もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
喫茶店を出ると、私達の目の前に人が立ちはだかる。あっ、と叫んだ瞬間、隣りにいた文哉がふっとんだ。グーで殴られたのだ。
「ってー、何するんだ!」
文哉は自分を殴り飛ばした相手を睨みつけた。でもその相手は私を睨みつけている。その男を私は良く知っていた。買い物に行く前に電話をしたからだ。
その男――私の彼氏の拳は未だ震えている。もう一発殴られそうな気配を察し、私はやめて、と叫ぶ。そして文哉に言った。
「文哉はもう帰って」
「え?」
「あとで連絡するから。今日はもう帰って」
ただならぬ気配を察したのか、文哉は分かったよ、とだけ言いその場から離れた。周りの人の目もあったので、私は彼氏の腕を引き、文哉とは反対の道を歩き始める。近くの公園に入り、彼氏をベンチに座らせる。
「どういう事?」
私はいつもより声のトーンを落とし問いただす。彼氏は私の質問に鼻で笑う。自分は悪くない、とでも言いたいのだろうか。そんな彼氏にイラっときたが、私はそれを何とか抑え込んだ。
「一体何のつもりよ」
「それはこっちの台詞だ。『今日は叔父さんと買い物』じゃなかったのか?」
「だからさっき見たでしょ」
「叔父さん? あいつが? どう見ても高校生だろ? 一体どこをどうすればそうなるんだ! 嘘つくならもっとましなのをつきやがれ!」
言葉を荒げる彼氏に私はひとつため息をつく。まぁ、私もちゃんと説明すればよかったんだけど、と前置きし言葉を紡ぐ。
「けど、嘘は一切もついてない。文哉は父の弟で、私の叔父さんなんだから」
私のおばあちゃんは学生結婚で、十九の時に父を産み四十四で文哉を産んだ。父と文哉は年こそ離れているが血のつながった兄弟だ。
「なんなら市役所行って戸籍謄本取ってこようか?」
そう冷静な口調で私は切り返すけど、腹の底は怒りで煮え返っていた。確かに私にも非はあった。でもそれを差し引いたとしても文哉を殴ったのは許せない。殴られるならそれは私の方だ。それが筋ってものじゃないの?
やっぱりこの男は駄目だわ、と私は思う。
最初は素直で優しいなと思ったし、周りの応援もあったから付き合ってみたけど、蓋を開けたら何てことはない。ただの束縛男だった。
この男は自分の思うとおりにいかないとすぐ拗ねるし、私のちょっとした悪戯に本気で怒る。真っ直ぐすぎて柔軟性がないのだ。良く言えば不器用で馬鹿正直なのだが、それは私と違うベクトルを進んでいるわけで、私と交差することはない。相手を想い歩み寄ることができないのだ。
「やっぱりあんたとは別れるわ」
彼氏を睨みつけ、私は言った。
「あんたは私が浮気したと思ってる。そうでなくても他の男と一緒にいた私のことが許せないはずよ。だったら付き合う必要ない」
私の三行半に彼氏――いや、もう別れを告げたから元カレか、とにかくそいつの顔が青ざめる。どうやら私の方から謝ってくるものだと思っていたらしい。意外な展開に向こうは焦っていた。
「まどか、まぁ、落ちつけよ。俺は別に怒って――いや、別れるなんていつもの冗談だろ? 何かの悪戯だよな?」
「は?」
「俺もついカッとなって――その、悪気はなかったんだ。まどかもちゃんと説明しておけばよかったって言ったよな。うん。そうだったかもしれない。お互い言葉が足りなかったんだな。きっと。だから今回のことはお互いさまだと思って許して――」
「お互いさま?」
その一言を聞いて、何かがブチ切れた。ふざけんじゃない、と罵倒する。
「勝手に勘違いしたのはそっちでしょ! あんた自分が何したか分かってる? 罪のない人間を殴ったのよ。なのにそれを反故にしろ? それこそ冗談じゃない」
怒り狂った私は携帯を手にすると三桁の番号を押した。
「何、してんだ、?」
「警察に届けるのよ。あんたを傷害罪で訴える」
「ちょ、待て! 止めろ!」
利き腕をつかまれ、動きを封じられる。私が元カレをキッと睨みつけるとすぐに腕は解放された。ごめん、と元カレの口から謝罪の言葉がこぼれ、そこで初めて怒りの波が引いて行く。
私は改めて携帯のボタンを押し、元カレに差し出した。
「ちゃんと文哉に謝って。でなきゃあんたを一生許さない」(1737文字)
昨日の「23.奇妙な関係」に続きまどか視点。彼女にとって文哉は叔父というより弟のような存在なので、烈火のごとく怒ったとさ。それにしても、とばっちりを食らった文哉が不憫でならん。
「ってー、何するんだ!」
文哉は自分を殴り飛ばした相手を睨みつけた。でもその相手は私を睨みつけている。その男を私は良く知っていた。買い物に行く前に電話をしたからだ。
その男――私の彼氏の拳は未だ震えている。もう一発殴られそうな気配を察し、私はやめて、と叫ぶ。そして文哉に言った。
「文哉はもう帰って」
「え?」
「あとで連絡するから。今日はもう帰って」
ただならぬ気配を察したのか、文哉は分かったよ、とだけ言いその場から離れた。周りの人の目もあったので、私は彼氏の腕を引き、文哉とは反対の道を歩き始める。近くの公園に入り、彼氏をベンチに座らせる。
「どういう事?」
私はいつもより声のトーンを落とし問いただす。彼氏は私の質問に鼻で笑う。自分は悪くない、とでも言いたいのだろうか。そんな彼氏にイラっときたが、私はそれを何とか抑え込んだ。
「一体何のつもりよ」
「それはこっちの台詞だ。『今日は叔父さんと買い物』じゃなかったのか?」
「だからさっき見たでしょ」
「叔父さん? あいつが? どう見ても高校生だろ? 一体どこをどうすればそうなるんだ! 嘘つくならもっとましなのをつきやがれ!」
言葉を荒げる彼氏に私はひとつため息をつく。まぁ、私もちゃんと説明すればよかったんだけど、と前置きし言葉を紡ぐ。
「けど、嘘は一切もついてない。文哉は父の弟で、私の叔父さんなんだから」
私のおばあちゃんは学生結婚で、十九の時に父を産み四十四で文哉を産んだ。父と文哉は年こそ離れているが血のつながった兄弟だ。
「なんなら市役所行って戸籍謄本取ってこようか?」
そう冷静な口調で私は切り返すけど、腹の底は怒りで煮え返っていた。確かに私にも非はあった。でもそれを差し引いたとしても文哉を殴ったのは許せない。殴られるならそれは私の方だ。それが筋ってものじゃないの?
やっぱりこの男は駄目だわ、と私は思う。
最初は素直で優しいなと思ったし、周りの応援もあったから付き合ってみたけど、蓋を開けたら何てことはない。ただの束縛男だった。
この男は自分の思うとおりにいかないとすぐ拗ねるし、私のちょっとした悪戯に本気で怒る。真っ直ぐすぎて柔軟性がないのだ。良く言えば不器用で馬鹿正直なのだが、それは私と違うベクトルを進んでいるわけで、私と交差することはない。相手を想い歩み寄ることができないのだ。
「やっぱりあんたとは別れるわ」
彼氏を睨みつけ、私は言った。
「あんたは私が浮気したと思ってる。そうでなくても他の男と一緒にいた私のことが許せないはずよ。だったら付き合う必要ない」
私の三行半に彼氏――いや、もう別れを告げたから元カレか、とにかくそいつの顔が青ざめる。どうやら私の方から謝ってくるものだと思っていたらしい。意外な展開に向こうは焦っていた。
「まどか、まぁ、落ちつけよ。俺は別に怒って――いや、別れるなんていつもの冗談だろ? 何かの悪戯だよな?」
「は?」
「俺もついカッとなって――その、悪気はなかったんだ。まどかもちゃんと説明しておけばよかったって言ったよな。うん。そうだったかもしれない。お互い言葉が足りなかったんだな。きっと。だから今回のことはお互いさまだと思って許して――」
「お互いさま?」
その一言を聞いて、何かがブチ切れた。ふざけんじゃない、と罵倒する。
「勝手に勘違いしたのはそっちでしょ! あんた自分が何したか分かってる? 罪のない人間を殴ったのよ。なのにそれを反故にしろ? それこそ冗談じゃない」
怒り狂った私は携帯を手にすると三桁の番号を押した。
「何、してんだ、?」
「警察に届けるのよ。あんたを傷害罪で訴える」
「ちょ、待て! 止めろ!」
利き腕をつかまれ、動きを封じられる。私が元カレをキッと睨みつけるとすぐに腕は解放された。ごめん、と元カレの口から謝罪の言葉がこぼれ、そこで初めて怒りの波が引いて行く。
私は改めて携帯のボタンを押し、元カレに差し出した。
「ちゃんと文哉に謝って。でなきゃあんたを一生許さない」(1737文字)
昨日の「23.奇妙な関係」に続きまどか視点。彼女にとって文哉は叔父というより弟のような存在なので、烈火のごとく怒ったとさ。それにしても、とばっちりを食らった文哉が不憫でならん。
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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