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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0828
昼休み。俺は制服の集団に追われていた。待てとか逃がすかとか言われるけど、そんなのに従うつもりはない。そんなことをしたら自分の身がヤバイってのが分かっているからだ。
俺は部活で培った脚力を武器に奴らを引き離した。だが、奴らの執念はすさまじい。これは呪いかなんかの間違いじゃないかと俺は思う。外はすっかり冬だってのに、何だろうこの熱気は。季節が逆転したんじゃないのか?
 俺は階段を登った。二つ階を登った先に三年生の教室がある。この時期三年生は自宅学習で教室には誰もいない――はずなのだが、今はそれすらも怪しい。何故なら明日から大学の後期試験が始まるからだ。
 もう一人の自分がそっちに行くなと警告する。俺は小さく頷くと階段を更に上に登った。その先は屋上に繋がる道しかない。袋小路になることを分かっていながら俺は最上階まで上り詰めた。屋上の扉の前にある踊り場でくるりと体を翻す。見下ろせば俺を追いかけてきた人間は倍に増えていた。皆目に隈を張って不健康そうだ。埋め尽くされた階段を見て俺はやっぱり「誰もいない」なんて嘘じゃん、と確信する。
「さあ、大人しく観念してくれよ」
「そうだ。君は僕らの希望なんだ。僕らを救うと思って――」
「誰がそんなことするかよっ!」
 俺は手すりに登ると、反対側の「下り」階段に向かってジャンプした。くるりとひとひねりつけて踊り場に着地する。足がジンジンしたが、体操選手だったら満点の評価がつきそうだ。
 ともあれ、リスキーな方法で輩を巻いた俺はいっきに一階まで降りた。騒ぎを知ってか知らずか、目の前に教師が二人立っている。教師たちに止められる前に俺は猛ダッシュで廊下を走り、ふりきった。連絡通路を渡ったらゴールは目の前だ。俺は気を緩めることなく一気に駆け抜ける。
 特別棟の奥にある調理室は授業と部活動時以外は常に鍵が掛けられている。が、坂井の言ったとおりなら今頃は――
 案の定、扉の窓に人影が見えた。俺の顔がほんの少しにやけてしまう。調理室の扉がさっと開くと、その中に俺は滑り込んだ。すぐに扉が閉まる。鍵を書ける音が聞こえると、俺に安堵が広がった。
「ショウくん大丈夫?」
 教室の鍵をかけてくれた――クラスメイトの佐倉が俺に問う。おー余裕しゃくしゃくよぉ、なんて俺は強がって見せるが、ぜーぜーという荒い呼吸はなかなか抜けず。そんな様子に佐倉は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。私がもっと早くに伝えておけばよかったよね。私てっきり真子ちゃんから聞いているものだと思ってたから」
「いやいや。逃げ場があるだけで去年より全然マシだって。それよりも――坂井に鍵を渡したヤツって大丈夫なのか? そこからここの情報が漏れるとかないよな?」
「ああ、それは――大丈夫、だと思う……たぶん」
 そう言いながらも、佐倉の視線は徐々に俺から外れていく。その様子から見ても坂井が人には言えない方法で鍵を奪ったということが容易に想像できる。あの知能犯は今度はどんな手で懐柔したんだか。
 坂井は俺と佐倉のクラスメイトで悪友でもある。坂井はおおらかな性格からは想像も出来ないほどの腹黒女だ。人の些細な弱みやミスを逃さず、それをネタに自分が優位になる展開へ持って行く。かくいう俺もその被害者だ。
 まぁ、今回は坂井のおかげで俺も佐倉お手製のお弁当が食べられるのだがら――まぁ、今回は目をつぶっておこう。
 佐倉は調理台の上に弁当を広げた。机に大きめのタッパーが三つ並ぶ。ひとつ蓋を開ければから揚げに卵焼き、アスパラの炒め物とミニトマトが入っている。別に用意されたタッパーにはこぶりのおにぎりがあった。中に鮭と昆布とたらこが二個ずつ入ったものだ。そして最後の一つにはプリンのカップが二つ、保冷剤とスプーンを添えて入っている。
「すげーうまそぅ」
「ショウくんの口に合うといいんだけど」
「俺唐揚げ好きだし。つうか弁当に唐揚げはデフォでしょ」
 いただきます、と感謝の意をこめて手を合わせた。お待ちかねのご褒美にありつけた俺は早速好物から手をつける。佐倉の作る唐揚げは冷凍のものじゃなくて、ちゃんと家で揚げた物を詰めていると以前坂井が言っていた。昨日の夜作ったというそれは冷めても味はしっかりしているし、衣もべったりとしていなくて美味しい。
 卵焼きはほんのり甘く作られていて隠し味に味噌が入っているし、栄養が偏らないようにと添えられた野菜たちは色も固さもほどよくてすぐに口の中に入ってしまう。
 ラップに包まれたおにぎりは海苔が別に用意されていて、パリパリ派の俺としては嬉しい気づかいだ。デザートのプリンも、ほおばればほっぺが落ちそうになる。
「本当、早く春にならないかなぁ」
 食べている途中で佐倉がぽつりと呟く。そうだよな、と俺は返すが心は全く逆だ。毎回の鬼ごっこは疲れるが、逃げ切ったあとにこんなご褒美がまっていると思えば苦にはならない。ああ、どうせならこんな時間がずーっと続けばいいのになぁ、なんて不謹慎なことを思ってしまう。その理由はまぁ、言うまでもないので省略しておこう。

本サイト掲載「サクラサク」の学生生活(季節は冬だけど)2~3話ほど続きます。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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