もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
喫茶店に呼び出したのは俺と同期入社の今川だった。相変わらずチャラそうな顔をさせて俺のもとへやってくる。
「悪いな、休日なのに呼び出して」
「別にいいよ。で、俺に聞きたいことって何?」
「その、芹花のことなんだけど。昔のこととか――元カレのこととか聞きたいんだ」
「苑村の元カレって……ああ、戸波課長かぁ。あの人って今ブラジルだっけ?」
今川のぼやきに俺は小さく頷く。日本の裏側へ赴任した戸波課長は芹花や今川の上司だった。仕事もできて上からも下からも慕われていた。趣味はテニスで学生時代はインターハイにも出場したとか。とにかく有能な人だった。
戸波課長の海外赴任が決まった時、芹花は一緒についてきてほしい、と言われたらしい。でも芹花はそれを断り、結局二人は別れた。決して相手を嫌いになったから別れたというわけではなかった。
だから俺は不安になる。
「もしかしたら芹花はまだ、課長の事を好きなんじゃないかなぁって」
俺は自分を落ちつけるよう、頼んだコーヒーに口をつけた。今川のアイスコーヒーがテーブルに揃うと、何だよそれ、と今川が呆れる。
「もっと自信持てよ。今苑村の彼氏はおまえだろ? 過去の事気にしてどうする?」
確かに今川の言う事は正しい。戸波課長と俺は別個の人間だし、芹花にとってはもう過去の出来事だ。頭では分かっている。
「だけどさ、俺、あの人には一生勝てない気がする」
「何で?」
「俺、課長みたいに仕事できないし喋りも下手だ。お洒落な所も知らない。デートしてもつまらないんじゃないかって思うんだ。
芹花だって、俺と一緒にいて、課長の時と色々比べちゃうことがあると思うんだよ。何で俺みたいなのを好きになったんだろう……何かの間違いじゃないのかな?」
俺の言葉に眉をひそめながら今川がストローに口をつけた。アイスコーヒーを飲む。残り僅かな液体がずこずこずこ、と音を立て吸い上げられていく。今川は最後に氷を一つつまんで噛み砕いた。背筋を伸ばしあのさ、と言葉を紡ぐ。
「おまえ、今苑村に対してすげー失礼こと言ったぞ」
「え?」
「確かに戸波課長は完璧な人だよ。苑村だって本気で好きだったと思うよ。けどさ。苑村だって課長が人生で初めて付き合った人なわけないだろ? 他に付き合った奴もいたんだろ?」
「そりゃあ……まぁ」
いつだったか、昔付き合った人間は何人って話になった時、僕のゼロに対して、芹花は二人と答えていた。
「課長に比べたらおまえは弱くて頼りなくて、どーしようもない欠けまくりの人間だ。でも苑村はその欠けている所も含めて好きになったんだ。欠けている部分は個性だ。個性は相手と補いあえば完璧にもなるし、それ以上にもなる。恋愛ってさ、そういう助け合いというか、信頼が大事じゃないのか? お互いを思いやりながら個性を育てていくもんじゃないのか? 俺の言ってる事、間違っているか?」
今川の熱弁に俺はぽかんと口を開けていた。普段はちゃらいことばっか言ってるのに、今だけはまともに――いや、もの凄い奴に見える。
「とにかく、お前は苑村の手を絶対離すんじゃねぇ。あんないい女、あとにも先にもいないんからな!」
だん、とテーブルを叩かれたので俺は体を委縮した。睨んだような目で射られ、俺の口から思わずはい、と大きな声が出る。一気に目が覚めた、そんな感じだった。(1389文字)
実は今川が芹花のもう一人の元カレだったというオチ。喝の部分は今川の教訓だった。でもうまくまとまらなかったのでカットすることに。このあと主人公たちはお互いの気持ちを打ち明け絆を深めたとさ。
「悪いな、休日なのに呼び出して」
「別にいいよ。で、俺に聞きたいことって何?」
「その、芹花のことなんだけど。昔のこととか――元カレのこととか聞きたいんだ」
「苑村の元カレって……ああ、戸波課長かぁ。あの人って今ブラジルだっけ?」
今川のぼやきに俺は小さく頷く。日本の裏側へ赴任した戸波課長は芹花や今川の上司だった。仕事もできて上からも下からも慕われていた。趣味はテニスで学生時代はインターハイにも出場したとか。とにかく有能な人だった。
戸波課長の海外赴任が決まった時、芹花は一緒についてきてほしい、と言われたらしい。でも芹花はそれを断り、結局二人は別れた。決して相手を嫌いになったから別れたというわけではなかった。
だから俺は不安になる。
「もしかしたら芹花はまだ、課長の事を好きなんじゃないかなぁって」
俺は自分を落ちつけるよう、頼んだコーヒーに口をつけた。今川のアイスコーヒーがテーブルに揃うと、何だよそれ、と今川が呆れる。
「もっと自信持てよ。今苑村の彼氏はおまえだろ? 過去の事気にしてどうする?」
確かに今川の言う事は正しい。戸波課長と俺は別個の人間だし、芹花にとってはもう過去の出来事だ。頭では分かっている。
「だけどさ、俺、あの人には一生勝てない気がする」
「何で?」
「俺、課長みたいに仕事できないし喋りも下手だ。お洒落な所も知らない。デートしてもつまらないんじゃないかって思うんだ。
芹花だって、俺と一緒にいて、課長の時と色々比べちゃうことがあると思うんだよ。何で俺みたいなのを好きになったんだろう……何かの間違いじゃないのかな?」
俺の言葉に眉をひそめながら今川がストローに口をつけた。アイスコーヒーを飲む。残り僅かな液体がずこずこずこ、と音を立て吸い上げられていく。今川は最後に氷を一つつまんで噛み砕いた。背筋を伸ばしあのさ、と言葉を紡ぐ。
「おまえ、今苑村に対してすげー失礼こと言ったぞ」
「え?」
「確かに戸波課長は完璧な人だよ。苑村だって本気で好きだったと思うよ。けどさ。苑村だって課長が人生で初めて付き合った人なわけないだろ? 他に付き合った奴もいたんだろ?」
「そりゃあ……まぁ」
いつだったか、昔付き合った人間は何人って話になった時、僕のゼロに対して、芹花は二人と答えていた。
「課長に比べたらおまえは弱くて頼りなくて、どーしようもない欠けまくりの人間だ。でも苑村はその欠けている所も含めて好きになったんだ。欠けている部分は個性だ。個性は相手と補いあえば完璧にもなるし、それ以上にもなる。恋愛ってさ、そういう助け合いというか、信頼が大事じゃないのか? お互いを思いやりながら個性を育てていくもんじゃないのか? 俺の言ってる事、間違っているか?」
今川の熱弁に俺はぽかんと口を開けていた。普段はちゃらいことばっか言ってるのに、今だけはまともに――いや、もの凄い奴に見える。
「とにかく、お前は苑村の手を絶対離すんじゃねぇ。あんないい女、あとにも先にもいないんからな!」
だん、とテーブルを叩かれたので俺は体を委縮した。睨んだような目で射られ、俺の口から思わずはい、と大きな声が出る。一気に目が覚めた、そんな感じだった。(1389文字)
実は今川が芹花のもう一人の元カレだったというオチ。喝の部分は今川の教訓だった。でもうまくまとまらなかったのでカットすることに。このあと主人公たちはお互いの気持ちを打ち明け絆を深めたとさ。
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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