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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0611
 その日は朝からごたごたしていた。
 今日は実家で法事があるというのに。私ときたら、目覚ましのアラームをセットを忘れてしまうなんて。もう最悪としか言いようがない。
 私は慌てて服を脱ぎ捨て、下着一枚でクローゼットに向かう。礼服についていたクリーニングの袋をいっきに破った。
 目的地からの時間を逆算していくとあと五分でこの家を出なきゃならない。その間に服着替えて化粧して――電車、間に合うかなぁ。ああ、そうだ。向こうについたら花屋に寄らなきゃ。亡くなったおばあちゃん、確かあの花が好きだったわよね。
 なーんてあれこれ考えていたら、突然天井に光の輪ができた。私はげ、と言葉を漏らす。
「おー、これからでかけるのかぇ」
 私は側にあったクッションをヤツに向かって投げつけた。ヤツがひらりとかわす。私はちっ、と舌打ちした。
「おひょっ、師匠に何をするんじゃ」
「このクソジジィっ! 着替えの最中に現れるなぁ――!」
 この間はお風呂に入ってる時に突然現れ、まっ裸のまま異世界に飛ばされた。なんでこんな間の悪い時に来るか。というかわざとだろ、絶対。
 私は慌ててブラウスをまとい、スカートを履いた。ホックを閉めながら一体何の用よ、とヤツに問う。
「こっちは忙しいんだから」
「おお、それじゃがな」
 ヤツは服の中から何かを取りだす。出てきたのは紅色の小さな石ころだ。
「王がお前に渡してくれと言われてな。先日のドラゴン退治の褒美、だそうだ」
「え?でもあれは私がやったんじゃ――」
「そう、あれはおぬしの手柄ではない。偶然が幾つか重なっただけじゃ。そうさせたのはわしのせいでもある。だが、おぬしはそれだけの働きはしたと王は判断した。だから受け取れ。本来なら向こうに行って王の前で受け取るべきなのだが、一連のことで城の中もゴタついておってのう。それにほれ、おぬしも城には行きたくないだろう?」
 ヤツの言葉に私はまぁ、ねぇ、と答える。確かに、私は向こうの世界にあまり行きたくない。理由は簡単。周りからは敵意としか思えない視線を浴びまくっているからだ。
 なんでもこのジジィはあっちの国では指折りの魔法使いらしい。その魔法は特殊の上、門外不出で弟子は今まで一人も取らなかったとか。
 なのにある日突然異世界から弟子(私)を連れてきたものだから城は大騒ぎよ。最初はどんな奴だ、何故外の世界なんだ、って言われてたけど、そのうちヤツが選んだ人間なら相当優秀な弟子なんでしょうね――と期待し始めたのだ。でも私の実力を見て奴らは絶句した。仕える魔法は五本指で数えられる位しかないし、その威力もおままごと程度。そりゃ周りもがっかりするでしょうね。非難ごうごうよね。そんなの弟子にしてどうするって。
 でもね。一言言わせて。私は何も悪くない。だって、ヤツは「習い事だと思えば」って言ったのよ。それって趣味の範囲でってことでしょ? 私だってプロの魔法使いなんか目指してないから。文句を言うならあのジジィに言ってちょうだいよ!
 私は心の中で文句をつきつつ、その石を受け取った。本来ならご褒美をもらえるほどのことはしてないんだけど、くれるって言うんだからありがたく貰っておこう。
「これは持ち主の心からの願い事を叶えてくれる石じゃ。一回きりじゃから、願い事は慎重に選べ」
「はーい」
 私は空返事をしてからにやり、と笑った。願い事なんて最初から決まってる。
 私は願い事を心の中で呟いた。その刹那、手の上にあった赤い石が宙に浮いた。私の頭の上で止まる。石が膨張を始めた。ぴき、ぴき、という音とともにひび割れ、砕ける。石の粒たちはまばゆい光りを放ちながら四方に散って行った。
 え、これで終わり?
 私はきょろきょろとあたりを見回す。最初に確認したのはのほほんとしてるヤツの姿だった。え? なんで? 私は焦る。すると天井から何かが舞い降りてきた。白い百合の花束だ。え? 何で花なの? 私は「このジジィが私の前から永遠に消えてくれ」って頼んだのに。
「ふぉーっふぉ。それがお前の願いか」
 ヤツは楽しそうに笑う。私は花束をヤツに投げ飛ばそうと思ったが、すんでの所でやめた。もともと花屋に寄る予定だったし。花に罪はない。タナボタじゃないけど、これを墓前に飾らせてもらおう。
 うん、とひとり頷いたところで私は顔をあげるが――あれ、いない。私はもう一度辺りを見渡す。するとヤツがソファーに寝転がって勝手にテレビを見ていやがるではないか。どうやら今日はここに入り浸る気らしい。追い出したい気持ちはあったが、そんなことをしていたら電車に間に合わない。
 仕方ないなぁ。私はため息をついた。
「じゃ、私出かけるから。家の中のもの、勝手にいじらないでよ」
「ふぉーっふぉ、わかったのぇえ」
 ヤツはソファーからひらひらと手を振っている。大丈夫かなぁ。私は一抹の不安を抱えつつ、玄関へと向かった。(2025文字)

ということで、魔法使いの話は続くよどこまでも(笑)そろそろ登場人物に名前をつけなきゃと思うのだが、何も浮かばんわ。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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