2014
俺はゆっくり顔を上げた。目の前に横たわるのは俺のばあちゃんだ。俺はばあちゃんと横顔をじっと眺める。その穏やかな顔を見ているとばあちゃんの人柄が伺える。ばあちゃんは誰にも優しくいつも笑顔を絶やさなかった。
俺はふと自分の誕生日のことを思い出す。
何時だったか、ばあちゃんから貰ったプレゼントが親のと被ってしまった時があった。それは俺が前から欲しいと言っていた絵本だった。
その頃の俺は人を気づかうなんて言葉を知らなくて。だから箱の中身を知るなり、これいらない、と本を投げ飛ばしたのだ。
すぐに親からおばあちゃんからもらったものになんてことするの、と叱る両親に俺はいらないを連呼していた。あの時もばあちゃんはごめんね、と言って静かに微笑むだけだった。
次の日、ばあちゃんから別のプレゼントをもらった。俺の大好きな戦隊物のおもちゃだ。最初は俺もすごく喜んだ。
でもばあちゃんのにこにこした顔を見た瞬間、最初に渡された本のことが気になって、新しいおもちゃを貰えた嬉しさは徐々に消えて行く。
たぶん子供心に悪い事をしたんだな、って思ったのかもしれない。その日から俺はばあちゃんから無意識に距離を置くようになったんだ。
俺の誕生日から一週間後、親戚の集まりがあった。
その時伯母さんが突然ばあちゃんにお礼を言い始めた。ばあちゃん貰った本を息子がとても気に入っているんだと。
どうやらあの本は一歳下の従弟に渡ったらしい。ばあちゃんは変わらずにこにこしていた。事情を察した両親は気まずそうな顔をしていた。俺はというと自分は悪者にならずに済んで心の底から安堵していた。拗らせた想いを察した神様からばあちゃんの所に行ってもいいよとお許しを貰った気分だった。
それはまだ、明日が当たり前だと思っていた頃の話。
どんなにひどいことを言ってもばあちゃんは当たり前のようにいて、いつかは許されるんだとそう思っていた。
――なんて馬鹿なんだろう。
俺は慟哭する。「当たり前」は本当は奇跡なんだって、何で気づかなかった?
ばあちゃんは少し前に倒れた。全てが手遅れであとは死を待つしかないのだと医者に言われた。
最後に俺と言葉を交わしたのは朝だ。慌ただしい時間にばあちゃんはゆったりとした口調で俺にお菓子をくれた。でも俺はそれを突っぱねて――
「何であんなこと言っちゃったんだろうな」
俺は言葉をぽつり、落とす。人間として最悪な言葉を俺は呪う。そんな言葉を口走った自分が情けない。
「ごめんなばあちゃん」
俺は思いを言葉にする。悪気はなかったことを、本当は大好きだと言う気持ちを。全てが遅いと分かっていても言わずにはいられない。
「ありがとう」