もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2014
その日の昼下がり、学校の屋上で大人買いした漫画を読み耽っていると、ふいに腰を蹴られた。
「そんな薄着で寒くないの?」
僕は痛さを堪えて顔を上げる。極寒の空の下で美少女が眉間に皺を寄せていた。真帆だ。
「そんなトコにいると風邪引くよ」
不機嫌そうな顔で彼女は言うと、もう一度僕を蹴飛ばす。彼女の言葉が行動と伴わないのはいつものことだ。それに彼女は優しい。今だって僕が風邪をひかないか心配してくれている。
だから僕は心配ご無用と笑った。
防寒対策はしっかりしている。高性能のインナーに腰を冷やさないためのカイロ、靴下は二重に履いている。それに何より僕には贅肉という素晴らしいスペックがある――なんて思った所で自分がちょっとだけ悲しくなった。
僕は頭をかくと、真帆を改めて見上げた。そっちこそ寒くないの? と聞かずにはいられない。
制服のブラウスの上に羽織っているざっくりニットは風をよく通しそうだし、膝上スカートからすらりと伸びる生足が悩ましい。北風に煽られないよう、彼女の両腕はプリーツを抑えるのに必死、というかもの凄く寒そうだ。
女子って大変だなぁ。防寒よりお洒落優先で。
その手がなければ絶景が見えるのになぁ。
僕は不謹慎なことを思いつつ。真帆に何の用? と問い返す。
「何の用? じゃないでしょ。今日先輩の誕プレ買いにいくって言ったでしょ」
「それって僕も一緒?」
「当然でしょ。『あの』お店に私一人で行けっていうの?」
真帆は苛ついたような声を上げた。おもむろに胸ぐらを掴まれる。
「先輩がプロレス好きだって言ったのは誰よ。レアな覆面を売ってる怪しげなお店教えてくれたのは誰?」
「僕……です」
「だったら責任を全うしなさい!」
挑発的な瞳が僕の顔に急接近する。その大きさに吸い込まれそうになり、僕は鼻息がひどくなるのを必死に堪えた。
「彼氏に最高のプレゼント贈るんだから。あんたも協力しなさいよ」
僕がこくこくと頷くと真帆の手が僕の服から離れる。首根っこを押さえられた僕は小さくむせた。相変わらず乱暴だなぁと思いつつ、彼女が絡んでくれることがちょっとだけ嬉しくもあったのは僕の胸にだけに留めておこう。
彼氏持ちでクラスでも人気の高い真帆が僕に絡んでくるのは単純に幼馴染だから――というより、都合のいいパシリだから、なんだと思う。そして僕は惚れた弱みで逆らえない。
真帆は小学生の頃、僕の家の隣りに越してきた。
初めて真帆を見た時、おとぎ話のお姫様のような顔立ちに僕はたちまち恋に落ちた。ほとんど一目ぼれだったと思う。わがままでちょっと性格はきついけど、それも彼女の個性なんだと思うとそれも可愛く思えるから不思議だ。、
真帆に気に入られたくて、僕は真帆の好きな物、興味の引きそうなものを誰よりも先に見つけた。もちろん、真帆が嫌がることは絶対にしなかった。小学生にして肥満の烙印を押された僕は真帆に少しでも恰好よく見られたくてダイエットも始めた。
そのほとんどは好意的に受け止められたけど一つだけダメ出しされた。真帆にダイエットなんかするなと言われてしまったのだ。
痩せたらアンタはアンタじゃない。太ったアンタだからみんなイジって相手にするんじゃない。デブだって個性よ。もっと私や周りを楽しませなさいよ。
それを聞いた時、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。太っているのは僕にとってマイナスのイメージしかなかったからだ。
その一件以来、僕は真帆の言いつけをずっと守っている。それを破ったら最後、真帆は俺の元から離れていくだろう。
そんなのは耐えられない。彼女を失う恐怖を味わうぐらいならば、俺はこの立場を甘んじて受けるつもりだ。たとえ周りに笑われ続けても。僕は真帆のために道化師で居続けるつもりだ。
「ほら行くよ」
犬の散歩を促すかのように真帆は言う。
リードを引かれた僕はこっそり笑みを浮かべると、彼女の背中を追いかけた。
美女と野獣? な立場の話。
「そんな薄着で寒くないの?」
僕は痛さを堪えて顔を上げる。極寒の空の下で美少女が眉間に皺を寄せていた。真帆だ。
「そんなトコにいると風邪引くよ」
不機嫌そうな顔で彼女は言うと、もう一度僕を蹴飛ばす。彼女の言葉が行動と伴わないのはいつものことだ。それに彼女は優しい。今だって僕が風邪をひかないか心配してくれている。
だから僕は心配ご無用と笑った。
防寒対策はしっかりしている。高性能のインナーに腰を冷やさないためのカイロ、靴下は二重に履いている。それに何より僕には贅肉という素晴らしいスペックがある――なんて思った所で自分がちょっとだけ悲しくなった。
僕は頭をかくと、真帆を改めて見上げた。そっちこそ寒くないの? と聞かずにはいられない。
制服のブラウスの上に羽織っているざっくりニットは風をよく通しそうだし、膝上スカートからすらりと伸びる生足が悩ましい。北風に煽られないよう、彼女の両腕はプリーツを抑えるのに必死、というかもの凄く寒そうだ。
女子って大変だなぁ。防寒よりお洒落優先で。
その手がなければ絶景が見えるのになぁ。
僕は不謹慎なことを思いつつ。真帆に何の用? と問い返す。
「何の用? じゃないでしょ。今日先輩の誕プレ買いにいくって言ったでしょ」
「それって僕も一緒?」
「当然でしょ。『あの』お店に私一人で行けっていうの?」
真帆は苛ついたような声を上げた。おもむろに胸ぐらを掴まれる。
「先輩がプロレス好きだって言ったのは誰よ。レアな覆面を売ってる怪しげなお店教えてくれたのは誰?」
「僕……です」
「だったら責任を全うしなさい!」
挑発的な瞳が僕の顔に急接近する。その大きさに吸い込まれそうになり、僕は鼻息がひどくなるのを必死に堪えた。
「彼氏に最高のプレゼント贈るんだから。あんたも協力しなさいよ」
僕がこくこくと頷くと真帆の手が僕の服から離れる。首根っこを押さえられた僕は小さくむせた。相変わらず乱暴だなぁと思いつつ、彼女が絡んでくれることがちょっとだけ嬉しくもあったのは僕の胸にだけに留めておこう。
彼氏持ちでクラスでも人気の高い真帆が僕に絡んでくるのは単純に幼馴染だから――というより、都合のいいパシリだから、なんだと思う。そして僕は惚れた弱みで逆らえない。
真帆は小学生の頃、僕の家の隣りに越してきた。
初めて真帆を見た時、おとぎ話のお姫様のような顔立ちに僕はたちまち恋に落ちた。ほとんど一目ぼれだったと思う。わがままでちょっと性格はきついけど、それも彼女の個性なんだと思うとそれも可愛く思えるから不思議だ。、
真帆に気に入られたくて、僕は真帆の好きな物、興味の引きそうなものを誰よりも先に見つけた。もちろん、真帆が嫌がることは絶対にしなかった。小学生にして肥満の烙印を押された僕は真帆に少しでも恰好よく見られたくてダイエットも始めた。
そのほとんどは好意的に受け止められたけど一つだけダメ出しされた。真帆にダイエットなんかするなと言われてしまったのだ。
痩せたらアンタはアンタじゃない。太ったアンタだからみんなイジって相手にするんじゃない。デブだって個性よ。もっと私や周りを楽しませなさいよ。
それを聞いた時、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。太っているのは僕にとってマイナスのイメージしかなかったからだ。
その一件以来、僕は真帆の言いつけをずっと守っている。それを破ったら最後、真帆は俺の元から離れていくだろう。
そんなのは耐えられない。彼女を失う恐怖を味わうぐらいならば、俺はこの立場を甘んじて受けるつもりだ。たとえ周りに笑われ続けても。僕は真帆のために道化師で居続けるつもりだ。
「ほら行くよ」
犬の散歩を促すかのように真帆は言う。
リードを引かれた僕はこっそり笑みを浮かべると、彼女の背中を追いかけた。
美女と野獣? な立場の話。
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プロフィール
HN:
和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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