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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0519
「ああ片桐様。本日は『顔合せ』の日でしたね。お相手の方はいかかでした?」
「とんでもなく最悪です」
「あら、お気に召しませんでした?」
「気に召さないも何も! 『あれ』は一体どういう事よ!」
 私は結婚相談所の一角に設けられた喫茶室を指す。そこには魚の頭にかぶった男がいた。きらきらと鱗を光らせながら優雅に茶を飲んでいる。最初は着ぐるみか何かかと思ったが、あれが本物のツラの皮なのだとか。
「ここは女性に半魚人を紹介するとこなんですかっ!」 
「ああ、そのことでしたら――少々お待ち下さい」
 スタッフは手元の端末から私の個人情報を引き出した。そこには入会当時に記入したアンケートの結果も入っている。
「ええと、片桐さまはお会いになりたい男性について、【年収一千万以上】【年齢差は最大十歳まで】【家同士の距離は十キロ圏内】【外見や出生にこだわらない】【種族を超えた結婚に興味がある】etc……四十三項目にチェックを入れております。
我々はこちらの回答を考慮し、今回加藤さまをご紹介した次第でございますが……」
「ええと、種族って肌色の話ですよね? 白とか黒とか黄色とか、国際結婚とか。そういった話ではなく?」
「はい。ですがこの場合は人間以外の種族も含まれます。魚人、鳥人、狼族、妖怪から宇宙人まで。この項目をチェックされた方には多種多様ののお相手をご紹介しております」
「人間は? 普通の男性はいないの?」
「人間の男性は少子化の傾向でお客様のニーズも細分化され、理想のお相手を見つけるのはかなりの困難でございます。それに対し、人外の男性は人口も右肩上がりでして、特に結婚相手として魚人、狼族の方が好まれます。彼らと結婚する最大のメリットは生まれてくる子供の身体能力がとても高い所です。
 まぁ、最初見た目にびっくりされる方もおりますが彼らの身元は我々も保障しますし、皆さん紳士で真面目な方ですよ」
 担当者のにこやかな説明に私は絶句する。紳士で真面目と言われても……ねぇ? 顔がアレですよ。目がぎょぎょですよ。灼熱の太陽浴びたら火傷の前にカマ焼きができそうですよ。つうかまかり間違って結婚したとして、子供産んで――やめた。想像するだけで頭がおかしくなりそうだ。
 私はスタッフに噛みつくのを諦め、半魚人――もとい、加藤さんのもとへ戻る。
「すみません、お待たせしちゃって」
「いえ、そんなに待ちませんでしたから」
 加藤さんは笑顔で迎えてくれた。 頭の上にじんわりと脂がのっている。
 悪いけど、ここは適当に切り上げて次の出会いを探そう。次は人間との出会いを強く要求して、それが無理ならここの会員を辞めて。最悪結婚は諦めてもいい。仕事しているんだし、私には幾つかの選択肢も残されているんだから。
 でも――
 冷めた紅茶を口につけながら私は思う。加藤さんが顔に似合わずいい人だったからだ。喋りは饒舌で趣味も合うし性格も悪くない。それに何より、一緒に居て居心地がよすぎるのだ。
 嗚呼、顔が。顔がアレじゃなければ。ここは妥協すべき? いや、でも。ああでも、ゆるキャラだと思えばそれなりに悪くないか?
 私の中でぐるぐると葛藤が回り続ける。その後ろでスタッフがにんまりとしていることすら気づかなかった。(1351文字)

人外なるものとのお見合い話。

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プロフィール
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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