2014
私は私物を詰め込んだ段ボールを両手で抱えると、地下へ繋がる階段を下りていた。箱の上には先ほど渡された辞令が乗っかっている。大きく打ち出された辞令の文字の前四葉のクローバーが描かれている。これは前の部署の後輩が私に幸運が訪れますように、という意味をこめて書き加えたらしい。
けど今の私にハートを繋げただけのクローバーはいたずら書きとしか思えない。頑張ってくださいね、と後輩は涙を浮かべながら私を見送ったが内心笑ってたんじゃないかとさえ思ってしまう。
はっきり言おう。この先は地獄だ。どう転んだって幸せになれるわけがない。
これから向かう資料管理課は過去の社内文書を時系列順にデータベース化し管理するのが仕事だ。それは広報の仕事とも違う。私たちが取り扱うのは取りとめのない伝達事項がほとんどだ。
過去となってしまった業務連絡を保存しておく意味など最初からない。つまりこの部署はなくても構わない場所。世間一般でいう所の追い出し部屋なのだ。
私は深いため息をひとつつく。本当、どうしてこんなことになったんだか。
新しい部署に行くにあたり、私の給料は今の三分の一ほど削減されるらしい。ここまで徹底しているとこっちも怒るを通り越して呆れてくる。
お望みどおり辞めてやれと思ったりもしたけど、再就職のあてがない今、すずめの涙ほどの退職金を貰って自由になるのも時期尚早な気がしてならない。腐っても会社は会社。稼がなきゃ好きな物も買えやしないのだ。
大卒で入社して五年。それほど飛び抜けた才能もないけれど、それなりに頑張ってきたと思う。会社が迷惑だと思うような行為は一切してないはず。
なのに嵐は突然訪れた。突風に吹き飛ばされた私はそのまま崖から海の底へと転落してしまったのだ。
深海への道を歩く私の足が止まる。地下一階にある扉の前に掲げてある看板を睨んだ。
この先にあるのは地獄か、はたまたそれ以下か。
私はぐっと拳をつきあげると、古めかしい扉をノックした。