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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0818

 帰り道の途中で考え事をしていると、幼馴染のミナに声をかけられた。
「どうしたの、道端でぼーっとして」
「名前、考えてたんだ」
「名前って――ウメのお母さんのお腹にいる子の?」
「そう。親に『名前つけさせて』って頼んだら、いいって言われたから」
 名前決めたの? と問うミナに俺は聞きたい? と問い返す。ミナが二度返事で食いついた。俺は思い付く限りの名前を口に出す。
「ええと、杏也だろ、杏太に杏次に杏馬に……」
「やっぱり杏の字を使うんだ」
「当然だろ。他にもあるぞ。杏太郎に杏輔に杏平。それから――」
「それって男の子の名前ばかりじゃない。そりゃウメの気持ちも分からなくもないけどさ。こういうのは天からの授かり物って言うでしょ? 女の子の名前もちゃんと考えないと。それに子供産まれる五月って杏の季節には早いわよ。その漢字名前に使って何か言われたりしない?」
 小姑じみたミナの言葉を俺はああそのへんは大丈夫だから、と軽い言葉で吹き飛ばす。
「ウチはそういったの気にしない――というか、いい加減だから」
 年が離れているとはいえ、子供も五人目となると両親も色々なことが適当になるらしい。そのいい例が俺だ。
 俺は四人きょうだいの末っ子だ。俺の「青梅」という名前には俺の生まれた六月の果物がついている。でもそういった意味で付けられたわけじゃない。両親が俺の名付けで悩んでいたときにすぐ上の姉――桃ねぇが梅酒の青い瓶を持ってきて「これがいい」と言ったのだ。しかも名付けの当人は当時三歳で全く記憶にない。この話を聞いたとき、あまりの適当さに俺は頭を抱えた。今回名付け役を買って出たのもそういったのが根底にある。
 そう、俺にとってこれから生まれてくる弟(であってほしい)は特別な存在になる。だからこそ、適当な名前をつけられてたまるかという気持ちになるのだ。
 俺はそらに浮かんだ候補をもう一度繰り返す。最後にうなり声をあげた。やっぱり女の子の名前も考えるべきだろうか。ああは言ったものの、ミナの言葉も一理あると思った。でもやっぱり俺の中では弟のイメージしかなくて。
 俺は腕を組んで考える。しばらくしたあとでうん、と頷いた。
「女の子の名前はミナに任せるわ」
「はぁ?」
「だから俺ら二人で分担して子供の名前を考えるんだよ」
 俺の提案にミナは目をぱちぱちとさせた。
「……いいの?」
「仕方ないだろ。俺の中では男の名前しか出ないし」
 それに、ミナならいい名前を考えてくれる。そんな気がするのだ。
 俺はすっかり高くなった秋の空を見上げた。寺町を吹き抜ける風も涼しさから遠のいて、だいぶ冷えてきた。あの暑かった夏の日が遠い昔へと変わってゆく。この胸に残ったのはもうひとりの自分との思い出。それはこれから形を変えて、新しい時を刻んでゆく。思い描く未来は無限に広がるのだ。
 やがて隣にいたミナがぱちんと手を合わせる。名前決めたよ、の声に俺の心がうずいた。


本サイト掲載作品「君といた夏」から少し後の話。ここ最近こんな話ばっかだが、物語の隙間を埋めるのは結構楽しかったりする。

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女性
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すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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