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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0920

 頃合いを見て訪れた図書室はとても静かだ。カウンターにいた女の子に見覚えがあったので、私はチャンスとばかりに声をかけた。
「加賀谷さん、だよね?」
 私の声に彼女はぴくりと肩を揺らした。ゆっくりと顔を上げる。
「ええと、御園さん? だっけ?」
 想像よりも低い声が私の耳に届く。彼女は読みかけのページにしおりの紐をかけると、本を閉じた。はるか昔に活躍した人の顔が描かれた表紙が私の目につく。
「それってファーブルの本? ファーブル、好きなの?」
「全然。虫も大嫌い」
「だったら何で読んでたの?」
「虫もファーブルも嫌いだけど物語は面白い。だから読んでた」
 それは私の予想の斜め上をいく答えだった。彼女のぶっきらぼうなもの言いに私の心がうずく。さっきまで人の機嫌を伺うような言葉ばかり聞いていたから彼女の存在がとても新鮮に感じた。
「加賀谷さんって駅前のマンションに住んでいるんだよね?」
「そうだけど」
「私も昨日からそこに引っ越したの。ねぇ、今日一緒に帰っていい?」
「そんなことして大丈夫?」
「なんで?」
「さっき他の子『たち』に一緒に帰ろうって誘われてたでしょ?」
「ああー」
 私は帰りの会が終わってからのことを思い出す。
 転校初日の放課後、私が新しい教科書を赤いランドセルに詰めていると、それぞれのグループのリーダーらしき子たちに囲まれた。
「御園さんって駅前のマンションに住んでいるんだよね」
 最初私にに話しかけてきたのは、このクラスで比較的可愛い顔立ちをした子だった。あとで街を案内するから一緒に帰ろうと誘われる。すると、負けじと他の一人が駅のショッピングモールに可愛い雑貨屋さんがあるから一緒に行こう、と言い出した。私が曖昧な返事をしていると今度は別の一人が私の家にこの間買ったゲームあるから遊ばない? と右腕を引く。かといえばウチ犬飼っているから見せてあげる、と左腕を引く。それぞれが自分の売りを前面に出していて――みんな、転校生の私を自分のグループにひきこもうとしている。
 まぁ、これまでに何回も転校を繰り返した私だから、そういった女の子の事情はなんとなく読めていたし、似たような風景は何度も見ている。自分の取り巻きをつくることに彼女たちは必死だ。でも見ている側からしてみれば醜いだけのこと。ドン引きした私は先生に呼び出されていたんだっけ、と嘘をつくことでその場を逃げたのだ。
「あの人たちの誘い断って私みたいな変人選んだらクラスで『ボッチ』決定になるんだけど。ああボッチって一人ぼっちのことね」
 加賀谷さんの言葉はごもっともだ。私が見る限り、彼女はクラスの中で何処のグループにも所属してないようだ。他のクラスの子や男子と話をするけれど休み時間はだいたい一人でいて、教室の隅っこで本を読んでいた。
「どうするの? そうなってもいいなら私は別に構わないけど」
 言葉はそっけないけど、その裏に親切がちらりと覗かせる。それを聞いて私は更に嬉しくなった。
「別にいいよ。私、仕事終わるまで待ってるから。一緒に帰ろう」
 私がにやりと笑うと、彼女が目を丸くした。そのあとで御園さんって変、と言う。加賀谷さんほどじゃないもん、と私が言うと彼女が笑う。加賀谷さんの控えめな笑顔はクラスのどの子よりも可愛いく美しかった。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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