2014
藤木ちゃんはクラスでちょっと浮いている。そのふわっとした外見と一風変わった言動から女子たちの間では「不思議ちゃん」と呼ばれていた。もちろん、本人を目の前にして言う事はない。ガールズトークの時隠語として出すのだ。
「藤木ちゃん」
その日の放課後、王様ゲームで負けた私は彼女の席に近づき声をかける。彼女が読みかけの本を広げたまま顔を上げた。
「……何?」
ぼんやりとした返事に私は愛想笑いをする。王様からの指示は不思議ちゃんの好きな人を聞くこと。あとでネタにしてからかおうって魂胆なんだろうけど無茶ぶりもいい所だと思う。
でもこれができないと、私は自分の恥ずかしい秘密を暴露しなきゃならない。だから私は変に思われても果敢に挑むしかないのだ。
「えーと。藤木ちゃんは好きな人いる? 例えば――イチゴとか。イチゴのこと、どう思ってんの?」
「イチゴ?」
「そう。好きなの?」
「イチゴは好き」
「ホント?」
「沢山のってるショートケーキとか、ジャムとか好き」
「いやいや。そうじゃなくて」
私はがっくりとうなだれる。掌で顔半分を覆い、ごめん、と言葉を続けた。
「色々説明が足りなかったね。イチゴってのは果物じゃなくて――」
私はちらりと黒板の方を見た。男子が数人、箒でチャンバラごっこをしている。そのうち小柄でぎゃあぎゃあわめいてる男子が私が言っていたイチゴ――庄司一悟だ。
「藤木ちゃん、最近一悟とよく喋ってるでしょ? 仲がいいなぁって思って」
「そう?」
「藤木ちゃんは一悟のことどう思う? その、恋愛対象として見れるかなって話なんだけど」
「レンアイタイショウ……」
不思議ちゃんは一悟の顔をじっと見る。そのあと不機嫌そうな顔でこう言った。
「イチゴは好きだけど――イチゴは嫌い」
「え?」
「大好きだけど、大嫌い、な人」
不思議ちゃんは開いていた本を乱暴に閉じる。突然帰り支度を始め席を立った。
すれ違いざま、彼女の耳が赤くなっていたことに気づく。
え? 何今の。イチゴが好きでイチゴが嫌い――?
「一体どっちよ」
私は思わず言葉を落としてしまった。