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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0810

 あいりの正体を知った長島が目を見開く。その手が先程から小刻みに震えていた。
「『光と影』に収録された曲はtooyaが作ったものではありません。全て盗作だった――演奏もアキさんがしていたんじゃないんですか? 違いますか?」
 あいりが真を突くと、突然長島が訳の分からない叫び声を上げた。斧をあいりと甲斐の間に突き落とす。二人がそれぞれの方向へ逃げると、長島は比較的動きの鈍い甲斐を狙った。白鳥が甲斐の腕を捕らえ、はがいじめにする。そこへ長島が斧を振りかぶる。長島の強行を防ごうと、あいりは体当たりをした。同時に甲斐が白鳥の頭に頭突きをくらわせる。白鳥が悶絶し、甲斐の身が解放された。
「甲斐くん大丈夫?」 
「大丈夫ですけど――って、瀬田さん右っ!」
 甲斐の指示にあいりはわかってる!と叫びながら長い足を持ち上げる。くるりと体をひねると、見事な回し蹴りが再び襲ってきた長島の首にヒットした。持っていた斧が床にはじかれ、刃を中心にくるくると回る。床に沈められた長島は一度呻き声を上げた後、意識を失った。
「これでコイツを縛って」
 あいりがスーツの上着を脱いで放り投げた。甲斐はそれを受け取ると袖の部分を使って犯人の手首をぐるぐる巻きにする。これで残った敵はただ一人。白鳥は唯一の脱出口に立つ砦に顔を歪ませた。
「おまえら……警察がこんなことしていいと思ってるのか?」
「今のはどうみたって正当防衛です!  斧なんて振り回す方が悪い!」
 さあ、どうします? 冷静な口調であいりが白鳥を追いつめる。
「今ここでアキさんを拉致監禁したことを認めるのなら、自首扱いにすることもできますけど」
「残念だが私らは何の罪も犯していない。『光と影』はtooyaのオリジナルだ。演奏だって本人がしている。それが真実だ」
「そんなのは嘘です」
 甲斐は叫んだ。気絶した長島を一旦見据え、それから白鳥を睨み付ける。
「匂いを嗅げば一発でわかる。この人は今ピアノを弾ける状態じゃない。彼にはアルコール依存症の症状が出ているんです。手の震えが止まらない人間にどう演奏させたと言うんですか!」
 甲斐の指摘に白鳥が言葉に詰まった。そこへあいりが更なる追いうちをかける。
「あなたはデビューの話でアキさんを誘い真実を告げないままレコーディングをして――tooyaの曲として売り出した。つまり、あなたは始めからアキさんの才能を利用したということです」
「それは詭弁だよ。証拠はどこにある? tooyaの曲じゃないって証拠が何処に?」
「確かにレコーディングに関わった人間をひとりひとり任意同行するのは難しいかもしれません。でも、私と同じことを思う人が他にもいたら?」
 そう言ってあいりはパンツのポケットから携帯を取り出した。指で操作すると、ピアノを演奏している画像が流れてくる。それはアキがあるイベントのリハーサルで『光と影』を弾いている姿だった。背景にある垂れ幕には、イベントの名と日付が書かれている。あいりはそれを白鳥に突きつけた。
「これは今年の春に撮ったものです。先ほど動画サイトに投稿しました。これを見た視聴者は彼女がtooyaよりもずっと前に『光と影』を演奏していることに疑問を持つはず。これが証拠にならなくても、世間やマスコミに興味を持たせるには十分です。大手とは言い難いあなたの事務所は彼らの噂や追求を止めることができますか?」
「――そんなの、放っておけばいいだろ」
 急に白鳥の口調が変わった。開き直ったのか、白鳥は急にあいりを見下し始める。
「お前らは知らないだろうがなぁ、この世界は夢を見させてナンボなんだよ! 話が違う? それがどうした? そんなの騙された方が悪いんだ!
 お前らに俺の何が分かる? どーしようもねぇコイツを売るために頭下げて、血を吐きながら会社を守って――あいつをここまで育て上げたのは俺だ! tooyaの奇跡の復活はこれから始まる。それを邪魔されてたまるか!」
 そう言って白鳥はおもむろに走り出した。床に置かれた斧を取ろうとしたので、甲斐がそれを蹴飛ばし、手の届かない部屋の奥へ飛ばす。すると白鳥はあいりに向かって拳を突き立て突進してきた。あいりはすんでのところで攻撃をかわす。相手の腕を捉えると後ろに回し手首をひねった。
 どこからかパトカーのサイレンが聞こえる。それはアキがあいりの指示通り動いた証拠でもあった。家の中にひとりふたりと警察官が入っていく。あいりが彼らに事情を説明すると、白鳥と長島を署へ連行して欲しいと伝える。
 長い夏の一日がようやく終わりを迎えようとしていた。

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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