もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
「ねーえ、これどうかしら?」
試着室のカーテンを開け、まどかが言う。スカイブルーのビキニ姿で悩殺ポーズを決めるまどかに対し、俺はやる気のない答えを落とす。
「別に。それでいいんじゃね?」
「その反応なんかつまんなーい。もっと高校生らしい発言はないの? 乳目立つ! とか萌え~とかさぁ」
そりゃ他の女だったら俺も言うかもしれない。だが、目の前にいるのはまどかだ。身内の水着姿見て萌え~なんて言えるかこの野郎。だいたい、女ものの水着売り場に俺を連れてくるんじゃねぇ。
「とにかく、早く決めろよ。俺もう限界」
不服そうなまどかに俺は踵を返す。逃げ場を探していると、壁際に男物の水着が少しだけ置いてあるのを見つけた。そこでいくつか眺めるフリをする。すると。
「文哉はこっちがいいんじゃない?」
そう言ってまどかが何かを俺に投げつける。キャッチし広げてみると逆三角形の水着が現れた。男物のビキニパンツだ。
「絶対似合うよ。履いてみたら?」
「ふざけるな! だれがこんなのつけるかっ!」
俺は渡された水着をまどかに投げつける。が、その前に試着室のカーテンを閉められてしまった。丸められた水着がだらしなく床に落ちるとすかさず店員がそれを拾った。まずい。
俺は小さな声ですみません、と謝る。本来なら咎められて当然なのに、店員はいいえ、と言うだけだった。それどころか口元を緩ませている。他の客も俺を見てくすくすと笑っている。きっときょうだいのじゃれあいにしか思われてないのだろう。案の定、レジでお金を払っていると店員に声をかけられた。
「弟さんですか? 一緒にお買いものだなんて、仲がいいんですね」
「いいえ、彼は私の叔父なんです。ねっ。おーじーさんっ」
店員はその言葉に一瞬え? って顔になった。まどかに腕を絡められ、俺はげんなりとする。ああ、できるものならその関係を今にでも断ち切りたい。でもこれは逃れようもない事実なのだ。
まどかの父は俺の兄である。その年の差はなんと二十五歳。まどかが生まれた四年後に俺が生まれた。だから俺は生まれながらにしてまどかの叔父なのだ。
ところが、まどかはその奇妙な関係を楽しんでいて、暇になると今日みたいに俺を買い物に誘う。周りに仲の良い姉弟を植え付けて、実はとタネを明かす、その瞬間がたまらなく面白いのだとまどかは言っていた。
「ほんっと、性格悪いよな」
買い物帰りに寄った喫茶店で俺は毒づく。
「いい加減俺とつるむのやめろよー。おまえ女子大生だろ?」
「えー。あたしはつるんでいたいのになぁ」
「俺は嫌なの! それに水着買うなら彼氏といけよ」
「だーって。彼氏と買い物行っても遅いだの早く決めろだのって五月蠅いんだもん。同じ反応でも文哉と一緒の方が十倍楽しい」
おいおい、それは問題発言だぞ。俺、彼氏に睨まれちまうじゃねえか!
「それ、絶対彼氏の前で言うんじゃねえぞ」
俺はまどかに釘を刺し、来たばかりのコーラを飲む。炭酸が頭を刺激した。ふっと向かいを見ればまどかが静かに茶を飲んでいる。黙っていればそこそこの美人なのに、どうしてそんな残念な性格なのやら。言っておくが、兄はそんな遺伝子持ってなかったぞ。
一人っ子のまどかには従兄弟がいない。なので小さい頃の遊び相手はもっぱら俺だった。昔からまどかは俺に絡んでいたが、一時期だけ俺を避けていたことがある。おそらく、まどかの周り「叔父さん」がみんな年上で、色んなものを買ってもらったりしたからだろう。
なんで文哉は私よりも年下なの? なんで私より早く生まれなかったのよ!
いつだったか、そんなことを言われたことがある。まだ小さかった俺は何故そう言われたのか分からなかった。俺がきょとんとした顔でいると、まどかはそれが気に入らなかったのか、僕の頭を叩いたのだ。今でもあれは理不尽だと俺は思っている。
「ねー、『向こう』行ったら何して遊ぶ?」
まどかに話しかけられ、俺は回想を止めた。「向こう」というのは父の実家のことだ。その家は海沿いの小さな田舎町にあり、俺は夏休みの度に遊びに行っていた。昔は海で泳いだり虫取りをして楽しんでいたけれど、成長するにつれて、そんな遊びもつまらなくなり、行ってもただ退屈な場所になってしまった。だから最近は受験や部活を理由に行くのを拒んでいた。でも今年は祖父の七回忌があるので行かなければならない。曾孫のまどかも同じだ。
俺は七年ぶりに訪れる祖父母の家を思い浮かべた。昔からある日本家屋に広い庭。畑にはたくさんの野菜が植えられていた。そして裏の林を抜けた先に小さな離れがあった。そこは亡くなった祖父が書斎として使っていた場所だ。俺にとってあの場所は思い出深い「いわくつき」の場所だった。あの離れは今も残っているのだろうか。
俺はストローでグラスの中をかき回した。氷についた小さな粒はひとつふたつと上昇し、はじけて消えていく。俺の忌まわしい記憶を消すように。その間もまどかが何か言っていた気がするが、全く耳に入らなかった。(2077文字)
奇妙な関係、ということで叔父より年上の姪。去年の「夏祭り」企画で出そうとして没入りしたやつである。人物像を確かめようとネタファイル探したけどプロットすら見つからない。一体どこへいったんだーっ
試着室のカーテンを開け、まどかが言う。スカイブルーのビキニ姿で悩殺ポーズを決めるまどかに対し、俺はやる気のない答えを落とす。
「別に。それでいいんじゃね?」
「その反応なんかつまんなーい。もっと高校生らしい発言はないの? 乳目立つ! とか萌え~とかさぁ」
そりゃ他の女だったら俺も言うかもしれない。だが、目の前にいるのはまどかだ。身内の水着姿見て萌え~なんて言えるかこの野郎。だいたい、女ものの水着売り場に俺を連れてくるんじゃねぇ。
「とにかく、早く決めろよ。俺もう限界」
不服そうなまどかに俺は踵を返す。逃げ場を探していると、壁際に男物の水着が少しだけ置いてあるのを見つけた。そこでいくつか眺めるフリをする。すると。
「文哉はこっちがいいんじゃない?」
そう言ってまどかが何かを俺に投げつける。キャッチし広げてみると逆三角形の水着が現れた。男物のビキニパンツだ。
「絶対似合うよ。履いてみたら?」
「ふざけるな! だれがこんなのつけるかっ!」
俺は渡された水着をまどかに投げつける。が、その前に試着室のカーテンを閉められてしまった。丸められた水着がだらしなく床に落ちるとすかさず店員がそれを拾った。まずい。
俺は小さな声ですみません、と謝る。本来なら咎められて当然なのに、店員はいいえ、と言うだけだった。それどころか口元を緩ませている。他の客も俺を見てくすくすと笑っている。きっときょうだいのじゃれあいにしか思われてないのだろう。案の定、レジでお金を払っていると店員に声をかけられた。
「弟さんですか? 一緒にお買いものだなんて、仲がいいんですね」
「いいえ、彼は私の叔父なんです。ねっ。おーじーさんっ」
店員はその言葉に一瞬え? って顔になった。まどかに腕を絡められ、俺はげんなりとする。ああ、できるものならその関係を今にでも断ち切りたい。でもこれは逃れようもない事実なのだ。
まどかの父は俺の兄である。その年の差はなんと二十五歳。まどかが生まれた四年後に俺が生まれた。だから俺は生まれながらにしてまどかの叔父なのだ。
ところが、まどかはその奇妙な関係を楽しんでいて、暇になると今日みたいに俺を買い物に誘う。周りに仲の良い姉弟を植え付けて、実はとタネを明かす、その瞬間がたまらなく面白いのだとまどかは言っていた。
「ほんっと、性格悪いよな」
買い物帰りに寄った喫茶店で俺は毒づく。
「いい加減俺とつるむのやめろよー。おまえ女子大生だろ?」
「えー。あたしはつるんでいたいのになぁ」
「俺は嫌なの! それに水着買うなら彼氏といけよ」
「だーって。彼氏と買い物行っても遅いだの早く決めろだのって五月蠅いんだもん。同じ反応でも文哉と一緒の方が十倍楽しい」
おいおい、それは問題発言だぞ。俺、彼氏に睨まれちまうじゃねえか!
「それ、絶対彼氏の前で言うんじゃねえぞ」
俺はまどかに釘を刺し、来たばかりのコーラを飲む。炭酸が頭を刺激した。ふっと向かいを見ればまどかが静かに茶を飲んでいる。黙っていればそこそこの美人なのに、どうしてそんな残念な性格なのやら。言っておくが、兄はそんな遺伝子持ってなかったぞ。
一人っ子のまどかには従兄弟がいない。なので小さい頃の遊び相手はもっぱら俺だった。昔からまどかは俺に絡んでいたが、一時期だけ俺を避けていたことがある。おそらく、まどかの周り「叔父さん」がみんな年上で、色んなものを買ってもらったりしたからだろう。
なんで文哉は私よりも年下なの? なんで私より早く生まれなかったのよ!
いつだったか、そんなことを言われたことがある。まだ小さかった俺は何故そう言われたのか分からなかった。俺がきょとんとした顔でいると、まどかはそれが気に入らなかったのか、僕の頭を叩いたのだ。今でもあれは理不尽だと俺は思っている。
「ねー、『向こう』行ったら何して遊ぶ?」
まどかに話しかけられ、俺は回想を止めた。「向こう」というのは父の実家のことだ。その家は海沿いの小さな田舎町にあり、俺は夏休みの度に遊びに行っていた。昔は海で泳いだり虫取りをして楽しんでいたけれど、成長するにつれて、そんな遊びもつまらなくなり、行ってもただ退屈な場所になってしまった。だから最近は受験や部活を理由に行くのを拒んでいた。でも今年は祖父の七回忌があるので行かなければならない。曾孫のまどかも同じだ。
俺は七年ぶりに訪れる祖父母の家を思い浮かべた。昔からある日本家屋に広い庭。畑にはたくさんの野菜が植えられていた。そして裏の林を抜けた先に小さな離れがあった。そこは亡くなった祖父が書斎として使っていた場所だ。俺にとってあの場所は思い出深い「いわくつき」の場所だった。あの離れは今も残っているのだろうか。
俺はストローでグラスの中をかき回した。氷についた小さな粒はひとつふたつと上昇し、はじけて消えていく。俺の忌まわしい記憶を消すように。その間もまどかが何か言っていた気がするが、全く耳に入らなかった。(2077文字)
奇妙な関係、ということで叔父より年上の姪。去年の「夏祭り」企画で出そうとして没入りしたやつである。人物像を確かめようとネタファイル探したけどプロットすら見つからない。一体どこへいったんだーっ
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プロフィール
HN:
和
HP:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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