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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0817
空を飛んでいた私は体を下に傾け、地上へ向かう。険しい山の麓に降り立つと、数か月ぶりにてっぺんの景色を臨んだ。久しぶりに見る故郷はガスでけぶって良く見えない。でも頂上から吹き下ろす風は涼しく清々しい。木々の匂いがとても懐かしい。
 私はこれまで乗っていた箒をしまうと、森の奥へ通じる獣道の前に立った。この道の終わりに私の師匠が住んでいる。そこへこれから向かうと思うと、心なしか緊張が走る。師匠の元には城からすでに書簡が届いているはずだ。内容は私が城に滞在中に怪我をし戻るのが当初の予定より遅れるというというもの。たぶん怪我の理由も書かれているに違いない。
 師匠は私の失態をどう思うのだろうか。それを考えるだけで気が重い。
 役目を終えた隕石がこの惑星に衝突する――流星年を控えたある日、城から書簡が届いた。なんでもこの国の緊急事態ということで、世界中から魔法使いに招集がかかっているとのこと。本来なら私は師匠と共に城へ向かうことになっていた。でも師匠はその知らせが届く数日前に怪我をしてしまい、私一人が登城することになったのだ。過疎地にいるので、知り合いと呼べる魔法使いはほとんどいない。
 城までの道の途中、心細くなった私は親とはぐれたドラゴンの子を旅の友とした。ドラゴンの成長はあっという間だ。出会った頃は手乗りサイズだったのに、二週間も過ぎるとドラゴンの体長は私の腰の高さまでになる。
 ドラゴンには最初から主従の呪文をかけたから、このまま私の使いとして一緒にいることもできた。でもそれを選ばなかったのは、まだ自分がそんな器ではないと悟ったからだ。田舎の山育ちの私にとって彼らは神に近く、尊敬と畏怖の存在に値する。
 誰もいない朝、私はドラゴンにかけた術を解き仲間の所へ促した。ドラゴンは同族同士であれば血のつながりはなくとも共存する。そう思って放したつもりだった。
 でも、私が放したドラゴンは仲間とは調和せず、彼らを襲ったのだ。私も慌てて止めに入ったが返り打ちに遭ってしまう。今まで一緒にいた友が警戒心の強い、魔法を中和してしてしまうブラックドラゴンだと知ったのは、それからすぐのことだ。ブラックドラゴンは翼を広げると、隕石の衝突から守る魔法のシールドを壊し人々に絶望の恐怖を与えた。
 今でも脳裏に浮かぶのは城下町でのこと。私は人々が絶望と狂気に触れるさまを見た。一時的とはいえ、この世界を混乱に陥れてしまった罪は重い。本来なら魔法使いの世界から永久追放されてもおかしくない位だ。
 でも事態を収集すべく、己の手でドラゴンを見つけ捕獲したこと、そして偉大なる魔道士、シフ先生の弁護もあり、最終的に私は不問とされた。
 私はその結果を素直に喜ぶことはできなかった。だってブラックドラゴンを取り押さえたのは私ではなくシフ先生の弟子だから。私は自分で育てたドラゴンにやられるばかりで、結局何もすることができなかった。
 命の恩人ともいえるべき彼女はシフ先生とともにシールドを張り直したあとで、自分の世界へ帰ってしまったらしい。私がお礼を言いそびれたことを残念に思っていると、偉大なる魔道士はあやつに礼などいらん、と言って笑っていた。
 私は鬱蒼とした森の中にある小さな山小屋へ到着する。私は呼吸を整え、ドアをノックした。扉を開くと薬を調合している師匠と目が合う。城に向かう前に負った足の怪我はすでに完治している。
「ただ今戻りました」
 私は姿勢を正し一礼した。ゆっくりと顔を上げ、師匠の表情を伺う。相変わらず無愛想で何を考えているのかが分からない。私は少しだけ目を伏せ、あの、と声をかける。
「戻るのが遅くなってしまい、申し訳ありません……」
 私の謝罪に師匠は何も答えない。もしかしたら相当怒っているのだろうか。
 私は思いきって顔を上げる。自分の持っていた杖を師匠に差し出した。この杖は十三の年に弟子入りして、初めて師匠から頂いたものだ。これを返すということは師弟関係を終わらせること。師匠は私の行動に眉をひそめた。
「何をしている」
「私は取り返しのつかないことをしてしまいました。救うべき人々を混乱に陥れて、師匠の顔に泥を塗って――もう魔法使いになる資格はありません。だから」
 私がどうか受け取ってくださいと杖を押しつけた。やがて師匠が口を開く。
「それは魔法使いを辞める、ということか」
「そうです。というか、当然のことだと思います。師匠だってそう思いませんか?」
「私はお前が何でそう言うのかがよくわからんのだが?」
「え?」
「――もしかして、城でドラゴンを放したことを気にしているのか?」
「そうですよ。っていうか、それ以外にないじゃないですか!」
 私は思わず声を荒げる。でも師匠は私に杖を突き返すとなんだそんなことか、と呟いたのだ。その「どうでもいいや」的な発言に私は思わずは? と声を上げ、慌てて口を手で塞いだ。そんな私に師匠がふっと笑う。
「何を急に言い出すと思ったら――そんなちっぽけなことを気にしていたのか?」
 しょうがないな、と言うような顔で師匠が拳を上げる。私の頭を優しくこつんと突いた。
「そんなことより、私はお前の帰りを待っていたんだ。久しぶりにお前の作るパイが食べたい。庭に丁度熟れた実が成っていてな。どのくらいでできる?」
 その問いに私は溢れそうな涙をぐっと堪えた。
「今すぐに作ってきます」
 私は自分の杖を再び握る。師匠の好きな果実を探すべく外へ飛び出した。


「魔法使いとドラゴン」のその後でプミラとその師匠のやりとり。なんだかんだでお題消化を金曜日に再開できず。でも今日からがんばる。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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