もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
探していた人物は今まさに図書室の扉に手をかけようとした。
俺は猛ダッシュで廊下を走った。新條、と声をかけ呼び止める。振り返った彼女が怪訝そうに俺を見た。何であんたが? というような顔。その頑なな態度に俺は言葉を躊躇った。が、こんな所で迷っている場合じゃない。自分の夢を叶えるのに見栄など邪魔なだけだ。
「えーと、俺隣りのクラスの鎌田なんだけど……その、頼みがあるんだ」
俺は一つ呼吸をおいてから膝を折る。両手を床につき頭を下げた。
「どうか俺に勉強を教えてください!」
いきなりの土下座に新條は相当面食らったらしい。
「い、一体なんなの?」
「だから俺に勉強を教えてほしいのですが」
俺は顔を上げ、改めて新條に頼む。少ししてから返ってきたのはイエスでもノーでもなく疑問符だった。何で、と問われ俺は答える。
「そりゃ、新條が頭いいから」
「じゃなくて。鎌田のクラスにも頭いい人一杯いるでしょ? 何で私なわけ?」
ごもっともな理由を立てられ、俺は一度言葉に詰まる。えーと、何処から話せばいいんだろう? あれこれ考えあぐねているうちに、俺の視線は新條の胸元にいく。彼女が抱えている水色のノートを見つけ、これ! と叫んだ。
「このノートが良かったから」
「は?」
「ほら、俺ってバカでチャらいキャラでしょ? だから周りにもそんな奴らしか集まらなくてさ」
そういうの、『類は類を呼ぶ?』って言うんだっけ? と俺が言うとすかさず新條がそれは『類は友を呼ぶ』でしょ、と新條に言葉を挟まれた。
「『類は類を呼ぶ』を使うなら『類は類を呼び友は友を呼ぶ』と言うのが正解」
「手厳しいねぇ新條は。まぁいいや。とにかく俺のダチはみんな勉強嫌いなわけでノートもろくに取ってなくて。試験前になると頭のいい奴のノート皆で回したりしてたわけだ。それで、いつだったか新條のノートが回ってきたんだよ。いやぁ、驚いた。単に黒板写してるんじゃなくて、それに至る理由とか、覚えるポイントとか書いてあって。とにかく分かりやすかったんだ。授業受けなくてもそれ見たらバッチリ、みたいな? で、新條のノート写しながら俺、思ったんだよ。もしかしたら新條は人に勉強教えるのが上手いんじゃないかな、って」
「それが、理由?」
「そう」
俺はいつもの調子でにへっと笑う。親しみを込めた笑顔のつもりだったが、新條は口を結んだままだ。俺は更に言葉を重ねる。
「頼む、今日だけでいいんだ。試験に出そうなとこを教えてくれるだけでいいから」
俺は再び彼女を拝んだ。嗚呼神さま仏様新條様、どうか俺の願いを叶えてくれ、今ならそんな言葉さえ出てきそうだ。
ちらりと様子を伺った。新條が何か考え込んでいる。出てくる答えは吉か凶か?
しばらくして新條がわかった、と小さく呟いた。
「一時間だけでいいなら……勉強見るけど」
「マジで? ラッキーっ! ありがとーっ」
俺はジャンプして立ち上がる。新條に向かって両手を広げるが、すぐにしまった、と思った。普段の俺ならここで男女かまわずハグをする。だが、新條にとって俺は正反対の輩、顔見知り以下の存在だ。ここで抱きついたら悲鳴が飛びかねない。
俺は持て余した腕を左右に振り回してそれをごまかした。(1344文字)
「48.沸き起こる感情の、その名前」より。新條のことは何とも思ってなかった頃の話
俺は猛ダッシュで廊下を走った。新條、と声をかけ呼び止める。振り返った彼女が怪訝そうに俺を見た。何であんたが? というような顔。その頑なな態度に俺は言葉を躊躇った。が、こんな所で迷っている場合じゃない。自分の夢を叶えるのに見栄など邪魔なだけだ。
「えーと、俺隣りのクラスの鎌田なんだけど……その、頼みがあるんだ」
俺は一つ呼吸をおいてから膝を折る。両手を床につき頭を下げた。
「どうか俺に勉強を教えてください!」
いきなりの土下座に新條は相当面食らったらしい。
「い、一体なんなの?」
「だから俺に勉強を教えてほしいのですが」
俺は顔を上げ、改めて新條に頼む。少ししてから返ってきたのはイエスでもノーでもなく疑問符だった。何で、と問われ俺は答える。
「そりゃ、新條が頭いいから」
「じゃなくて。鎌田のクラスにも頭いい人一杯いるでしょ? 何で私なわけ?」
ごもっともな理由を立てられ、俺は一度言葉に詰まる。えーと、何処から話せばいいんだろう? あれこれ考えあぐねているうちに、俺の視線は新條の胸元にいく。彼女が抱えている水色のノートを見つけ、これ! と叫んだ。
「このノートが良かったから」
「は?」
「ほら、俺ってバカでチャらいキャラでしょ? だから周りにもそんな奴らしか集まらなくてさ」
そういうの、『類は類を呼ぶ?』って言うんだっけ? と俺が言うとすかさず新條がそれは『類は友を呼ぶ』でしょ、と新條に言葉を挟まれた。
「『類は類を呼ぶ』を使うなら『類は類を呼び友は友を呼ぶ』と言うのが正解」
「手厳しいねぇ新條は。まぁいいや。とにかく俺のダチはみんな勉強嫌いなわけでノートもろくに取ってなくて。試験前になると頭のいい奴のノート皆で回したりしてたわけだ。それで、いつだったか新條のノートが回ってきたんだよ。いやぁ、驚いた。単に黒板写してるんじゃなくて、それに至る理由とか、覚えるポイントとか書いてあって。とにかく分かりやすかったんだ。授業受けなくてもそれ見たらバッチリ、みたいな? で、新條のノート写しながら俺、思ったんだよ。もしかしたら新條は人に勉強教えるのが上手いんじゃないかな、って」
「それが、理由?」
「そう」
俺はいつもの調子でにへっと笑う。親しみを込めた笑顔のつもりだったが、新條は口を結んだままだ。俺は更に言葉を重ねる。
「頼む、今日だけでいいんだ。試験に出そうなとこを教えてくれるだけでいいから」
俺は再び彼女を拝んだ。嗚呼神さま仏様新條様、どうか俺の願いを叶えてくれ、今ならそんな言葉さえ出てきそうだ。
ちらりと様子を伺った。新條が何か考え込んでいる。出てくる答えは吉か凶か?
しばらくして新條がわかった、と小さく呟いた。
「一時間だけでいいなら……勉強見るけど」
「マジで? ラッキーっ! ありがとーっ」
俺はジャンプして立ち上がる。新條に向かって両手を広げるが、すぐにしまった、と思った。普段の俺ならここで男女かまわずハグをする。だが、新條にとって俺は正反対の輩、顔見知り以下の存在だ。ここで抱きついたら悲鳴が飛びかねない。
俺は持て余した腕を左右に振り回してそれをごまかした。(1344文字)
「48.沸き起こる感情の、その名前」より。新條のことは何とも思ってなかった頃の話
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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