もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
一時間前、私のもとにマザーコンピューターを見てほしいとの依頼が入った。それはまさにこの国が戦争の終結・勝利宣言を世界に公布したあとのことだった。
マザーはこの国の公共機関や医療、会社の情報全てを管理する。有事の際は指揮官となり、軍隊に命令を下したり、民間人の保護をする。
依頼者の話によると、先の宣言通り戦争は終結したが、マザーは戦闘状態を解除せず、未だ外に向かって攻撃を続けているのだと言う。強制終了をかけてもマザー自身がそれを突っぱね、命令を繰り返しているというのだ。
マザーの居る場所は国の中枢機関を兼ねていて、地下にあるシェルターには国を背負う重鎮たちが閉じ込められている。このままだとあと数時間で地下の酸素も枯渇するだろう。うさんくさい政治家たちはどうでもいいが、マザーが暴走したままなのはまずい。開発者の血を引く者としてはなんとしても止めなければならない。
依頼を受けた私は戦争で荒れた道をバイクで突っ走る。所々に空いている穴はマザーの命令により発射されたミサイルの痕だ。
マザーは要塞化した都市の中心に――塔の中に君臨している。都市の入り口にはいると予想通り、銃弾とミサイルの雨が降っていた。私はその隙間を縫ってバイクを走らせる。時折タイヤが瓦礫にあたって何度も体が跳ねる。そのたびに後ろに座っているナナカの悲鳴が耳をつんざく。ふくよかな胸が私の背中により密着するのに、私は別の意味で興奮した。
今、マザーはこの国を守っている。戦いが終結した今も。それは永遠に、マザーが生きてる限り続く。断ち切れないループを止めるには、マザーに直接ダイブして内部から命令プログラムを書き変えて誘導しなければならない。
私は公衆電話を見つけるとバイクを止めた。公衆電話は緊急用にも使用され、マザーと直接繋がっていた。私は長い髪をゴムで束ねるとイヤホンに内蔵されているケーブルを引っ張った。片方を電話機に、もう片方を自分のこめかみにあるプラグに繋ぐ。視界が闇に包まれると、私の網膜に数字の羅列が走る。最後にEnterの赤い表示が中央に浮かんだ。
指を動かし実行を指示する。視界に広がるいくつかの選択肢から自分の中に埋め込まれているプログラムを選んだ。それまでの間、コンマ一秒。バイクを運転するナナカは軌道に乗った私を固唾をのんで見守っている。
ダイブするにあたっての環境設定が整った私は呼吸を整えた。それからダミーのプログラムを動かし、ダイブする頃合いを計る。幾つか流した後で頷く。カウントダウンを開始した。数が一つずつ消えてゆく。私はゼロと同時に意識をそちらに委ねた。
いつもながらダイブの瞬間は気持ち悪い。沢山のノイズや情報が混乱して火花が走る。それでも私は混沌の中を泳いでいった。プログラムの中枢に突入すると既に並列化されているマザーの情報を引き出した。毎分ごとの更新の前に命令を書き換える。それぞれの条件を書きこんでいると、突然痛みが走った。ぱしん、と音を立てる脳内。私の細胞がもぎ取られた音だ。いってぇ、と叫ぶ私にナナカが大丈夫? と聞いてくる。
「大丈夫だ。なんともない」
私は耳から出てくる煙を払いながら、舌打ちをした。すぐに傷ついた部分に修復をかけ、新たにプロテクトをかける。
マザーの命令はすぐに変わるし、その条件も環境に適応して変化する。今だって、IF条件にある乱数配列が違うと突っぱねられた。一分前に得た情報を、マザーはすでに書き変えている。プロテクトがかかってなかったら今頃魂まで持って行かれてただろう。
私はひとつため息をつく。細胞をひとつ持って行かれたのは悔しいが、この失敗で分かったことがひとつある。このままプログラムの書き変え作業を続けてもいずれマザーに追い越されてしまうということだ。
だったらウィルスを注入してコンピュータそのものを破壊する方が早い。タイミングはエラーが出る前の数秒間。アイドルタイムが発生する瞬間にアタックをかける。
私はもう一度ダミーのプログラムを起動させる、今度は失敗しない。私は慎重に指を動かすと混沌の中へ再び飛び込んだ。
ループ、と聞くと「輪」よりも「繰り返し」のイメージが強いのは、昔プログラミング学んでいたから。攻殻機動隊が好きなのでそれにも影響されてる内容。
マザーはこの国の公共機関や医療、会社の情報全てを管理する。有事の際は指揮官となり、軍隊に命令を下したり、民間人の保護をする。
依頼者の話によると、先の宣言通り戦争は終結したが、マザーは戦闘状態を解除せず、未だ外に向かって攻撃を続けているのだと言う。強制終了をかけてもマザー自身がそれを突っぱね、命令を繰り返しているというのだ。
マザーの居る場所は国の中枢機関を兼ねていて、地下にあるシェルターには国を背負う重鎮たちが閉じ込められている。このままだとあと数時間で地下の酸素も枯渇するだろう。うさんくさい政治家たちはどうでもいいが、マザーが暴走したままなのはまずい。開発者の血を引く者としてはなんとしても止めなければならない。
依頼を受けた私は戦争で荒れた道をバイクで突っ走る。所々に空いている穴はマザーの命令により発射されたミサイルの痕だ。
マザーは要塞化した都市の中心に――塔の中に君臨している。都市の入り口にはいると予想通り、銃弾とミサイルの雨が降っていた。私はその隙間を縫ってバイクを走らせる。時折タイヤが瓦礫にあたって何度も体が跳ねる。そのたびに後ろに座っているナナカの悲鳴が耳をつんざく。ふくよかな胸が私の背中により密着するのに、私は別の意味で興奮した。
今、マザーはこの国を守っている。戦いが終結した今も。それは永遠に、マザーが生きてる限り続く。断ち切れないループを止めるには、マザーに直接ダイブして内部から命令プログラムを書き変えて誘導しなければならない。
私は公衆電話を見つけるとバイクを止めた。公衆電話は緊急用にも使用され、マザーと直接繋がっていた。私は長い髪をゴムで束ねるとイヤホンに内蔵されているケーブルを引っ張った。片方を電話機に、もう片方を自分のこめかみにあるプラグに繋ぐ。視界が闇に包まれると、私の網膜に数字の羅列が走る。最後にEnterの赤い表示が中央に浮かんだ。
指を動かし実行を指示する。視界に広がるいくつかの選択肢から自分の中に埋め込まれているプログラムを選んだ。それまでの間、コンマ一秒。バイクを運転するナナカは軌道に乗った私を固唾をのんで見守っている。
ダイブするにあたっての環境設定が整った私は呼吸を整えた。それからダミーのプログラムを動かし、ダイブする頃合いを計る。幾つか流した後で頷く。カウントダウンを開始した。数が一つずつ消えてゆく。私はゼロと同時に意識をそちらに委ねた。
いつもながらダイブの瞬間は気持ち悪い。沢山のノイズや情報が混乱して火花が走る。それでも私は混沌の中を泳いでいった。プログラムの中枢に突入すると既に並列化されているマザーの情報を引き出した。毎分ごとの更新の前に命令を書き換える。それぞれの条件を書きこんでいると、突然痛みが走った。ぱしん、と音を立てる脳内。私の細胞がもぎ取られた音だ。いってぇ、と叫ぶ私にナナカが大丈夫? と聞いてくる。
「大丈夫だ。なんともない」
私は耳から出てくる煙を払いながら、舌打ちをした。すぐに傷ついた部分に修復をかけ、新たにプロテクトをかける。
マザーの命令はすぐに変わるし、その条件も環境に適応して変化する。今だって、IF条件にある乱数配列が違うと突っぱねられた。一分前に得た情報を、マザーはすでに書き変えている。プロテクトがかかってなかったら今頃魂まで持って行かれてただろう。
私はひとつため息をつく。細胞をひとつ持って行かれたのは悔しいが、この失敗で分かったことがひとつある。このままプログラムの書き変え作業を続けてもいずれマザーに追い越されてしまうということだ。
だったらウィルスを注入してコンピュータそのものを破壊する方が早い。タイミングはエラーが出る前の数秒間。アイドルタイムが発生する瞬間にアタックをかける。
私はもう一度ダミーのプログラムを起動させる、今度は失敗しない。私は慎重に指を動かすと混沌の中へ再び飛び込んだ。
ループ、と聞くと「輪」よりも「繰り返し」のイメージが強いのは、昔プログラミング学んでいたから。攻殻機動隊が好きなのでそれにも影響されてる内容。
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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