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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2014

0303
銀髪の少女が部屋の掃除を終えると、朝食を終えた大佐が部屋に戻ってきた。黒曜石の瞳が窓際に置いた一振りの枝に止まる。
「そうか――今日は桃の節句だったな」
 故郷を懐かしむような大佐の口ぶりに銀髪の少女――シャラは小さく頷いた。
「昨日、お客様から頂いたのを分けて貰ったんです。この場所は季節などありませんから、少しでも故郷の風を味わっていただけたらと」
 大佐の故郷では今日、家に着物姿の人形を飾って女の子の成長を祝うらしい。しかもそれは千年以上前から続く習わしだという。
 大佐は軍人になってからは一度も帰省したことがないという。それを知ったシャラはせめてものの気持ちで花を添えてみた。とはいえ、男性の部屋に花を飾るのに躊躇いがなかったわけじゃない。
「勝手に花を飾ってご迷惑でしたか?」
「いいや。とても嬉しいよ」
 大佐は柔らかい微笑みをシャラに向ける。それからしばらくの間、大佐は薄桃色の花の香りを楽しんでいた。
「シャラは花言葉というのを知っているか?」
「朝、おかみさんから聞きました。桃の花言葉は『天下無敵』だそうですね。今の大佐にぴったりの言葉だと思います」
「そうか」
 大佐は口元に自分の手をそっと当てる。何か考えるような仕草をしたあとで実は、ともう一度声をかけた。
「桃にはもう一つ花言葉があるんだが、知っているか?」
「いいえ。何でしょうか?」
「それはね」
 突然大佐の顔がシャラに近づいた。低い声がシャラの耳元で囁く。私の心はあなたに奪われた、と。
 甘い吐息にシャラの熱が一気に上がる。耳を抑えたままのけぞりかえると、シャラ数歩後ずさった。わずかに膨らむ胸元に手を当て動悸を必死になだめようとする。
「シャラはかわいいね」
 くっく、と笑う大佐にシャラは唇を震わせた。ひどいじゃないですかっ、と叫ばずにはいられなかった。
「家に帰ったらアーリアさんに言いつけますからねっ」
 最後の切り札をシャラは惜しむことなくぶつけた。アーリアというのは沙羅のいる置き屋の看板芸子だ。大佐がお気に入りな彼女はとても嫉妬深い。拗ねられたら大佐などひとたまりもないだろう。
「もうこんな悪戯しないで下さい」
 ぷくぅとむくれるシャラに大佐は困ったように笑った。もうしないよ、と一度言ってみたものの、シャラは首を縦に振らない。仕方なく大佐は胸に手を当てた。それは軍人が忠誠を誓う時の仕草である。大佐の意志を汲んだのか、ようやくシャラが許してくれた。 
 大佐はシャラを愛しき人の姿に重なる。今は亡き伝説の踊り子。シャラはその一粒種だ。小さな種は彼女の面影を色強く残しながら真っ直ぐに育っている。懐かしい思いを馳せた大佐は穏やかに微笑んだ。 
「素敵な花を見たおかげで元気になったよ。ありがとう」

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プロフィール
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女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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