もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2014
「僕はもともと漁師の家の生まれなんですけど、父の仕事を継ぐのは嫌で今の職に就いたんです。でも海は僕にとって人生の一部と言うか切っても切り離せないもので――不思議ですよね。親の反対押し切って上京したのに、海が恋しいんですよ。いつか海の見える場所に家を建てたいんです。遠い遠い、未来の話ですけどね」
自分の夢を語る男性に私の眉がぴくりと動いた。穏やかだった心にさざ波が立つ。
「いつか」なんて言葉は嫌いだ。
期待だけ持たせておけばそれでいいってもんじゃない。だったら最初からあてのない約束なんてするんじゃない。
だから私は「いつか」という言葉を聞いた瞬間相手に幻滅してしまう。夢のある言葉を完全否定するつもりはないが、体がどうしても受け付けないのだ。
そうなってしまったのは私の成長過程が原因だと思う。
私が生まれてすぐ、私の父に病が発見された。父の治療は長引く上、手術に膨大な金額がかかったらしい。だから私の家は常に金に困っていた状態だった。
そんなある日、私はスーパーのおもちゃ売り場で当時人気だったキャラクターのおもちゃを見つけた。値引きのシールが貼ってあるそれを私は母に見せ、これが欲しいと言ったが母は首を横に振った。
「いつかきっと買ってあげるから。だからその日まで楽しみに待っていようね」
母の常とう句に今度は私が首を横に振る。ヤダ、と連呼した。
いつもだったら母の言葉を素直に受けていたけど、その時の私は子供の勘というか、ここで買わなかったら二度と買えないんだろうという思いが走っていたのだ。
私は諦めきれず駄々をこねる。さんざんわめいて、それはスーパーの隅から隅まで響いて。そして次の瞬間、私は母に平手打ちされたのだ。
叩いた直後、母は私を抱きしめた。ごめんね、と言いながら涙をこぼしていて。母に先に泣かれてしまったせいで私は泣くことすら忘れてしまった。
いつかね、きっとね。
何度も繰り返される「いつか」にウチは他の家と違うんだなということを改めて思い知らされたのである。
その後手術は成功し、開発された新薬のおかげで父は奇跡的に回復した。
父が復職すると我が家は人並みの生活を送れるようになり、母の心にも余裕が生まれた。けど私の中であの出来事は消えず、使い古された言の葉は私にとって禁句となった。
実際、母はかなり苦労していたのだと思う。長引く治療で生死の不安を漏らす父の前で母は気丈を強いられた。あの頃は精神的にもかなり追いつめられていたのだと今なら分かる。母はあの事を相当後悔していた。だから私も責めない。
私は皿に残った残りの一切れを口に入れる。もともと伯母の顔を立てるための見合いだったけど、相手の真摯さに正直心がぐらついた。でも夢を語る彼の側にずっといられる自信がない。
だから私は言葉を紡ぐ。それはとても素敵な夢ですね、と。
「そうですか?」
照れる男性に私は言葉を重ねた。
「その時は私よりももっと素敵な人が貴方の隣りにいるはずですよ」
「え?」
「では失礼します」
私は席を立って一礼する。相手に一度微笑むとくるりと踵を返した。
自分の夢を語る男性に私の眉がぴくりと動いた。穏やかだった心にさざ波が立つ。
「いつか」なんて言葉は嫌いだ。
期待だけ持たせておけばそれでいいってもんじゃない。だったら最初からあてのない約束なんてするんじゃない。
だから私は「いつか」という言葉を聞いた瞬間相手に幻滅してしまう。夢のある言葉を完全否定するつもりはないが、体がどうしても受け付けないのだ。
そうなってしまったのは私の成長過程が原因だと思う。
私が生まれてすぐ、私の父に病が発見された。父の治療は長引く上、手術に膨大な金額がかかったらしい。だから私の家は常に金に困っていた状態だった。
そんなある日、私はスーパーのおもちゃ売り場で当時人気だったキャラクターのおもちゃを見つけた。値引きのシールが貼ってあるそれを私は母に見せ、これが欲しいと言ったが母は首を横に振った。
「いつかきっと買ってあげるから。だからその日まで楽しみに待っていようね」
母の常とう句に今度は私が首を横に振る。ヤダ、と連呼した。
いつもだったら母の言葉を素直に受けていたけど、その時の私は子供の勘というか、ここで買わなかったら二度と買えないんだろうという思いが走っていたのだ。
私は諦めきれず駄々をこねる。さんざんわめいて、それはスーパーの隅から隅まで響いて。そして次の瞬間、私は母に平手打ちされたのだ。
叩いた直後、母は私を抱きしめた。ごめんね、と言いながら涙をこぼしていて。母に先に泣かれてしまったせいで私は泣くことすら忘れてしまった。
いつかね、きっとね。
何度も繰り返される「いつか」にウチは他の家と違うんだなということを改めて思い知らされたのである。
その後手術は成功し、開発された新薬のおかげで父は奇跡的に回復した。
父が復職すると我が家は人並みの生活を送れるようになり、母の心にも余裕が生まれた。けど私の中であの出来事は消えず、使い古された言の葉は私にとって禁句となった。
実際、母はかなり苦労していたのだと思う。長引く治療で生死の不安を漏らす父の前で母は気丈を強いられた。あの頃は精神的にもかなり追いつめられていたのだと今なら分かる。母はあの事を相当後悔していた。だから私も責めない。
私は皿に残った残りの一切れを口に入れる。もともと伯母の顔を立てるための見合いだったけど、相手の真摯さに正直心がぐらついた。でも夢を語る彼の側にずっといられる自信がない。
だから私は言葉を紡ぐ。それはとても素敵な夢ですね、と。
「そうですか?」
照れる男性に私は言葉を重ねた。
「その時は私よりももっと素敵な人が貴方の隣りにいるはずですよ」
「え?」
「では失礼します」
私は席を立って一礼する。相手に一度微笑むとくるりと踵を返した。
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プロフィール
HN:
和
HP:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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