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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0902
午後の二時を過ぎる頃になると、後輩が決まって口にする言葉がある。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ」
 その声を聞きつけて、通りすがりの誰かが、明日何かいいことでもあるの? と聞くと別にないんですけどねぇーと返ってくる。肩すかしの返答に相手が首をかしげその場を去っていくのもいつものことだ。
 向かいのデスクにいた私はねぇ、と後輩に声をかける。
「ねぇ、その口癖、どーにかなんないの?」
「何がですか?」
「『早く明日が来ないかなぁ』ってやつ。特に予定もないのに何で言うわけ?」
「ああ、自分にハッパかけてるだけですよ。呪文みたいなものです」
 呪文? と聞き返す私にこれ見て下さいよ、と後輩は自分の机をひとさし指で示した。そこには書類の山がある。そのほとんどが街頭から上がってきたアンケートで、それを打ちこみ集計するのが彼女の仕事だ。
「私はこの減ることのない書類と毎日毎日格闘しているわけです。作業も単調で飽きてくるわけです。ああ、もちろん仕事をないがしろにしているわけじゃないですよ。
 でも同じことの繰り返しだと、何か飽きちゃって。眠くなっちゃって。モチベーション下がるわけです。で、気分転換。
 一回口にすれば、明日はいいことがあるかもしれない。昨日よりも今日よりも、明日が好きになるよねーって感じになりません。先輩はどうですか?」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど。それなら私は『早く仕事終わらないかな―』って言うかなぁ。仕事から解放されて家に帰ってシャワー浴びて、冷蔵庫にある缶ビールを飲みながら撮りためたドラマの続きが見たいー、とか」
「なるほど。先輩はおひとりさま生活まっしぐらなんですね……」
 口調はゆったりだったけど、その一言は私の心にぐさりと突き刺さる。ああ、悪ぅございましたね。おひとりさまで。
 私は後輩からついと顔をそらすと手元のキーボードをタッチした。スリープ状態になっていたパソコン画面が起動する。新着メールが一件入っていたことに気づきボックスを開く。相手は遠く離れた席にいる上司からだ。今夜××社との食事会があるので同席するように、との内容に私はげんなりとする。食事会なんて名ばかり。要は接待で飲み会ってことでしょ。相手の社名を見た限りすぐには帰してくれなさそうだ。はい午前様決定。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ……」
 私の口から思わず言葉が出てしまう。その呟きに向かいの後輩は何事かと首をかしげていた。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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