もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
私は売り場の近くにいた店員さんを呼び止めた。この携帯欲しいんですけど、と言うとガラケーでいいの?と店員さんに言われスマホやアイフォンをすすめられた。でも私はラインやお得なアプリとやらに興味はないし、ネットをするなら親のパソコンを使えばいいと思ってる。月々の支払いも手頃だし今はこれで十分だ。だから自信を持ってこれでいーんです。と答える。
私は携帯を購入すると、早速電話番号の登録にとりかかった。私は分厚い説明書と格闘する。短縮一番に乗せるのは勿論、愛しのゆっきーの番号だ。ただ登録するのも何なので確認がてらに電話をかけてみる。けど、ゆっきーが電話に出ることはなく、すぐに留守番電話に繋がった。
「やっほ。えぃみぃだよーん。携帯買ったから次からこっちに電話かけてね」
そう伝言を残して通話を切る。すると十秒もたたないうちにピリリリリ、と芸のない着信音が私の耳をつんざく。画面にゆっきーと表示された。初めての着信にどきどきしながら通話ボタンを人差し指で押すとなぁにいいいっ、という悲鳴がスピーカーから飛び出す。
「おま、何血迷ったことしてんの。俺の寿命縮める気かっ」
「そんなつもりないけど」
「じゃあ止めろ。おまえに携帯は毒だ。今すぐ捨ててしまえ。つうかこの電話もすぐ切れ。でないと――」
「やだ」
「やだ、じゃない! おまえ自分が何してるかわかってんのか?」
「そんなのはわかっているけど」
「けど?」
「ゆっきーが何してるか気になって……私もベッドで電話したり、メールで話したくて」
「だったらパソコンで足りるだろ。毎日メールしてるだろ?」
「私がパソコン使えるの、昼間だけだって知ってるでしょ。ゆっきーは昼間仕事じゃない。私はリアルタイムで話がしたいの。だから勇気出して携帯買ったの。それって悪いこと?願っちゃいけないの?」
それを聞いてゆっきーは黙りこんでしまった。ありったけの気持ちをぶちまけた私は自分の胸元を押さえる。
私は心臓にペースメーカーを埋め込んでる。だから携帯電話の側には近寄るなと日頃から言われていた。自分の体のことについては嫌というほどわかってる。私にとって外出がどれ程危険かということも。
この世の人たちは携帯なしでは生きていけない状態だ。固定電話があっても家の中で使うし、電車や車の中でも使う。電源を切るようにと言われる場所でも、ちゃんと守れているかどうかも怪しい。だから私は死の恐怖を抱えながら外を歩いている。見知らぬ人にぶつかるだけでも悲鳴を上げそうなのだ。
でも、携帯はペースメーカーから二十二センチ離れていれば支障はないという実験結果が出てるのも事実だ。それは二十年近くも前の話で、今は携帯も進化しているからもっと距離を縮めても影響がないことが総務省で報告されている。それでも携帯を買うのにはかなりの勇気がいった。買う前から色んな機種を調べて、ペースメーカーとの因果関係を念入りに確かめて。きっとゆっきーが思う以上に私は携帯に対して神経質になっていたと思う。今だって肌に直接触れないよう、携帯を机に置いてスピーカーをオンにして少し離れた所で喋っているのだ。
多くは望まない。ゆっきーの仕事が終わって自由になる夜の数分だけ携帯を使わせて欲しい。ただでさえ離ればなれになってしまったのだ。これまで毎日会っていたのに。ずっと会えないのは淋しい。触れられないのは辛い。だから私は――
「ゆっきーは私のこと思って言ってくれたんだよね。こっちこそごめんね。まだ仕事なんでしょ?だったらもう切るね」
私は心臓に遠い方の手でボタンを押す。電話を切ったあとでため息をついた。私は机に置いた携帯をぼんやりと見ながら考え込む。するともう一度携帯が鳴った。私は恐る恐る電話に出る。ごめん、とゆっきーの声がした。
「俺が転勤を断ればおまえと離れることもなったのに――ごめんな」
ゆっきーの謝罪に私は首を横に振る。
「私はゆっきーの仕事している姿が好きよ。だから待つって決めたの。五年なんてあっという間よ」
大丈夫だからと私はいきがる。もっと強くなりたいと思った。ゆっきー以外にも自分が夢中になれる何かを探したい。自分の為にもなる「何か」がほしい。そう――私達の遠距離恋愛はまだ始まったばかりなのだから。
私は携帯を購入すると、早速電話番号の登録にとりかかった。私は分厚い説明書と格闘する。短縮一番に乗せるのは勿論、愛しのゆっきーの番号だ。ただ登録するのも何なので確認がてらに電話をかけてみる。けど、ゆっきーが電話に出ることはなく、すぐに留守番電話に繋がった。
「やっほ。えぃみぃだよーん。携帯買ったから次からこっちに電話かけてね」
そう伝言を残して通話を切る。すると十秒もたたないうちにピリリリリ、と芸のない着信音が私の耳をつんざく。画面にゆっきーと表示された。初めての着信にどきどきしながら通話ボタンを人差し指で押すとなぁにいいいっ、という悲鳴がスピーカーから飛び出す。
「おま、何血迷ったことしてんの。俺の寿命縮める気かっ」
「そんなつもりないけど」
「じゃあ止めろ。おまえに携帯は毒だ。今すぐ捨ててしまえ。つうかこの電話もすぐ切れ。でないと――」
「やだ」
「やだ、じゃない! おまえ自分が何してるかわかってんのか?」
「そんなのはわかっているけど」
「けど?」
「ゆっきーが何してるか気になって……私もベッドで電話したり、メールで話したくて」
「だったらパソコンで足りるだろ。毎日メールしてるだろ?」
「私がパソコン使えるの、昼間だけだって知ってるでしょ。ゆっきーは昼間仕事じゃない。私はリアルタイムで話がしたいの。だから勇気出して携帯買ったの。それって悪いこと?願っちゃいけないの?」
それを聞いてゆっきーは黙りこんでしまった。ありったけの気持ちをぶちまけた私は自分の胸元を押さえる。
私は心臓にペースメーカーを埋め込んでる。だから携帯電話の側には近寄るなと日頃から言われていた。自分の体のことについては嫌というほどわかってる。私にとって外出がどれ程危険かということも。
この世の人たちは携帯なしでは生きていけない状態だ。固定電話があっても家の中で使うし、電車や車の中でも使う。電源を切るようにと言われる場所でも、ちゃんと守れているかどうかも怪しい。だから私は死の恐怖を抱えながら外を歩いている。見知らぬ人にぶつかるだけでも悲鳴を上げそうなのだ。
でも、携帯はペースメーカーから二十二センチ離れていれば支障はないという実験結果が出てるのも事実だ。それは二十年近くも前の話で、今は携帯も進化しているからもっと距離を縮めても影響がないことが総務省で報告されている。それでも携帯を買うのにはかなりの勇気がいった。買う前から色んな機種を調べて、ペースメーカーとの因果関係を念入りに確かめて。きっとゆっきーが思う以上に私は携帯に対して神経質になっていたと思う。今だって肌に直接触れないよう、携帯を机に置いてスピーカーをオンにして少し離れた所で喋っているのだ。
多くは望まない。ゆっきーの仕事が終わって自由になる夜の数分だけ携帯を使わせて欲しい。ただでさえ離ればなれになってしまったのだ。これまで毎日会っていたのに。ずっと会えないのは淋しい。触れられないのは辛い。だから私は――
「ゆっきーは私のこと思って言ってくれたんだよね。こっちこそごめんね。まだ仕事なんでしょ?だったらもう切るね」
私は心臓に遠い方の手でボタンを押す。電話を切ったあとでため息をついた。私は机に置いた携帯をぼんやりと見ながら考え込む。するともう一度携帯が鳴った。私は恐る恐る電話に出る。ごめん、とゆっきーの声がした。
「俺が転勤を断ればおまえと離れることもなったのに――ごめんな」
ゆっきーの謝罪に私は首を横に振る。
「私はゆっきーの仕事している姿が好きよ。だから待つって決めたの。五年なんてあっという間よ」
大丈夫だからと私はいきがる。もっと強くなりたいと思った。ゆっきー以外にも自分が夢中になれる何かを探したい。自分の為にもなる「何か」がほしい。そう――私達の遠距離恋愛はまだ始まったばかりなのだから。
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プロフィール
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和
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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