わかんない!」
 私は言葉を吐き捨てると、ニシに背を向けた。鍵を差し、家の中に入る。拳が震えた。こみ上げてくるのは悔しさばかりだ。ニシは私の気持ちを踏みにじった。あいつが放つ親友なんて言葉は偽善だ! あいつは何にも分かっていない。
 確かに私はあの時計が欲しかった。でも私は自分の稼いだお金で買いたかったのだ。努力して手にした証が欲しかった。自分への褒美が欲しかった。それなのに――
 あまりにも悔しくて私は鞄を床に叩きつける。それでも気は一向に晴れなかった。(1694文字)

東西コンビ再び。金銭感覚による友情(?)の亀裂を書いてみた。このあと二人が仲直りするかは考えてないのだが、意外にも書きやすい二人だったりする。

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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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