もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
私の村では満月の夜になると、その月、数えで十三を迎えた子供たちが「夜の散歩」を始める。十三はまだ子供ではあるが「ひとりで判断し行動できる年頃」と言われていた。夜の散歩はこれまで親の元で大事に育てられた子供たちが巣立つ、村の儀式のようなものだった。
秋の終わりに生まれた私は次の満月でちょうど十三を迎える。今回の散歩はいつもとは違い、その規模をだいぶ縮小していた。本来なら中止になってもおかしくない状態だった。その理由は他でもない。冬が近づいているからだ。冬になればこの村は雪で埋もれて散歩どころではなくなってしまう。大人たちからも霜が降る前までに帰ってこいという、条件付きの承諾だ。それでも私の心は躍った。初めての夜の散歩が幼馴染のヨモギと一緒なのも嬉しかった。
当日、私はおにぎりとおやつ、温かい飲み物の入った水筒と小さな包みをを風呂敷にくるんだ。端っこを結んで背負い、ランタンの紐を自分の腕にくくりつける。最後に、茜色のマフラーを自分の首に巻いた。
「ひとりで大丈夫?」
玄関先で私はそう聞かれる。心なしか心配顔の両親に大丈夫だから、と笑った。
家を出た私はまっすぐにヨモギの家に向かった。ヨモギは家の前で待っていて、その体を震わせていた。
「やだ。なんで家の中で待ってなかったの?」
私は慌ててリュックから包みをひとつ取り出し広げる。出てきたのはこの間完成したばかりのマフラーだ。蓬色のそれをヨモギの首にかけてあげる。色違いのお揃いなの、と私が言うとお互いの顔から笑みがこぼれた。
私たちの散歩は村のはずれにある丘の上までだ。ヨモギは体が弱いから丘の上まで歩くのは普段の倍以上かかるだろう。それを計算して私達は他の子たちよりも一時間早く出発した。片方の手でランタンを、反対の手でお互いの手をしっかりと握る。ゆっくりと足並みを揃えて丘を昇る。
ヨモギの体を気づかい、小刻みに休息を入れた。途中で他の子に抜かれたけど、そんなのは気にしない。だってその分、ヨモギと沢山の喋りできるんだから。私たちはたっぷり時間を使って上まで登る。最後の難関を超えると視界が開け、満天の星が私達を迎えてくれた。まんまるの月がとても大きくて、今にも落っこちそうだ。
乾いた草むらで私は繋いだ手を一旦離す。丘の上に立つ一本の木を指した。
「あのね、ここから村が良く見えるの」
私の声にヨモギはこくりと頷いた。そっと私に寄り添うとまるで二人三脚のように腰まである枯れ草の道を歩いていく。木の根元までたどりつくと、その口からわぁ、と立て続けに声が広がった。
麓を照らすのは家の灯りたち。ぼんやりと浮かぶ村の景色は幻想的だ。まるで違う世界に飛び込んでしまったかのような錯覚を覚えた。
しばらくして教会の鐘が鳴る。村が眠りの時間を迎えた。家の灯りがドミノ倒しのように消えてゆき、闇の中へ消えてゆく。私はランタンの火を消した。上を見て、とヨモギを促す。ヨモギの、二度目の感動が私の心を揺らした。しんと静まり返った村に空が微笑んでいる。時折光の向きを変えながら、星は私たちを優しく見下ろしていた。
「綺麗だね」
そう言葉を紡いだヨモギの頬は興奮で赤く染まっていた。白い息が空へと昇ってゆく。とおいとおい、遥か先にある星に向かって。
80フレーズⅠ「12.硝子越し」の村のお話。
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すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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